「日本最後の清流」といわれる四万十川の源流域にある高知県梼原町(ゆすはらちょう)で、水源地となる森を再生させるプロジェクトが進行している。音楽家の坂本龍一さんらが立ち上げた森林保全団体more treesと地域が手を取り合い、多様性のある森林をつくり、未来に豊かな自然を残す、持続可能な社会の実現に向けた取り組みだ。
単一な人工林から多様性ある森林へ 「幻の木」復活を目指して
高知県は森林の面積が全体の8割以上を占める「森林王国」。その中でも、愛媛県との県境にあり、四万十川の源流域に位置する梼原町は森林面積が91%にも上り、地元では森林産業を盛り上げようとこれまで様々な試みが展開されてきた。今回のプロジェクトは、国内外で森づくりの活動を進めてきた一般社団法人more trees(モア・トゥリーズ)と町が協力し、町名の由来ともなっている「幻の木・梼(ユス)」を復活させるほか、森を多様化させ、植林されたスギやヒノキなどの人工林ではなく、より自然に近い状態に更新するのが目的という。
(面積の91%を森林が占める梼原町。坂本龍馬脱藩の地として知られる)
梼原町の町名は、「梼(ユス)」が多く自生していたことに由来する。梼の木は別名イスノキといわれ、主に西日本~九州に群生する。材質は赤茶色で、密度が高く、日本で最も硬くて重い木と言われており、木刀や杖の素材としても使用されている。しかし、成長が遅く、大木になるまでに何百年もの時間がかかるため、近年では人工林への転換や伐採などの影響で数を減らし、「幻の木」と言われている。梼原町も例外ではなく、現在では大木はほとんど残っていない。
「都市と森をつなぐ」プロジェクト 坂本龍一さんら参加
more treesは、音楽家の坂本龍一さんが代表を務める森林保全団体。加速する森林破壊や地球温暖化の危機的状況に対して行動を起こすため、坂本さんのほか、細野晴臣さんと高橋幸宏さん、中沢新一さん、桑原茂一さんの計5名が発起人となり、100名以上の賛同人とともに2007年に設立された。
(イベントで話すmore trees代表の坂本龍一さん(右)と水谷伸吉事務局長(左))
キーワードは「都市と森をつなぐ」。目の前にある、できることから取り組むという姿勢を大切に、少しでも前向きな活動をしようと、これまでに国内外13か所で「more treesの森」を整備。地域との協働で森林保全を進めるほか、国産材を活用した商品やサービスの企画・開発、セミナーやイベントを通じた森の情報や魅力などを発信している。
病害虫、自然災害に強い森林へ再生
気候変動や生物多様性の危機など、その一因は森林の減少と言われている。日本では、国土の約7割を森林が占め、表向きは豊かな自然が今なお残されていると見える。ところが、森林の約4割は戦後、主に木材生産のために植林されたスギやヒノキが中心の人工林ばかり。本来、日本には500種類以上の樹木があるといわれているのに対し、木材需要に応えるために植林されたスギとヒノキの2種類が人工林の約7割を占めている。
(more treesのオリジナル木製品)
生活スタイルの変化に伴い、木材の需要が低下しているうえ、林業の衰退が加速化する中、手入れがされないまま放置された人工林は増加傾向にある。しかし、人工林など偏った種類の樹木で構成される森林は、病害虫が拡大しやすく、自然災害の防止機能が最大限に発揮されないリスクを抱えている。また、特定の樹木の木材価格が下落すれば、経済的に大きなダメージを受ける可能性もある。戦後、森林面積は増えたものの、本当の意味で持続可能で豊かな自然に恵まれた環境とは言い難いのが実情だ。
そのため、プロジェクトでは「多様性のある森」への転換を目指している。ユスをはじめ、ケヤキやトチ、ホオノキ、カエデなどその土地に適した多様な種類の樹木を植えて混在させ、より自然に近い状態にすることで、病害虫に強い森林となるほか、土砂災害を防止したり、生物の多様性を保ったりするようになり、生まれ変わった森林は多面的な機能を最大限に発揮するという。
(梼の木は大木になるまで何百年もの時間を要する=高知県梼原町)
クラウドファンディングで支援呼びかけ
森と人がずっとともに生きる社会を目指して――。その一歩として、四万十川の源流の森を再生していくのだという。町とmore treesは、クラウドファンディングA-portでプロジェクトへの支援も呼びかけている。目標金額(80万円)が達成できると、テニスコート19面分に相当する0.5ha(約1,200本)分の植林ができるという。締め切りは2019年11月7日。詳しくはプロジェクトを紹介したA-portのサイトへ。