これまで世界35カ国以上で緊急・復興・開発支援を行ってきた国際NGOのピースウィンズ・ジャパン(PWJ)。日本に本部を置く“日本発”の国際支援団体のトップランナーとして、自然災害、紛争や貧困などさまざまな要因で危機や困難にさらされている人々の支援を行っています。これらはSDGsの多くの目標を達成することにつながっています。

幅広いステークホルダーとの協業で社会課題を解決
今、PWJが目指すのは、単なる国際支援団体の枠に収まらない、新たな「ソーシャル・イノベーション・プラットフォーム」としての活動です。
「支援団体という枠組みから飛び出し、これまで設けていたさまざまな制限を外し、幅広いステークホルダーと協業して社会課題を解決していく。そんな『ソーシャル・イノベーション・プラットフォーム』となることが、今後は必要だと考えています」

そのひとつが、スタートアップ企業との協業です。
「これまでは企業に協力をもとめても、それが企業にとってどんなメリットがあるのか、という“WHY(なぜやるのか)”から説明しなくてはなりませんでした。
しかし、今の30代、40代は社会貢献やSDGsの実現は当然のことと捉えています。そういう若手の起業家たちとは “WHY”ではなく、“HOW(どうやるのか)”から話を始めることができるというのは、大きな進歩だと思っています。また、スタートアップならではの新しいビジネスは、プロダクトやサービスを通した支援という可能性も広げてくれます」

ケニアで行う「生理ナプキン支援プロジェクト」
そんなスタートアップとの協業のひとつが、アフリカのケニアで行う生理用品支援のプロジェクトです。
ケニアでは生理用品は高価で購入が難しいのが現状です。そのため、生理中にいじめられたり、からかわれたりすることを恐れて学校を休み家に閉じこもって生活する少女も多いのです。しかも、生理用ナプキンの代わりに、不衛生な古布やヤギの皮、砂をあてるなど、健康を害しかねない環境で生理期間中を過ごしています。さらには、社会全体に生理中の女性を汚れたものとする観念が根強くあり、肩身の狭い思いをしているのです。

「不衛生な環境は膀胱炎など泌尿器系の病気や生理不順などさまざまな体調不良を引き起こし、偏見にさらされるなど、多くの女性が非常に辛い思いをしてきました。しかし、難民キャンプの一人の女の子が“生理期間中も笑顔で学校に行けるようになりたい”と勇気ある声を上げたことがきっかけで、プロジェクトがスタートすることになりました」

「命を救う」支援から「差別や偏見なく生きられる」支援へ
ひと昔前であれば、とにかく「命を救う」支援が優先されていたので、女性の生理まで支援の手を回す余裕がありませんでした。また、支援先の社会全体に女性の生理への理解が不足していることも支援がしづらい要因のひとつだったといいます。
「しかし、女の子や女性の尊厳と健康を守るためにも、生理期間中を清潔に笑顔で過ごせることはとても重要です。世界的にも 国際支援が大きく成長したことで、命を救うことから一歩進んで、多種多様な人たちへの差別が起きないような支援ができるようになってきました」

今回PWJがケニアで行う生理ナプキン支援のプロジェクトでは、スタートアップと組んで、何度も洗って再利用できる抗菌素材の布ナプキンを現地の縫製職人グループを指揮して作製。再利用できることで、高価な生理用品を何度も購入しなくてもすむようになります。女の子たちが生理用品を使うことが恥ずかしいと思わなくてすむように、明るいピンク色にするなどの工夫も凝らしています。同時に、男性を含めた社会全体に女性の生理についての啓発活動も行っていきます。
PWJでは、このプロジェクトの実現に向け、A−portクラウドファンディングでも資金を広く募っています。

社会貢献を考える若手起業家とタッグを組んで新たな挑戦
このようなスタートアップとの協業は、ほかの支援プロジェクトでも、今後、さまざまな可能性を広げてくれると、大西さんは期待を膨らませています。
「スタートアップで成功している若手起業家は、お金儲けよりも社会をより良くしたいという気持ちで起業している人が本当に多い。彼らは、資金援助だけでなく、一緒に何かできないかと、熱い想いを持って協力してくれるのが非常に心強いですね。 そういう新しい支援者たちとの活動をネットワーク化して、NPOや社団法人だけではなく株式会社を設立していく。それがPWJが担うソーシャル・イノベーション・プラットフォームとしての役割になっていくと思います。

ソーシャル・イノベーション・プラットフォームとして、国内の地域医療でもPWJのネットワークを生かして新たな医療体制づくりも考案中だと語る大西さん。あらゆる人々が安心して幸せに生きる環境づくりへのチャレンジはまだまだ続きます。
