「脱炭素の体育祭を開きます。使用済み天ぷら油を燃料にして発電し、電源として使います」。自由の森学園(埼玉県飯能市)の生徒から案内が届きました。聞けば、2000年代から脱炭素の取り組みを始め、持続可能な開発のための教育(ESD:Education for Sustainable Development)を実践しているとのこと。6月4日、体育祭の開かれた同校を訪ねました。
点数による序列づけ排除 「自由」を考える生徒
自由の森学園は1985年の設立です。人間本来の学びを体得できる学校をめざし、試験の点数などで序列づける競争原理を排しています。通知表は各科目の教師が生徒の所見を文章にしたためて渡します。敷地内に寮があり、全国から生徒が集まっています。髪形は自由で、制服はなし。特段の校則もありません。生徒が自分で「自由」について考え、行動することを求める学校です。


体育祭の電力 全て使用済み天ぷら油を活用
西武鉄道の飯能駅から車で20分。山々に囲まれたキャンパスで体育祭が開かれていました。今回、放送や音楽といった体育祭で使う電力はすべて、使用済みの天ぷら油を原料とした高純度バイオディーゼル燃料(BDF)で発電することを生徒が発案しました。当日回収した使用済み天ぷら油は、生徒宅から約52㍑。これとは別に食堂からも提供されました。BDFは廃食用油や植物油を原料とする軽油の代替燃料です。脱炭素化に向け、期待されています。

呼びかけた高校3年の山田陸さん(17)は、授業で海岸清掃に従事する人を知り、プラスチックごみなどの環境問題に関心を持ってきました。「天ぷら廃油を日常的に使うサイクルを学校で採り入れたい」と抱負を語りました。高校1年の足立結さん(15)は、昨年まで独デュッセルドルフで暮らしていました。「ドイツはスーパーや飲食店でも環境重視が徹底されており、日本との違いを痛感します。体育祭はリハーサルも含め、全電力を使用済み天ぷら油のBDFで対応しました」。


ESD教育 授業と学校運営の両面で実践
ESD教育を掲げる自由の森学園は、農業や林業、地域でのフィールドワークを選択授業とする一方、環境に配慮した学校運営を進めてきました。体育館の暖房機器(重油ボイラー)が壊れると、間伐材を砕いて成型した「木質ペレット」を燃焼させるバイオマスボイラーを導入しました。2014年から再生可能エネルギーによる電力を採用。いまは、再エネ主体の電力会社「みんな電力」と契約し、校舎屋上にはソーラーパネルを設置しています。公用車(ワゴン車2台)もBDFを燃料とするものに転換しました。食堂の廃食用油を業者が引き取り、そこからBDFを購入しています。寮の暖房機器は、地元の製材端材を使った薪(まき)ボイラーに切り替え、エネルギーの地産地消に一役買っています。

地域のつながりと震災「脱化石燃料」の発想へ
なぜ、ここまでエネルギーにこだわっているのでしょうか。
「発足当初は、地元で林業を学ぶなど、地域とのつながりを最も重視しました。地域の方々に学校を理解してもらう必要あったからです。当初からエネルギーに特段のこだわりがあったわけではありません」と、鬼沢真之理事長は話します。その後、2011年の東日本大震災を機に学校の使うエネルギーを問い直し、さらに、脱炭素の潮流が自分たちの背中を後押しした、と言います。食堂のプロパンガスを再生可能エネルギー由来のものに切り替えれば、カーボンニュートラル(温室効果ガスの実質排出ゼロ)が達成できるところまできました。
「持続可能性を追求することは教育機関の倫理だと思いますが、生徒にそれを押しつけることはしません。ここで学んだことが、生徒の人生に役立つのであればうれしい限りです」
社会科の教師として長年、教壇に立ってきた鬼沢さん。体育祭で校庭を駆け回る生徒を見るまなざしは、どこか穏やかでした。