▲PWJの支援を受けたご家族
家族を残して日本に避難
「日本に来ることで、命をもらった。そして、すべてを失った」
「母は私がいなくなって、さみしがっている――」
2021年8月にアフガニスタンの首都カブールが陥落し、イスラム主義勢力タリバンが権力を掌握してからまもなく1年。タリバンによる迫害を恐れ、家族を残して1人で日本に避難してきたモハメドさん(仮名、34歳、男性)は、テレビの取材で「お母さんはどうしてらっしゃいますか?」と尋ねられ、言葉に詰まりながらこう答えました。
取材はオンラインで行われ、カメラはオフで彼の姿は見えませんでしたが、涙をこらえていることがその場にいた全員にわかりました。
約3ヶ月待った日本への渡航がかない、成田空港に到着してPWJのスタッフに出迎えられた(仮名)モハメドさん(右)=写真はいずれもピースウィンズ・ジャパン(PWJ)提供
「いつかはアフガニスタンに帰りたい」と言うとき、いつも「いつになるかはわからないが」と続けるモハメドさん。もう二度とご家族や同僚に会ったり、故郷の地に立ったりはできないと覚悟しているように見えます。
アフガニスタンにいたときには、語学が得意で博識なNGOスタッフとして精力的に働いていたモハメドさん。日本とのつながりがあることでタリバンに命を狙われることを恐れ、2021年11月に日本に避難してきましたが、日本で仕事をして生活基盤を築いていくのは簡単なことではありません。アフガニスタンではお母さんに頼っていた料理も覚えるのも大変です。
「自分はいまゼロです。自分をUseless(役立たず)に感じます」と声を落とすモハメドさんですが、まずは日本語のクラスを受け始めました。都内の複雑な交通網も徐々に覚え、移動範囲も広がっています。
カブール陥落から9ヵ月がたちましたが、アフガニスタンは今も混乱のただ中にあります。
紛争や災害などの脅威にさらされている人びとに対して国内外問わず支援活動を行うNGO 「ピースウィンズ・ジャパン」(PWJ)は、A−portクラウドファンディングを通して、モハメドさんのような日本への退避者や、食料の不足など日々の暮らしに苦しむ人々を支援するための資金を募っています。 1万円の寄付でアフガニスタン1世帯に1カ月分の食糧支援をすることができ、200万円ならモハメドさんのような日本への退避者の方に1年分の生活費支援をすることができます。
870万人が飢餓に直面 「世界最大の人道危機になりつつある」
首都カブールの寒空の下、食糧をもとめてパン屋の前で座り込む人々
タリバン政権は国際的に承認されておらず、国内経済は悪化しています。イスラム法に基づく統治のもとで、少数民族や外国政府と関わりのある現地の人々が迫害を受けることが懸念されています。
国連人道問題調整事務所(OCHA)と国連難民高等弁務官(UNHCR)が2022年1月に発表したアフガニスタンへの人道支援計画によると、食料不足などの人道危機が深刻化しているアフガニスタンの支援に日本円で5,700億円余りが必要になるとして、各国に支援を求めました。この金額は、1ヶ国に対する支援額としては国連の創設以来、最大だということです。
アフガニスタンでは2021年に過去30年で最悪の干ばつが起きたことに加え、8月のタリバン復権後には、タリバンに批判的な米国による資産凍結の影響を受け、銀行からの引き出し金額が制限されるなどアフガニスタン経済は混乱し、人口の55%に当たる2,440万人が人道支援を必要としています。そのうち390万人の子どもを含む470万人が急性の栄養失調になるおそれがあり、今の状態が続けば、さらに13万人の子どもが死に直面する可能性があると、OCHAは警告しています。
UNHCRは、「時間は限られている。もしアフガニスタンが崩壊すれば、周辺国や、さらにその先に、多くの人々が流出する」と危機感を示し、各国に協力を呼びかけています。
PWJは、アフガニスタン東部のナンガルハル県で、日々の食糧にも事欠くような生活をしている人々が、特に食糧事情の厳しくなる秋から冬に食料をまかなえるように、2021年8月からの食糧支援を計画していました。
提携団体のスタッフ(左)が各世帯を回って、食糧購入のための現金の引換券をそれぞれに渡します
実際の活動は、現地の提携団体をパートナーとして実施します。8月の政変直後は混乱もあり、しばらくは慎重に状況を見ていましたが、ナンガルハル県ではタリバンにもNGOによる支援の継続を認められ、活動地に出かけられるようになり、幸い、冬の間に支援をすることができました。
しかし、タリバンは常に武器を持ってスタッフに同行したり、女性スタッフが活動することを許さなかったり、厳しい規制は今も残っています。また外国の団体と関わりをもつことで脅迫を受けたり、NGOの事務所を捜索されたりする話もあり、モハメドさんのように身の危険を感じている人もいます。
PWJは2001年のアフガニスタン紛争直後より緊急支援を開始し、国内避難民などにテント、食料、生活用品などを配布しました。その後も学校建設や道路の修復、井戸の掘削、女性の収入向上や水資源調査を実施しました。
2013年からは、アフガニスタンにて活動する地元のNGOの能力強化を目的とした事業のほか、近年には、難民として逃れていた近隣諸国からアフガニスタンに帰還した人々や、干ばつの被災者などを対象とした生活物資の配布や井戸の建設などの緊急支援を行いました。
PWJが食糧支援を実施しているナンガルハル県の山間部の風景
近年、アフガニスタンでは紛争や自然災害によって、農産物の収穫量が減少しています。加えてコロナ禍で食料価格が高騰し、現金収入が減った人も多く、人口の約3割にあたる950万人が危機的な食糧状況にあります。
PWJが現在食糧支援を展開するアフガニスタン東部ナンガルハル県は、貧困状態で暮らす人の数が全国で2番目に多い県で、県の人口164万人の85%がコロナ発生後に食糧の購買力が低下しています。PWJは同県のなかでも、治安等の理由で最も支援が届きにくい地域であるチャパルハール郡、ホギャニ郡、ロダート郡にて経済的に困窮する家庭を対象に、食糧購入に必要な現金(約10,000円/月)を給付しています。
これにより、借金をしたり、なけなしの財産を売ったりすることなく、命を支えるための食糧を買うことができています。
日々の生活に苦しむ人たちを少しでも減らすため、日本に避難したモハメドさんが当たり前の暮らしができるようになるため、いまいちどアフガニスタンに目を向け、支援の輪を広げることが求められています。
プロジェクトの詳細は、A−portクラウドファンディングで。