SDGsの認知度が高まり、企業や地域、学校などで持続可能な社会をめざした様々な取り組みが行われています。そうした活動の広まりと相まって「木育」という言葉を聞く機会も増えてきました。木育の普及拠点としてスタートした「おもちゃ美術館」も近年、各地で続々と誕生しています。設立が相次ぐのはどうしてなのでしょうか。東京おもちゃ美術館副館長、馬場清さんの報告です。
コロナ禍でもオープン 岩手、静岡、徳島 …
最近の特徴は設立のペースが早いことです。コロナ禍にもかかわらず、2020年7月に「花巻おもちゃ美術館」が岩手県花巻市にオープンし、21年7月には「焼津おもちゃ美術館」が静岡県焼津市に開館しました。日本初となる県立のおもちゃ美術館「徳島木のおもちゃ美術館」も徳島県板野町にできましたし、東京都内では2館目となる「檜原森のおもちゃ美術館」も東京都檜原村にオープンしました。

今後も開館予定が目白押しです。22年4月には高松市で、そして22年度内には長野県木曽町、高知県佐川町でもオープンする予定です。さらに、東京に次いで二つ目の芸術と遊び創造協会直営館となる「福岡おもちゃ美術館」が福岡市にできます。
おもちゃを使った「木育」 効果を認知
急速に広がってきた理由の一つは、木育の力がようやく世間で認知され始めたことだと思います。日本は世界有数の森林大国であり、木の加工の技術は世界トップクラスです。しかし、国産材の活用は思うように進んでいません。そして暮らしの中から木製品はどんどんなくなってきています。私たち東京おもちゃ美術館は、木育を「木が好きな人を育てる活動」と言っています。木のおもちゃで遊んだり、木質空間で過ごしたりすることで、木の良さについて五感で感じてもらい、「木っていいな」と思ってもらう。これが木育のスタートだと考えています。

そこから、木を使うことが森林を元気にすることになり、ひいては森がもっている多面的機能の保全につながることを知ってもらいたいのです。SDGsの広まりと軌を一にして、こうした木育の活動に期待が寄せられつつあり、その象徴としておもちゃ美術館が注目を浴びているということです。

地域の課題解決 市民の社会参加も促す仕組み
二つ目に、おもちゃ美術館という「装置」が、地域課題の解決のために、そして市民の社会参加のために、とても有効であるということが理解されてきたということです。地域課題を解決する観点から説明しますと、おもちゃ美術館は子育て支援の充実に寄与しますが、例えば、廃校の再利用や、閉店した百貨店の新しい活用。あるいは赤字ローカル線の立て直しなどと、それぞれの地域が抱えていた課題に対しておもちゃ美術館が有効に機能することが分かってきました。

ボランティアの学芸員も活躍 市民参加型
おもちゃ美術館では、必ず「おもちゃ学芸員」制度を導入しています。いわゆるボランティア組織で、学芸員はおもちゃ美術館の運営に欠かせないスタッフの一人となります。現代では、市民ができる社会参加の方法は限られています。そんな中で、一つの市民参加のかたちとして、おもちゃ美術館が有効に機能していると思います。おもちゃ美術館が全国に広がってきた背景には、こうした要因もあると考えています。
*公益財団法人森林文化協会の総合情報誌「グリーン・パワー2021年12月号」に掲載された記事に基づき、一部を加筆・修正しました。
==お知らせ==
木に親しみ、木と共に生きていく「木育」の活動を広めようと、「木育サミット」が2月に開かれます。今回で9回目。各地の先進的な取り組みを紹介し、「つなぐ」をキーワードにポストコロナ時代の木育の意義について考えます。オンラインで参加無料です。https://www.mokuikulabo.com/summit