飢餓や貧困、ジェンダー平等といったグローバルな課題の解決を掲げ、2030年までの達成を目指している国連の世界目標「SDGs」。そのSDGsを身のまわりの日常の中でカメラで捉え、多くの人々と共有することを目的とした「持続可能な開発目標(SDGs)学生フォトコンテスト2018」(主催:国連広報センター・上智大学)が、2018年5月10日から8月20日まで開催されています。
コンテストは2016年から始まり、2018年で3回目。1、2回目は応募対象を大学生、短大生、大学院生、専門学校生としていましたが、3回目はそこに高校生も加わり、より広い視野での作品が集まることが期待されています。
そこで今回の未来メディアカフェ(18回目)では、8月に応募締め切りが迫るコンテストに向け、有志の学生たちに写真撮影の魅力やSDGsの視点を学んでもらおうと、写真のプロを招いた学生向けの「フォト教室」を開催しました。2018年6月11日に、東京都千代田区の上智大学キャンパス内で行われたイベントの様子をレポートします。
日本国内の写真に絞ることで、身近な社会課題を見つめ直すきっかけに
(国連広報センター所長 根本かおるさん)
フォト教室は、国連広報センター所長の根本かおるさんの挨拶で幕を開けました。
「SDGs学生フォトコンテストは、2016年から行われているコンテストです。2016年は40か国を超える国から、2017年は70か国を超える国から作品が集まりましたが、今年はあえて『日本国内で撮った写真に限定する』という制約を設けました。これはなぜかと言うと、SDGsは決して開発途上国に限った問題ではなく、先進国を含めた課題であるということになかなか気づいてもらえない現状があるからです。
日本国内にも、使い捨てプラスチック容器の問題から子どもの貧困、シャッター商店街といった問題まで、SDGsに関わることは実はたくさんあります。今回のコンテストが、改めてそういった身近な問題に目を向けるきっかけになればいいなと思っています。皆さんの作品を見るのを楽しみにしています」
(朝日新聞社映像報道部 外山俊樹)
今回のフォト教室の講師を務めるのは、2008年から東京都写真美術館主催のフォトドキュメンタリー・ワークショップ講師も務める、朝日新聞社映像報道部の外山俊樹です。
「SDGsという今回のテーマを聞いたとき、すごく難しいお題だと思いました。ただ、昨年までは世界70か国を対象にしていたということですが、今年はライバルが日本国内のみになったので、入賞を狙えるよい機会だとも思っています。
よい写真というのは技術的に優れているだけでなく、必ず自分オリジナルの視点が入っているものです。SDGsというのは決して開発途上国だけの問題ではなく、人が行くところすべての問題のはずですから、ぜひ身近なところからそういった問題を見つけて写真で表現してください」と外山講師は呼びかけました。
(参加者の学生たちによる自己紹介の様子)
外山講師からのコメントのあと、参加者の学生たちが3~4名ずつ5つのグループに分けられ、それぞれ自己紹介を行いました。
参加した動機は「写真を撮るのが好きで、いつもとは違ったテーマに取り組みたかった」というものから「SDGsについて学びを深めたい」といったものまで、さまざまのようです。
若者のアイデアが、世界のさまざまな人たちを救う
(都立武蔵高校 山藤旅聞先生)
続いて、教育の場にSDGsの概念を取り込む授業をされている都立武蔵高校の山藤旅聞先生が、SDGsをどうやって自分たちの身近な社会課題として引き寄せるべきかを説きました。
「私は、高校の教師をしながらSDGsを日本に届ける活動をしています。これまでに人間が地球資源を大量消費、大量廃棄してきた結果、とうとう限界が近づいてきています。さまざまな社会課題をより多くの人々に自分ごと化して行動してもらうため、SDGsはよいきっかけだと思っています。
私が伝えたいのは、中学生・高校生・大学生といった学生が発信するのはとても重要であるということ。いま私は、高校生が出してくれたアイデアをまとめたアイデアブックを作って全国を回っているんです。一例を挙げると、その中にオーガニックコットンの切れ端を再活用して雑貨を作りたいというアイデアがありました。そこから生まれたのが、オーガニックコットンを使った生理用布ナプキンです。高校生が出してくれたアイデアなのですが、その布ナプキンをいまアフリカに送ろうと動いています。
世界に目を向けても、たとえばバリという国では、中学生がアクションを起こしたことが国中からビニール袋をなくすことにつながりました。学生の視点や意見が社会を変えたという事例が、世界にはたくさんあります。ぜひ今日は、皆さんが撮ってきた写真をブラッシュアップし、新しい視点を得るきっかけの日としてください」
写真を見せ合いながら、学生たちで作品をブラッシュアップ
(自分の写真の紹介と、それがSDGsのどの目標に関わる1枚であるかを発表し合う学生たち。最初は緊張した様子だったが、次第に、写真に対する意見が積極的に飛び交うように)
「SDGsフォト教室」は、グループごとのワークショップ形式で進行します。学生たちはそれぞれSDGsの1つ以上の目標をテーマにした写真を撮影してきており、まずはグループ内で各自の写真を共有し合いました。
(他の学生の写真に対する気づきや感想は、コメントを書き込めるテーブル「えんたくん」の上に次々と記載されていく。「どこに焦点を当てているかが明確」、「ホームレスの方を撮らせていただくのは大変だったのでは」といったコメントが並んだ)
学生たちは、同じグループの参加者の発表に対し、「これ、どうやって撮ったんですか?」、「このビルをあえて写真の中に入れたのはどうしてですか?」などと質問を出し合い、どうやったら、自ら設定したテーマを表現できる写真作品に仕上がるか、積極的なコミュニケーションをとっていました。
また、なかには大学生の参加者が高校生に対して「SDGsの中の『つくる責任 つかう責任』もこの1枚には関わっているんじゃない?」と、写真に新たな視点を織り込むような提案をするシーンも。
話し合いがまとまると、次はグループごとの発表です。
子どもの貧困から高齢化社会の問題まで、さまざまな社会課題を写した作品たち
(高校3年生の山口璃々さんの作品、「毎日みんなで『いただきます』と言えるために」)
高校3年生の山口璃々さんは、家の近所にあるという“子ども食堂”で撮影した1枚を発表しました。
子ども食堂とは、地域や自治体が主体となり、無料もしくは安い価格帯で子どもたちに食事を提供する食堂です。経済状況や家庭の事情で毎日、健康的な食事をとれない子どもたちに対するサポートのひとつの形として、近年、注目を集めつつあります。
山口さんの写真は、食堂で子どもたちに食事を提供するシェフの笑顔を写したもの。「近所に子ども食堂のようなコミュニティがないか探して、見つけられたので取材に行きました。SDGsの中では『貧困をなくそう』『すべての人に健康と福祉を』といった目標に関わる1枚かなと思います」。山口さんは語ります。
外山講師からは、「自分で見つけて足を運ぶ取材力が素晴らしい。子ども食堂というテーマなので、子どもたちの表情も写っているとよりよい写真になったと思います。ぜひ、これからもこの場所に通って撮り続けてください。いずれすごくいい写真が撮れると思います」というフィードバックがありました。
(高校2年生の阪元周さんの作品。同じグループの学生たちからは「映画のワンシーンのよう」「コントラストがはっきりしているので、キャッチー」といった感想が飛び出した)
高校2年生の阪元周さんは、近所の団地でのワンシーンを捉えたというモノクロの作品を発表しました。
エレベーターの前で若い女性が高齢者を介助しているこの写真。外山講師は「アルフレッド・スティーグリッツの『三等船室』という、近代写真を代表する作品を想起させる構図です。団地の均一な部屋の並びと、ふたりの人物とのコントラストが効果的ですね」とコメント。
加速する高齢化社会の中で、介護の問題や住み続けられる街づくりといった課題について考えさせられるような1枚となりました。
(高校3年生の森百合香さんの作品「いつまでも」。学生たちからは、背景のビルと水辺の自然との対比が効果的という意見が挙がった)
「国際的な報道写真の中には飢餓やジェンダー平等といった大きなテーマを扱ったものが多く感じますが、私たちが撮った写真は『住み続けられる街づくりを』をテーマにした、暮らしと直結している作品が多いなと思いました」と話したのは、「いつまでも」というタイトルの写真を撮影した高校3年生の森百合香さん。自分たちが生活する身近な場所にもSDGsにつながる光景は多くある、ということを再確認させられるような発表となりました。
外山講師からはまた、「テーマとして見せたいものはなるべく中央に置く」、「明と暗、自然と人工物などの対比を写真の中に作る」といった技術面でのアドバイスも。
(「初心者におすすめの一眼レフカメラは?」といった学生からの質問に答えるニコンの立木さん)
今回のフォト教室開催にあたっては、株式会社ニコンが一眼レフカメラを参加学生に貸し出してくれました。同社経営戦略本部CSR推進部の立木秀成さんからは、「ひと言で一眼レフと言ってもさまざまな機種があるので、お店に足を運んで手に馴染むものや、撮った写真を見てみて満足できるものを自分で選んでみてください」というコメントが寄せられ、参加者たちは皆、頷いていました。
写真というメディアには、たった1枚で問題提起をできる力がある
(ゴミ問題を扱った報道写真の1枚 Photo by Kadir Van Lohuizen)
フォト教室の最後には、外山講師が、実際にいま開催されている報道写真展で賞を受賞した国際レベルの報道写真を学生たちに紹介しました。
ゴミ問題や食糧問題、難民の様子などをストレートに写した作品を見せながら、「これを見せたのは、世界的な写真と皆さんの写真には共通性がある、ということを感じとってほしいからです。SDGsは世界のどんな場所にも存在しますし、写真というのは非常に力強いメディアなので、たった1枚でそういったさまざまな問題を表現する力を持っているんです」と訴えました。
(上智大学副学長 藤村正之教授)
フォト教室の最後に、会場を提供した上智大学を代表して、副学長の藤村正之教授があいさつし、「SDGsは17個の目標でできているので、人それぞれ関心を寄せる分野は違うと思います。日常の生活をいつもと違った視点で捉えると、それぞれが疑問を感じる社会課題も自ずと見えてくると思います」と述べて、イベントは幕を下ろしました。
今回のフォト教室は、参加学生たちにとって、自分の眼、そしてレンズを通して身の回りの社会を見つめ直す、よい機会となったようです。
「持続可能な開発目標(SDGs)学生フォトコンテスト2018」の募集期間は、8月20日(月)までです。社会課題に関心を持つ高校生や大学生、専門学校生の皆さん。ぜひこの機会に、若い視点で撮ったオリジナル作品を応募してみてはいかがでしょうか。
撮ってみよう!身近で見つけた日本のSDGs「持続可能な開発目標(SDGs)学生フォトコンテスト2018」
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<編集・WRITER>サムライト