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スポーツとアートが調和した豊かな表現世界 トップアスリートが自ら選ぶ「パラリンアートカップ」

2021.07.22
目標3:すべての人に健康と福祉を
目標10:人や国の不平等をなくそう
目標17:パートナーシップで目標を達成しよう

グランプリ・日本プロサッカー選手会賞「優勝」久野浩太郎(大阪府)作

「パラリンアートカップ」開催のきっかけは2016年、Jリーグのヴィッセル神戸でプレーしていた元日本代表の相馬崇人さんら有志が、「サッカー選手の力で、障害者が描く絵の存在を世の中に知ってもらえないだろうか」と所属する日本プロサッカー選手会に働きかけたことでした。それから5年、障害者アート(パラリンアート)を応援するアスリートの輪はバスケットボール、ラグビー、そしてプロ野球にまで広がりました。現役のトッププロ選手が試合や練習の合間に自らの目で作品を選ぶユニークなコンテストは、年に1000点近い力作を集め、障害者アーティストの社会進出の大きな一助となっています。

テーマはスポーツに関するものなら自由。スポーツ選手、応援するサポーター、スタジアムなどが、独特の感性で描かれます。その精巧な作風はときに見る人を圧倒し、アスリート自身が「自分たちはこんな風に見えているのか」と驚くほど。テーマもタッチも多種多様ですが、そこにはアーティストたちが置かれた環境や生い立ちからくる思いが込められています。コロナ禍で作品を募集した2020年の受賞者を訪ねました。

「賞を取ったと聞いても最初はピンとこなくて、淡々としていました」。初の公募でグランプリを射止めた大阪府の久野浩太郎さんは、ふだんお世話になっている人が喜ぶ姿を見て、受賞した実感がわいてきたと話します。

久野さんは小学生のころ、小児がんで入退院を繰り返しました。スポーツは不得手。でも美術の時間は集中することができ、写生画は校内の優秀作に選ばれるほどの技量でした。その頃から美術は得意という自覚はありましたが、実際に絵画に目覚めたのはこの5年ほど。発達障害で通う就労支援施設で絵に取り組みながら、画廊などで現代アートを見るようになりました。「教科書に載っているような絵は暗いけれど、いまのアートは明るい」と気づき、一気に創作活動にのめり込みました。

受賞作は、サッカースタジアムをゴール裏から見た写真と、選手が栄冠を勝ち取って喜んでいる写真から構図を練りました。観客に色とりどりの明るい服装をあしらうことで、青いシルエットで立ち上がる選手たちの姿を際立たせています。遠藤彰子審査委員長は「構図の面白さと、観客の姿が丁寧に描かれていて大きな可能性を感じる」と評価。Jリーグ選手が投票する日本プロサッカー選手会賞とのダブル受賞になりました。「今回の受賞作もまったく満足はしていません。独学なので、技術書を読んでひたすら描きこむしかない」と、毎日5時間から6時間、施設でペンを握ります。こだわりは人一倍。「絵は過去の嫌な思い出も忘れられる逃げ道であり、救い。そして周りも幸せにできるものだと思う」

準グランプリ「平和の燈」marumi(埼玉県)作

東京五輪・パラリンピックが予定されていた2020年と、実際に大会があった21年は五輪種目や障害者スポーツをテーマにした作品も数多く寄せられました。2年連続の準グランプリを受賞した埼玉県のmarumiさんは、19年はかつて自ら体験した馬術を、20年はもともとの五輪イヤーにふさわしい聖火リレーを描きました。「思ったままに描いているだけなので、それが評価されてうれしいです」。県内の画材販売店で働きながら、創作活動を続けています。

中学、高校は美術部で過ごしました。もともとコミュニケーションが苦手でしたが、発達障害からくる強迫性障害と診断されたのは、美術を専攻していた大学時代です。子どもの頃から長く親しんでいた絵にかかわりたいと、画材を扱う仕事を希望して現在の職に就きました。ただ3年目のいまも接客には不安がつきまとい、つらいことも多いと打ち明けます。

そんなときの救いになるのが、やはり絵画。色鉛筆、クレヨンなど身近な材料を重ねていく独特の画法で動物や海を描きます。「色使いが独特ね」と言われた、小学校時代の女性教師の言葉がいまでも励み。対象物を単体だけでなく、組み合わせて世界観を作り出すことも多く、受賞作も採火から点火までの聖火リレーの過程を自然に描いた点が高く評価されました。もとになったのは、2012年ロンドン五輪の開会式を見たときの感動。「聖火リレーを題材に、人と人との絆、そして、平和を願う気持ちを描きました」と控えめに話してくれました。これからも創作の幅を広げて、「いつか小さな個展が開ければ」というのが願いです。

ティンくん

高い集中力でたたきつけるように絵を描くさまはアスリートのよう。「(カヌー選手と水の)互いの力が拮抗しているような緊張感を生み出していて、しぶきのアクセントと青の調子の幅がとても美しい作品」と遠藤彰子審査委員長が評した2020年準グランプリ作の作者は、20歳になったばかりのティンくんこと落合里穂さんです。「相撲やフェンシングなど、人が描かない作品を描こうと思った」と、ちゃめっ気たっぷり。梅で知られる偕楽園(水戸市)の近くで両親、妹の3人と暮らしています。

16歳で高校に通えなくなり、自閉症スペクトラムと診断されました。打ち込むものを見つけようと、紙にボールペンで下書きをして描きはじめたアクリル画に夢中に。家で飼う犬をはじめ動物たちの絵を次々と仕上げていきました。「魂をこめて」と母の悦子さんが表現するように、一心不乱に絵を描くため、数時間が限度。受賞作も下書きをふくめて3日間、計10時間で描き上げたといいます。「人物は苦手。ひさしぶりに描きました」とティンくん。

取材当日はキリンの絵のTシャツ姿で迎えてくれました。訊けば、インスタグラムのフォロワーさんから贈られたというもの。1800人近くいるフォロワーにはティンくんの描く動物のファンが数多くいます。「これからもみんなと違う絵を描いて、人々に元気になってほしい」。いつか特大の100号キャンバスや、街の壁に思い切り動物たちを描くのが夢です。

本コンテストは今年も9月まで作品を募集中。詳細は公式サイトをご覧ください。https://www.asahi.com/sports/events/pacup/ 

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