化石燃料からの脱却。自然エネルギーがもたらす地域社会の未来を考える

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2011年3月に起きた東日本大震災による福島第一原子力発電所事故をきっかけに、国内で急速に出てきた脱原発の動き。その有力な代替エネルギーとして、自然エネルギーが注目されました。

 
世界の多くの国ですでに基幹電源となりつつある自然エネルギー。ところが、日本ではあまり浸透していません。さらに政府が2030年までに掲げた22~24%の電源を自然エネルギーでまかなうという目標も、多くの先進国と比べると前向きなものとはいえないかもしれません。

 
なぜ、日本では自然エネルギーへの取り組みが遅れているのでしょうか。自然エネルギーの基礎的な知識をはじめ、日本が抱える課題、自然エネルギーを導入するにあたってどのようなメリットがあるのか、公益財団法人「自然エネルギー財団」(会長・孫正義ソフトバンクグループ代表)の事務局長・大林ミカさんにお聞きしました。

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公益財団法人自然エネルギー財団の事務局長
大林ミカさん

2011年8月、自然エネルギー財団の設立に参加。財団設立前は、アラブ首長国連邦の首都アブダビに本部を置く「国際再生可能エネルギー機関(IRENA)」で、アジア太平洋地域の政策・プロジェクトマネージャーを務めていた。1992年から1999年末まで原子力資料情報室でエネルギーやアジアの原子力を担当、2000年に環境エネルギー政策研究所の設立に参加し、2000年から2008年まで副所長。2008年から2009年までは駐日英国大使館にて気候変動政策アドバイザーを務めた。2017年、国際太陽エネルギー学会(ISES)よりグローバル・リーダーシップ賞を受賞。

自然エネルギーとは?その種類、特徴

―― 石油など有限と言われる化石燃料に代わるものとして、自然エネルギーの普及・開発は国内のみならず世界中の大きな課題として注目されています。具体的に自然エネルギーとは、どのようなものがあるのでしょうか。

 
大林ミカ(以下、大林) 自然エネルギーとは、再生可能エネルギーとも言われ、使い続けても枯渇することがなく、なおかつ自然に存在する資源のことを指します。電気やガス、石油などのエネルギー供給事業者に対して原子力や化石エネルギーの有効的活用法を促進する「エネルギー供給構造高度化法」という法律も制定されているのですが、その中で再生可能エネルギーは以下のように定められています。

 

再生可能エネルギー(自然エネルギー)とは?
太陽光、風力その他、非化石エネルギー源のうち、エネルギー源として永続的に利用することができると認められるものとして政令で定めるもの
(出典:経済産業省資源エネルギー庁『なっとく!再生可能エネルギーとは』より

 
実際にさまざまな資源がありますが、その中でも代表的なものとして、太陽光、風力、水力、地熱、バイオエネルギー、海洋の6種類が再生可能なエネルギーとして注目されています。

 
電力調達ガイドブック | 自然エネルギーの電力
(出典:公益財団法人自然エネルギー財団『自然エネルギーの電力を増やす企業・自治体向け 電力調達ガイドブック』より

 
―― そもそも再生可能エネルギーが議論されるようになったのは、いつ頃からなのでしょうか。

 
大林:代替エネルギーとして一般的に広く注目されるようになったのは、1970年代の石油ショックのあたりからですが、研究そのものはもっと古くから続けられてきています。

 
1990年代より気候変動・地球温暖化が地球規模の深刻な環境問題として議論される中で、石炭を中心とする化石燃料の利用を減らして、人間活動から発生する温室効果ガスをいかに削減し、地球の温度上昇を食い止めるかが、大きな課題となっています。

 
エネルギー生産には、自然エネルギーのほか、石炭やガスや石油の化石燃料、そしてウランを利用する原子力の三つがあります。すでに化石燃料については、国際的なエネルギーの専門機関「国際エネルギー機関(IEA)」などが、気候変動の不可逆的な影響を避けるためには、採掘可能な化石燃料の三分の二は、「採掘してはいけない=利用してはいけない」と警告し、各国で石炭離れが始まっています。また、原子力についても、チェルノブイリや福島原発事故の影響だけではなく、放射性廃棄物の処分場が見つかっていないこと、安全性の問題、建設コストの上昇などから、導入が滞っています。

 
気候変動問題や、エネルギーの環境に与える影響を考えるなら、エネルギーの利用を減らす省エネルギーやエネルギー効率化とともに、自然エネルギーの利用しかないのです。

 
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―― 自然エネルギーの導入で何が変わりますか?

 
大林:自然エネルギーのメリットは、大きく6つあります。

 

1.エネルギー源が枯渇しない
2.化石燃料を活用した火力発電や、原子力発電のように二酸化炭素や放射性廃棄物を排出しない
3.燃料そのものが不要である
4.基本的に燃料に費用がかからないので、ほぼ初期投資のコストのみで運転でき、技術革新により、世界各国で最も安価なエネルギーとなった
5.化石燃料やウランのように資源が偏在しないため、資源をめぐる争いがなく、ほとんどどの国でも利用が可能である
6.地域にねざした分散型の利用となる

 
自然エネルギーは、気候変動対策としてだけではなく、地域の経済社会の仕組み、ひいては世界の地政学すら変える可能性があるエネルギーです。

 
―― 分散型エネルギーとは、どういうことですか。

 
大林:ひとことで言えば、利用の規模が小さく各地に分散するエネルギー、ということです。原子力や火力発電の設備は、大きなエネルギーを提供できる一方で、分散して建設することはできないし、一箇所で大きく発電して、大量消費地に一気に送る、ということになります。太陽光で大きいといわれる「メガソーラー」でも、原子力や火力の1,000分の1の規模です。

 
分散型エネルギーは、各地域で発電所の建設が可能となり、市民が主体となって、投資や建設に参加することも可能です。そして、地域ごとに発電所が増えていけば、その地域での雇用が増え、これまで地域外から購入していたエネルギーを地域で創ることができ、地域経済の活性化に寄与することができます。

日本国内の地域をみてもこういった効果がありますが、国レベルでみると、海外からの輸入に依存していたエネルギー利用を、国内で賄う国内経済の活性化と、なによりエネルギー安全保障の確立につながります。

 
特に途上国では、国家予算の多くを化石燃料の輸入に費やしていたり、また、多くの国が貧困層のエネルギーアクセス問題を抱えています。自然エネルギーは、国家経済の改善に貢献し、送電網などのインフラが整う前にもすぐに導入することができるので、貧困の解決や、化石燃料からの脱却による環境保全にもつながります。

 
またレジリエンス(回復力、復元力という意味)という観点からも、分散型の自然エネルギーは優れています。1箇所に集まる集中型エネルギーの場合、常に、事故や自然災害でシステム全体が一気に落ちる可能性を考えなくてはなりません。その影響力は、大変大きなもので、それをカバーするために、電気事業者は、大きなコストをかけているのです。

 
一方で分散型エネルギーの場合、ひとつ落ちたとしてもすぐにほかの発電所がカバーできる体制が整えられます。近年、気候変動が進み、自然災害への対応が吃緊になっていますが、緊急時に柔軟に対応できるという点も、分散型エネルギーの大きな特徴と言えるでしょう。

 
―― 自然エネルギーは、地域社会の仕組みそのものを変えられる可能性もあるということですね。

世界と比べて低い、日本での普及率

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(デンマークの首都、コペンハーゲン沖にあるミドルグルンデン洋上風力発電所)

 
―― 日本では2011年に東日本大震災と福島原発事故が起こり、原子力発電が停止、電力政策の見直しを迫られました。その後、政策が導入され、自然エネルギーも伸び始めていますが、実際に現在の日本での普及率はどのくらいなのでしょうか。

 
大林:2018年10月の日本国内の自然エネルギー電力は、水力を含めて16%程度です。国外をみると、たとえば、自然エネルギーへのシフトを国が率先して推進してきたデンマークでは、2016年の時点で発電で51.8%に達し、2050年には100%自然エネルギーを目指しています。またドイツは2018年には42%に達しており、2030年には65%まで引き上げることを決めています。水力などの利用が可能という利点もあって、ノルウェー、オーストリア、ニュージーランド、アイスランド、コスタリカなど、すでに100%、あるいはほとんど100%自然エネルギーに達している国もあります。他にも多くの国が、少なくとも電力については、100%自然エネルギーを目指しています。こうした国々の実績と比較すると、足元では自然エネルギーは増加しているものの、日本政府が掲げているのは2030年までに22〜24%と、低い目標です。

 
―― このヨーロッパと日本の自然エネルギーに対する理解、推進力の差は、何が原因なのでしょうか。

 
大林:まず、大きな壁となっているのは政策の整備の遅れです。日本では自然エネルギーを効率的に利用するための電力市場や送電網の運営規則が、まだ整っていません。また、自然エネルギーのコストが他国に比べて大変高いのですが、これは建設を効率的に行うための技術が、まだ未熟であるということが原因に挙げられます。日本では、自然エネルギーの本格的な商業利用は震災以降に始まったと言ってよく、今後、コスト削減のための技術や政策のイノベーションが期待されています。

 
日本では、2012年に「固定価格買取制度」が導入され、自然エネルギーの本格導入が始まりました。この制度は、「自然エネルギーで発電した電気を一定価格で一定期間買い取る」という制度です。自然エネルギーは、基本的に燃料費がかかりませんし、燃料の調達が変化することもないので、一定した価格で買い取りが保証されることで、安定した事業を展開することができるのです。

 
また、補助金と違って設備への補助ではなく、発電した電力に対する保証なので、発電すればするほど利益を得ることができ、より効率的に発電するための技術革新が進みます。まず米国で80年代にこの制度の原型が導入されてから、世界各国でさまざまな形で導入され、自然エネルギーの大きな起爆剤となってきました。こういった制度が、将来の国の野心的な目標値と一緒に導入されることで、投資家や企業が、安心して自然エネルギーの技術開発や事業展開に取り組むことができ、競争が起こり、コストが下がり、導入量が拡大していくのです。

 
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(太陽光を電気に変える技術は、ここ数年の間に大きく進化。よりコンパクトな設備でも生活に必要な電気量は十分にまかなえるようになったことから、太陽光エネルギーは一気に身近なものになった)

 
―― 欧米と同じように、政府の力によるものも大きいと思いますが、そのほかにも自然エネルギーが急速に普及し始めている要因はありますか?

 
大林:なによりもコストが下がっていることが拡大の一番大きな要因です。技術の進歩が、自然エネルギーのコスト低下の大きな後押しとなっています。また、太陽光はここ10年で8割もコストダウンし、今後5年でさらに6割コストが下がる、と予測されています。太陽光や陸上風力はすでに世界の多くの地域で最も安い電源となっています。洋上風力や集光型の太陽熱発電など、これまで高いと思われていた電源もどんどんコストが下がり、市場で競争しています。また、IT技術の進捗によって、太陽光や風力など発電が変動する自然エネルギーの電力市場への統合が容易になりました。

 
技術と政策の両方のイノベーションが、自然エネルギーの拡大を加速させています。日本国内でも自然エネルギーの拡大が進み、変革が起き始めています。この流れをさらに加速させるためにも、まだまだ改善しなければいけない法整備を進めていくと同時に、電力の利用側、特に企業との連携も重要なポイントになってくると考えています。

SDGsの選択肢としての自然エネルギー導入

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―― 企業が自然エネルギーを導入する上で、どのようなメリットが考えられますか。

 
大林:企業活動へのプラスの効果が生まれます。自然エネルギーの導入に積極的に取り組んでいる企業は、企業活動そのものが社会貢献につながることになります。自分たちが働く活動を通して、自然エネルギーを増やし、環境に貢献できる、これは社員個々にとって働く意義を問う、大きなモチベーションとなるはずです。

 
また、世界的な動向では、投資家はSDGsが掲げる持続可能な社会づくりに寄与する企業を高く評価する傾向にあり、企業評価が高まります。いまや、SDGsへの取り組みは、経営レベルで企業のミッションにもなっています。その選択肢のひとつとして、自然エネルギーを選択することは、企業経営にとっても実質的なメリットとして注目されています。

 
実際にアップル社やグーグルは、電力を100%自然エネルギーにシフトし、さらに自社のサプライチェーンの100%自然エネルギー化を目指しています。エネルギーがグリーンでなければ、こういった大企業のサプライチェーンから外される可能性も出てきているのです。逆にいえば、グリーンなエネルギーを使っている企業は、高く評価される、と言うことです。

 
アップル社やグーグルは、発電側に直接投資をしてその電力を長期にわたって購入する「PPA(電力購入契約)」という方法を使っています。こういった取り組みをする企業は、電力を利用する消費側としての役割だけでなく、自然エネルギーに直接投資をして発電を拡大する、投資家としての役割も担っています。

 
日本では、企業が自然エネルギーを導入する際の市場の仕組みが整っていません。PPAは海外では一般的な方法ですが、日本ではまだ可能ではないし、二酸化炭素の排出に課金する本格的な「カーボン・プライシング」政策が導入されていないので、自然エネルギーを導入する環境メリットがありません。

 
しかし、日本の企業でもすでに自然エネルギー100%を達成するキャンペーン「RE100」への参加を表明している企業が出ています。また、わたしたち自然エネルギー財団がWWFジャパン(公益財団法人 世界自然保護基金ジャパン)やCDPジャパンと始めた気候変動イニシアティブは、脱炭素社会に向けたパリ協定の達成を後押しするためのネットワークですが、2018年7月の発足時には100社あまりだった参加団体が、2019年2月には340社以上に増えるなど、多くの賛同を得ています。こうした動きが、制度作りを後押ししていくことでしょう。

 
―― 再生可能エネルギーをはじめ、SDGsを企業理念に取り入れていかないと、将来的には企業活動そのものが持続できなくなる可能性も考えられるということですね。

 
大林:前述の気候変動イニシアチブは、日本がSDGsについて取り組まなければ、企業活動そのものが持続可能でなくなることを懸念した、日本の企業の動きが発端となっています。企業そのものが、国に対しても自らについても、気候変動への取り組みを積極的に行うよう求め、自ら行動する動きです。

 
自然エネルギーは、広く多くの人が携わることのできる分散型のエネルギーです。「太陽を巡る戦争はない」という言葉があります。自然エネルギーを基盤とした社会では、開放的で自由な文化が根付き、精神的な豊かさも育まれていくのではないか。持続可能な社会づくりという目的だけでなく、そうしたメリットも自然エネルギーにはあるのではないかと個人的には思っています。

 

公益財団法人 自然エネルギー財団
https://www.renewable-ei.org/
2011年、ソフトバンクの孫正義氏が設立。脱原発を標榜し、自然エネルギー(再生可能エネルギー)100%を目指して、研究機関の支援と科学的知見に基づく政策提言を行う。東日本大震災による福島第一原子力発電所事故を受け、政府に対して「再生可能エネルギーの固定価格買取制度」を強く提言し、制定を後押しした

 
<取材・編集>サムライト

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