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亡きあの人へ プリザーブドフラワーに感謝の気持ちを込めて

更新日 2022.02.03
目標3:すべての人に健康と福祉を
目標11:住み続けられるまちづくりを

花を供える。仏壇がある家庭では日常的な光景だ。しかし、年を重ねて外出が難しくなったり、花を売る近くの商店が閉店したりして、当たり前にできないケースが増えている。ご先祖様や故人に後ろめたい気持ちを抱いている人たちも少なくない。そんな悩みが解消でき、持続可能な感謝の伝え方として、手入れ不要で長期保存可能なプリザーブドフラワーの仏花に注目が集まっている。いつまでも忘れず、恩返ししたい――。コロナウイルス感染拡大の影響で外出する機会が減る中、純粋な思いは、途切れることなく続いている。


「あの世」でも多様化する価値観 納骨堂に仏花

札幌市の無職男性(70)は、国内の農園で作られた花材を使い、デザインなどにもこだわった日比谷花壇のプリザーブドフラワーを、お姉さんが眠る納骨堂に仏花として供えている。年間の多くが雪に閉ざされる北海道。お姉さんは生前、お墓参りで家族に負担を掛けたくないと話していたという。そのため、男性はお墓ではなく、屋内に遺骨を収蔵できる納骨堂を選んだという。

核家族化や埋葬への価値観の多様化に伴い、「先祖代々の墓」という考えを捨て、散骨や樹木葬などライフスタイルに合ったお墓を選択する人が増えている。納骨堂もそのひとつだが、それぞれのスペースが限られているほか、施設によってはお供えなどに関してルールもある。

男性は「生花は枯れるため、撤去しなければならない。さらに臭いなどで周囲に迷惑をかける心配もある。プリザーブドフラワーならばこうした心配はない。小さいながらも存在感があり、清楚(そ)なたたずまいも十分。天国の姉もきっと喜んでくれていると思います」と話した。大きさもちょうど収まったという。

愛知県豊明市の無職男性(62)は仏壇に生花をお供えすることが難しくなり、プリザーブドフラワーを仏花にしている。「近くの花屋が店を閉じてしまい、遠くまで買いに行くのが大変だった。ご先祖様は喜んでいるでしょうし、無精者にはありがたい」と話す。

「まちの花屋さん」が減少 生花が入手困難に

農林水産省園芸作物課が公表している「令和元年度花き産業成長・花き文化振興調査報告書」によると、百貨店や通信販売、道の駅など花を販売するさまざまな業態のうち、一般小売店が占める割合は1999年に61.2%だったが、2016年には43.0%に減少。これに対し、スーパーなどの大型店舗は増加傾向が進んでいる。

いわゆる「まちの花屋さん」がここ数年で姿を消している。そのため、生花を買うには郊外にある遠くのスーパーまで足を運ばなければならない状態が広がっている。また、高齢化が進み、足腰が弱くなったり、移動が難しくなったりして仏花を頻繁に買えない人も増えている。

色鮮やかな美しさ 手入れ不要で長期間

プリザーブドフラワーは、ドライフラワーや造花とは異なり、生花の状態で色と水分を抜き、特殊な染料を吸わせて加工したもの。直射日光やほこりには弱いものの、水やりなどの手入れの必要はなく、枯れたり、腐ったりする心配もない。鮮やかな色と、花が持つみずみずしさや優しい風合いを長期間にわたって保つことができる。

美しさをいかに表現するか。お供え用の仏花を扱う「日比谷花壇」(東京)では、その工程に妥協はない。兵庫県丹波市の大地農園が素材の花を担当し、そのうえで季節に合わせたデザインや色合いをアレンジして花材を組み合わせていく。丹精込めて作り上げたプリザーブドフラワーは、海外製品に比べ、より繊細な仕上がりになっている。


デザインを担当している日比谷花壇シニアデザイナーの来本曜世(くるもと・てるよ)さんは「花言葉にもこだわっています。例えば、春にはジニアで『絆(きずな)』『いつまでも変わらない心』を表現し、故人やご先祖様と春の訪れを感じながら、にこやかに対話するイメージを大切にしています」と話す。仏前では一般的に淡い色合いが多いが、あえて明るい雰囲気にしたという。


日比谷花壇シニアデザイナーの来本曜世さん

コロナウイルス感染拡大の影響で、多くの人々が不安や心細さが募る毎日を過ごしていた。そのため、夏に向けて、前向きな気持ちで故人と笑顔で対話することを願ったデザインを取り入れられている。例えば、菊やハスの中にあえて大きく開くダリアを配置して元気な印象を作ったり、繊細で淡い色合いの菊やラン、カーネーションを織り交ぜ、やさしい印象を表現したりしたという。

いずれも和洋を問わず、部屋に明るさと華やかさを添える仕上がりで、数シーズンは飾ることができる。


日比谷花壇日比谷店

今を生きる人々と、先人たちの懸け橋に

少子高齢化や核家族化が進み、自分の生き方や故人に対する考え方が多様化している。

自然にかえりたいという願いから海や山に散骨する人も増え、墓石の下に眠ることが必ずしも「あの世」ではなくなってきた。埼玉県越生町では、市民の要望もあり、全国で初めて「樹木葬」と「樹林葬」を一緒に合わせた「花木葬」の公共墓苑を設けた。先人たちが眠る見晴らしの良い高台は、いずれツツジの群生地になるという。

生花とは異なるプリザーブドフラワーを仏花として供えることに対し、違和感を覚える人が全くいないわけでもない。しかし、安らかに天国で眠るご先祖様や故人に対し、純粋な思いを伝えたいという気持ちは根強い。今を生きる人々と、安らかに眠る先人たちの懸け橋となっているプリザーブドフラワー。持続可能な社会を実現する第一歩は、思いやる気持ちを大切にする心の中で始まっているのかも知れない。

<WRITER>小幡淳一

■日比谷花壇のブリザーブドフラワーは朝日新聞SHOPで購入可能

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