SDGsの実践に向けて①~SDGsの本質を捉える

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SDGsが2015年に国連加盟国の間で合意されて以来、日本においても政府、自治体、企業、市民社会、教育・研究機関などのさまざまな主体や場で、SDGsに関する取り組みが広がっています。そこでこのコラムでは、SDGsの世界観や特徴は何か、SDGsを実践するために何が必要かについて、改めて考えていきたいと思います。

 
まず、SDGsが合意された時代背景について考えてみます。大事な点の1つ目は、2015年までの達成を目指したミレニアム開発目標(MDGs:2001-2015)の時代と比較して、世界が直面する問題や課題が大きく変化していることを理解しなくてはなりません。MDGsが採択された2000年は、貧困、飢餓、HIV/AIDS、南北問題、債務危機、紛争、衛生、水問題、非識字、教育の質と男女格差などが問題や課題でした。しかし、SDGsが採択された2015年では、貧富格差、気候変動、自然災害、肥満、生物多様性喪失、エネルギー問題、ガバナンス、高齢化などの問題や課題に直面しています。このように、今日の社会状況はMDGsの採択時と大きく異なることを認識する必要があります。

 
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2つ目は、VUCA(Volatility、Uncertainty、Complexity、Ambiguity)への対応が求められている点です。VUCAとは、変動性、不確実性、複雑性、曖昧性の高い状況を意味します。VUCAは、現代社会が既存の枠組みでは捉えづらいことを象徴しています。VUCAの環境下では、既存の枠組みにとって未知な状況がどんどんと生じ、これまでの延長線上では予測できません。現代の社会課題は、分野を超えて影響しあったり、多様な要素が関係しており、かつて効果的だった解決策では対応ができなかったりするので、「複雑な問題」となっています。

 
今日では、この「複雑な問題」に対して、単独の分野や専門領域で取り組むことがますます難しくなっています。それをいくつかの要素に分解して、それぞれシンプルな問題として理解し解決していこうとしても、抜け落ちてしまうことが多く発生してしまうからです。これからは、常に変化しつつある環境の中で、多角的に物事をとらえ、様々な要素を統合的に捉え、状況に応じていく必要があります。SDGsは、この「複雑な問題」への対応(テーマの統合性・同時解決性)を目指しているのです。

 
つぎに、SDGsが持つ世界観について考えます。そこには、世界人口が、2050年に98億人に達するという予想を踏まえ、“地球の限界”(planetary boundaries)への配慮を求める「地球惑星的世界観」があります。さらに、“誰一人取り残さない” (no one left behind)という、人権と参加原理に基づく「社会包容的な世界観」、そして“世界の変容”(transforming our world)という、異なる未来社会を求める「変容の世界観」もあります。つまりSDGsは、これらを“共有された責任”としての対応(万国・万人に適用される普遍性・衡平性)を求めているのです。

 
では、このような、SDGsの時代背景、世界観を踏まえて「SDGsを実践」するとは、どんなことでしょうか。「SDGsの実践」には、次の5つの段階があると言えます。

 
第1段階: 「SDGsに対して知識もなく、関心も薄い」(SDGsとの接点のない生活)
グローカルな文脈において「貧困・社会的排除問題」や「地球環境問題」の実態を知らず、関心も薄い段階です。まだ、大半の人や組織がこの段階にあるといえます。

 
第2段階: 「SDGsについて関心をもち、一通りのことを学ぶ」(SDGsへの関心と理解)
SDGsの個々の目標、基礎的な知識、世界観や特徴を学習する段階です。様々な理由で、「SDGsとの接点のない生活」をしている人や組織が、SDGsに関心をもち、理解を深め、これからの社会のことを話し合う機会をつくることが重要になるでしょう。そして、問題意識を共有する仲間ができることで、SDGsの活動へ参加しやすくなり、さまざまな活動を通してSDGsへの関心と理解がさらに深まることになるでしょう。一歩踏み出した人や組織がこの段階にあるといえます。

 
第3段階: 「SDGsの複雑性を理解する」(SDGsにおける複雑性の発見)
国連は、SDGsの達成に重要なのは、「その目標間の相互関連性および統合された性質」だと指摘しています。SDGsの個々の目標の背景には複雑な要因があり、相互に影響しあっていることを理解する段階です。この指摘を踏まえると、「自分や所属する組織はこうだから」「他者・他国は関係ない」「ほかの問題は関係ない」という対応では不十分で、様々な事象を多様な視点や視座から捉え直し、統合的に捉え、自分事としてこれまでの取り組みを再検証し続けていく姿勢が求められます。

 
第4段階: 「SDGsの複雑性を理解したうえで、自身や所属する組織なりの解決策や行動指針を見いだし行動する」(SDGsの複雑性に取り組む個人や組織の行動)
国連の指摘(目標間の相互関連性および統合された性質)を踏まえると、自身や所属する組織として、「私」の取り組みを深める際に重要なのは、世界や社会ニーズにあわせた目標設定をすること、外部の視点から必要な目標設定(アウトサイド・イン)をすること、実施する取り組み全体に「持続可能性」を組み込むことです。SDGsは、世界共通の開発目標で、さまざまな取り組みを進めるうえで、重要な共通言語となります。SDGsをツールとして生かすことで、これまで別々に取り扱われてきた問題や課題を関連づけ(統合的)、問題・課題の原因や関係を捉え直し(批判的)、グローバルな文脈・ローカルな文脈で意味付けながら(文脈的)、関わる個人、組織、社会の変容を促す(変容的)ことが可能になります。

 
第5段階: 「自身や所属する組織だけでは問題解決ができないことを認識したうえ、統合的な問題解決にむけて、多様な主体の力を持ち寄る協働をすすめる」(SDGsの複雑性に取り組む私たちの協働:ソーシャル・プロジェクト)
ここで重要なのは、個人や組織の対応力を高めるだけでなく、その対応力を使える環境や支えてくれる人たちが大切になる点です。問題が起きるのも、解決するのも、誰か特定の人の責任という自己責任論を超え、問題が起きづらい構造、起きても対応できる構造(社会生態系の構築)を整える必要があります。SDGs第17目標でも指摘されているように、多様な主体の力を持ち寄る協働(マルチステークホルダー・パートナーシップ)を通して、「私たち」の取り組みを深め、社会全体の問題対応力を高めること(社会生態系の構築)が重要です。

 
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このように、今日の「SDGsの実践」を5つの段階で見てみると、一歩踏み出した取り組みを加えたとしても第2段階(SDGsへの関心と理解)までが多いように思います。これを、第3段階(SDGsにおける複雑性の発見)、第4段階(SDGsの複雑性に取り組む個人や組織の行動)、第5段階(SDGsの複雑性に取り組む私たちの協働:ソーシャル・プロジェクト)へといかに発展させていくかが、今後「SDGsの実践」を拡充するうえで重要です。

 
そして、忘れていけないのは、SDGsの本質は、採択文書のタイトルに明記されているように、“我々の世界を変えること”(transforming our world)です。SDGsの17目標の達成のみを考え、行動するだけでは、社会の変容にはつながりません。そのためにも、SDGsの個々の目標に対応する発想から(個別目標としてのSDGs)、SDGsどうしの関係性と複雑性に気づき(円環としてのSDGs)、さらには、動的で包括的な問題解決に向けた“力を持ち寄る協働”(統合的問題解決に向けたスパイラルとしてのSDGs)への発想の転換が求められています。もはや、SDGsの本質に向き合う、待ったなしの時期を迎えているのではないでしょうか。

 
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(動的で包括的な問題解決に向けた、スパイラルとしてのSDGsへ)

  • writer佐藤 真久(さとう まさひさ)

    東京都市大学大学院 環境情報学研究科 教授

    英国国立サルフォード大学にてPh.D取得(2002年)。地球環境戦略研究機関(IGES)の第一・二期戦略研究プロジェクト研究員、ユネスコ・アジア文化センター(ACCU)の国際教育協力シニア・プログラム・スペシャリストを経て、現職。現在、SDGsを活用した地域の環境課題と社会課題を同時解決するための民間活動支援事業委員長、国際連合大学サステイナビリティ高等研究所客員教授、UNESCO ESD-GAPプログラム(PN1)フォーカルポイント、認定NPO法人ETIC.理事、責任ある生活についての教育と協働(PERL)国際理事会理事、JICA技術専門委員、IGESシニア・フェローなどを兼務。著書に「ソーシャル・プロジェクトを成功に導く12ステップ」(佐藤真久・広石拓司共著)ほか。

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