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生と死。海、山、空、土、ミクロ、マクロ。人間と他の生物――。様々な存在の絡まり合いを表現していく アーティストの大小島真木さん

2020.09.11
目標7:エネルギーをみんなにそしてクリーンに
目標13:気候変動に具体的な対策を
目標14:海の豊かさを守ろう
目標15:陸の豊かさも守ろう
目標17:パートナーシップで目標を達成しよう
≪鯨の目≫ “Eye of whale” @ Maki Ohkojima in SPIRAL /wacoal art center. photo by Norihito Iki


世界中の海で気候変動や環境破壊が海洋に及ぼす影響を研究している、海洋科学探査船「タラ号」。科学者とともに、アーティストも乗船するユニークな取り組みを行っています。

2017年にはアメリカ・グアムから横浜まで、約2カ月半に及ぶ航海に、アーティストの大小島真木(おおこじま・まき)さんが参加しました。

一番の衝撃は、太平洋上での「白い鯨」との出会い――。そう明かす大小島さんに、タラ号での経験や、科学者らとの交流で生まれた作品秘話などについてお話を聞きました。

【タラ号についての詳しい記事は こちら

タラ号乗船アーティスト、大小島真木。タラ号が日本領海に入る時に、日の丸を掲げた©Sarah Fretwell / Fondation Tara Océan

2017年1月末、アメリカ・グアム。科学探査船「タラ号」の一員として、大小島さんの冒険が始まった。「タラ号」の海洋探査プロジェクトは、フランス人ファッションデザイナーのアニエスベーが、息子のエチエンヌ・ブルゴワと、2003年に共同創設。大小島さんは、友人の勧めで世界公募に応募し、気候危機に直面するサンゴ礁多様性やプランクトンを調査する太平洋プロジェクトに参加した。

大小島さんにとって、初めての海上での生活。試練はいきなりやってきた。ひどい船酔いだ。だが、しばらく経つと、不思議な体験をする。「面白いもので、波に揺られれば揺られるほど、身体が作り替えられていく感じがするんです。プランクトンのように、波に漂うように揺れ続けると、地上の生物の自分が、さも海の生物になっていくかのような感覚になる。人間の身体の変化を感じました。気持ち悪さと一緒に、海に生きるということがどういうことなのか、身をもって体験しました」。

プランクトンは海の味

タラ号では、大小島さんは他のメンバーとサンプル採取をしたり、食事の当番をしたり「大きな家族」のように過ごした。その中で交わした会話や、何げない一言が大いに創作欲を駆り立てた。船上で最初に描いた作品も、プランクトン研究を専門とする科学者・フローラさんとの雑談がきっかけだ。

あるとき、大小島さんはフローラさんに尋ねた。

「プランクトンって食べたことあるの?」

海水を飲んでいれば自然とプランクトンを食べている。でも、プランクトンだって思いながら食べたことがあるのかな、という興味だった。

すると、「海の味」と答えが返ってきた。

思いがけない回答に大小島さんは驚いた。海洋には、多種多様なプランクトンを始め多くの生物がいる。「海の味は、単にしょっぱいだけの潮の味ではない。20億年もの間、生物たちが生と死を繰り返してきた、命の母の味なんだ。フローラの答えは、海に流れる悠久の時へと私の想像力を飛翔させてくれました」。

手がけた作品のタイトルに「海、生命のスープ」と名付けた。母親の胎内にいる胎児の卵も一緒に描いた。「皆が知っているあのしょっぱい海水の味は、20億年分の生死が溶け込んだ味なんだよ」という思いを込めて。


”海、生命のスープ ” タラ号乗船中に制作。大小島真木=Tara Océan財団

「どれほどの命が溶け入っているのだろう」 白い鯨との出会い

タラ号での生活の中で、最も大小島さんに影響を与えた出来事。それは、太平洋に漂う白い鯨の遺体との出会いだ。巨大な鯨が、皮膚が溶け、脂肪がむき出しになり、ヒラヒラと飛ぶ妖怪、一反木綿のように揺れていた。そこへ多くの鳥が群がっていた。

「どれほどの命がこの中に溶け入っているのだろう」。

自分の身体よりも遥かに大きな生物が目の前で多くの生き物に食べられていく。腐臭も漂う。


タラ号での航海中、太平洋上で出会った鯨の遺体=大小島さん提供

しかし一方で、その鯨が生きていた間には、どれだけの生き物を食べていたのだろうか。食べて、食べられて、を繰り返し、生き、そして死ぬ。白い鯨の遺体と群がる鳥たちの姿は、果てしなき生命の円環を感じさせるものだった。

「生命の歴史とは、食らい食らわれるものたちの生と死の物語です。その歴史の上に、この海があり、地上の土がある。途方もない時間と命のらせんが何もかもをつくっているということを体感しました」。

この経験をもとに、大小島さんは「鯨の目」シリーズを制作した。「海の視点だけでなく、鳥、プランクトン、菌、鉱物など、人間以外の様々な存在のまなざしを交差させた作品になっています」。


タラ号乗船アーティスト・大小島真木さん、プランクトンから発想を得て、新種の鯨を制作©Noëlie Pansiot / Fondation Tara Océan

船上で暮らすタラ号のメンバーは、国籍も職業も文化もそれぞれ違う。海の上で過ごすメンバーの視点は新鮮でおもしろかったと大小島さんは言う。例えば、タラ号が寄港地で、子どもたちに向けて講義する際、メンバーは度々ある言葉を口にした。

「私たちは、青と緑の肺を持っているんだよ。だから、体の中には自然があるんだ」。

森の木から酸素が作られることがよく知られているが、実は海の植物プランクトンは、多くの酸素を生み出す。私たちが吸い込む酸素はどこから生まれるか、それは森と海から生まれている。私たちは森と海の肺を持っているんだよ――。そういう意味の言葉だった。

「その言葉を聞いたとき、必ずそのイメージをビジュアル化しなければと思いました。海洋で過ごす皆にとって、酸素の半分が海で作られることは常識。ですが、このことを知らない人も多くいるのではないでしょうか」。


”私たちの海と森の肺” タラ号乗船中に制作©Noëlie Pansiot / Fondation Tara Océan

大小島さんが船上で得た中で最も心に残った学びは、こうした海と森の大きな絡まり合いについてだと言う。タラ号乗船前は、森を舞台に生物の円環を描いていたという大小島さんは「微生物の視点で自分の身体を捉えてみたり、ときに大きな森の視点になって描いてみたり。タラ号に乗って、海のことも知り、海と土が交わっていくという感触をリアリティーとして体感できた」と語る。

「もちろん、肺は青と緑ではありません。しかし、目に見えることだけが本当のことではない。想像力のフィルターを通すことで得られるリアリティーもある。海と森の大きな絡まり合いもその一つです」。

生と死。海、山、空、土、ミクロ、マクロ。人間と他の生物、あるいは非生物――。様々な存在の絡まり合いをいかに表現していくか。タラ号での体験を経て、いまの大小島さんが掲げるテーマの一つだ。


タラ号のPC-メディアルームのドアの壁画を製作中の大小島真木さん©Noëlie Pansiot / Fondation Tara Océan
完成したタラ号のC-メディアルームのドアの壁画 ©Noëlie Pansiot / Fondation Tara Océan

コロナ禍で考えた「more than human」

今春、新型コロナウイルスの感染が広がる中、大小島さんは陶芸に向き合って過ごした。人間が大きく社会活動を変化せざるを得ない中、地球環境問題の改善などの変化もあった。大小島さんは改めて「持続可能な社会という時の持続可能性とは、誰にとっての持続可能性なのだろうか」を考えたという。

「人間からの視線ではなく、『more than human (人間以上)』の視点で見る。そうすると何十億年と続く生命の重なり合いの長い歴史に気づく。単にウイルスを敵視しても、有意義な話にはなりません」。

コロナ禍では改めて、生物多様性や生命の循環、共生のあり方などに向き合ったと、大小島さんはいう。また、時間的余裕が出来たことで生まれたのが『エンタングルメント(絡まり合い)』をテーマにした作品群。「今までは当たり前だった接触できるということの大切さを感じられたことも、創作につながりました」。


現在、練馬区立美術館で開催中の展覧会での新作 photo by Kenji Chiga

今夏、大小島さんはこうした体験を元に、新たに作品を制作した。人間の生が「more than human」な絡まり合いの中でつくられている様子を、二つの身体像によって表現している。9月27日まで練馬区立美術館(東京)で展示中だ(※)。身体が5メートルを超える木とつながっていたり、「さまよう」という意味の同じギリシャ語を語源に持つ「プランクトン」「プラネット」で皮膚を構成していたり。人間と生物との絡まり合い、「more than human」とは何かを投げかける。

「人間は他のものたちとの絡まり合いの中で生かされている存在だということを、新型コロナウイルスの危機の中、肌で感じながら制作しました。ウイルスや菌とともに進化してきた長い長い歴史を踏まえて、今後の振る舞い方を考えるきっかけにしてもらいたい」。


瀬戸内国際芸術祭2019秋会期の会場になった香川県三豊市・粟島の住民も大小島さんの「鯨の目」シリーズの制作に参加。現在でも交流が続いている=大小島さん提供

地球規模の様々な課題を抱え、コロナ危機も体験した人類。わたしたちは、未来にどういうバトンを渡していけるのだろうか――。その問いに大小島さんは、「タラ号でもらった大事な言葉」を教えてくれた。

“地上というのは、祖先から譲り受けたものではなく、未来の孫たちから借りてきているものなんだよ”

「小さな葉一枚一枚や、目に見えない海のプランクトンたち・・・・・・。そうした小さな存在が、人間の生に不可欠な酸素を生み出しています。しかし、肥大した私たちの文明はそうした小さな存在をあまりに軽視している。自然の円環の中で生きる私たちは、他の存在の支えなしでは生きていけないということをもっと自覚しなければいけない。人間が自分の力のみで生きているという考えは、持続可能なものではないのではないでしょうか」。


“L’oeil de la Baleine “In Aquarium de Paris, France. Photo by Serge Koutchinsky

【TARA OCEAN展 科学探査船とアーティスト】

タラ号に乗船したアーティストの作品で構成されたグループ展「TARA OCEAN展 科学探査船とアーティスト」が東京・南青山の「アニエスベー ギャラリー ブティック」で開催中です。

大小島さんが乗船中に制作したドローイングのほか、Nicolas Floc’h(二コラ・フロック)さんによる、人工魚礁の写真作品やインスタレーションを展示。K−NARF&SHOKO(ケーナーフ&ショウコ) さんによる“HATARAKIMONO PROJECT” のサイドプロジェクト企画として、タラ号乗船チームのポートレート写真、Elsa Guillaume (エルザ・ギヨーム)さんの旅のスケッチブックなどの作品も紹介されています。

会期:2020年9月13日(日)まで。午後1時30分~午後6時30分(月曜休廊)

会場:agnès b. galerie boutique アニエスベー ギャラリー ブティック(東京都港区南青山5-7-25 2F)

【タラ号ポスターコンクール作品展】

また、タラ号ポスターコンクールの作品展も、2020年7月1日から9月9日まで、アニエスベー青山店(東京)で開催されました。オンラインで寄せられた子どもたちの力作が展示され、陸上のタラ号キッズアーティストとして子どもたちが描いた作品や込められたメッセージを通じて、地球環境や海洋環境問題を考えるきっかけとなりました。

【練馬区立美術館開館35周年記念 Re construction 再構築(※)】

練馬区立美術館所蔵の作品を再解釈し、現代作家らの手によって新たな視点で提案する作品展。大小島さんのほか、青山悟さん、冨井大裕さん、流麻二果さんの4作家が参加しています。各作家の創作をたどりながら、美術館における鑑賞全体の再構築へとつながっていく展覧会です。

大小島さんは「身体」の面から作品を再構築。二つの身体で「more than human」や生物の多様性などの世界観を体感できます。作品を通じて大小島さんが交流を持つ、瀬戸内海に浮かぶ粟島(香川県)に住む女性たちが、細かな手仕事で作り上げた刺繡=写真下=も随所に使用されており、必見です。

会期:2020年9月27日(日)まで。午前10時~午後6時(入場は午後5時30分まで。祝日を除く月曜日休館)

会場:練馬区立美術館(東京都練馬区貫井1-36-16)

観覧料:一般800円、高校・大学生と65~74歳600円、中学生以下および75歳以上無料

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