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自助・共助の思考で生き抜く力を。「未来メディアキャンプ2020」に向けた新しい試みとは?

2020.08.11

今年で7回目を迎える未来メディアキャンプ。これまでは、朝日新聞社内や慶應義塾大学キャンパス内、また横浜市と連携して横浜市内の会場で開催するなど、ワークショップとフィールドワークを組み合わせた形のイベントとして開催してきましたが、今年は新型コロナウイルス感染拡大の影響で、わたしたちの生活も大きく変わりました。


同キャンプの歴史をともに作ってきた慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科(以下、慶應SDM)の神武直彦教授と、一般社団法人Think the Earthの上田壮一氏に加え、特別ゲストとして一般社団法人72時間サバイバル教育協会代表理事の片山誠氏を迎え、あらたな試みにチャレンジします。


キーワードは「サバイバル体験」。システム×デザイン思考で未来を生きる力を身につける必要性とは。たっぷり語ってもらいました。


■対談 参加者
慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科教授:神武 直彦
一般社団法人Think the Earth理事/プロデューサー:上田 壮一
一般社団法人72時間サバイバル教育協会代表理事:片山 誠
■聞き手
朝日新聞社 マーケティング部次長:鵜飼 誠

未来メディアキャンプ2020が目指すものとは?

―― 未来メディアキャンプは、2015年1月に当時記者が注目する社会課題について、参加者と共に問題の本質を探り、解決策を考えるワークショップ型イベントとしてスタートしました。記者の視点、地域社会の課題に取り組む企業家の視点、そして参加者の思いと熱量。そこに神武教授が慶應SDMで研究されている「システム×デザイン思考」のフレームワークを融合させてさまざまなことを学び、未来を変える思考や解決策を模索してきました。当初は“イノベーションキャンプ”と言っていましたね。


神武直彦(以下、神武) そうですね。当時、朝日新聞社の皆さんと議論した重要な点は、“報道するメディア”から“読者と共に考えて解決を支援するメディア”へと進化するために、知って、考えて、提案するだけでなく、解決へアクションにもつなげていけるイベントを行いたいということでした。

キャンプという言葉をイベント名に含めたのは、“読者と共に”という、朝日新聞社と、慶應SDM、そしてThink the Earthから集まった運営者側の強い思いが込められています。参加者がいくつかのチームに分かれて課題を制定し、ゴールを設定し1カ月の期間を設けてチームごとに実際に現場にも行き、そこで物事を俯瞰(ふかん)的に見て緻密(ちみつ)に解決策を考える、といったプログラムを確立してきました。


――「考えて提案するだけでなく、社会実装というアクションに移していく」という視点から、ステークホルダーである自治体も巻き込んでいこうということで、横浜市と連携して横浜が抱える具体的な課題や解決策について議論するキャンプも2017年と2018年に開催しました。

こうして振り返ってみたときに、ひとつ制約として上がったのが、今までのキャンプを慶應義塾大学の教室や、どこかのワークショップスペースで開催してきたこと。どちらかというとオフィスのなかで考えることがメインで、プログラムの一環としてフィールドワークのために現場に行くというカタチでした。

そこで7回目を迎える今年のキャンプは、思い切ってオフィスで考えるのではなく、はじめから現場に入る“リアルキャンプ”を開催しようということになりました。頭だけで考えるのではなく、課題を身体で感じてどう考え、アクションすべきかを体感する。今回のキャンプは、この“体験”が大きなテーマになりますね。


神武 そうですね。リアルキャンプになると、課題を想像ではなく、目に見えるものであったり、体感であったり、その実体験に基づいて考えることができます。ときには想定外のリスクなどに遭遇することもあるかもしれません。そうした現場に立ったほうが、圧倒的に感覚は研ぎ澄まされるでしょう。

そうした現場だからこそ得られる、においや音、ときには怖さなど、五感を刺激する情報に、今ではほとんどのものがコモディティー化して手に入れやすくなってきているテクノロジーやデータなどからの客観的な情報をいかに融合して未来を考えていくか。このひとつの解が、今回のキャンプから明らかになるのかなと思っています。


上田壮一(以下、上田) 未来を考えるときに、実際に体感することや、体験というのは、とても重要なファクターだと思っています。未来メディアキャンプがスタートした2015年以前から、気象災害の起きる頻度は増え続け、自然の脅威が日常生活のなかでどんどん大きくなってきている。

こうした課題をテーマにするとき、頭で考えることもちろん大事ですが、実際に災害が起きたときにどう対応していくかは、“身体的な経験”にもとづいた能力やマインドを持っているかどうかが重要です。一方、慶應SDMが研究・実践されているような、例えば人工衛星からのデータを活用した俯瞰的な情報の使いこなし方を知っていることも大事だと思っています。

“レジリエンス”という言葉があります。この言葉の意味は、「何か起きたときにしなやかに対応できる力」ということですが、これは社会全体に必要なことであり、個人にも求められることで、そうしたレジリエントな力を身につけておくことが、これから先、必要になってくると思っています。

気候変動がさらに激しくなること自体は、残念ながら止めようがない。二酸化炭素を減らしていく取り組み(緩和策)も大事ですが、同時に、起きてしまう気候災害に対して、どのように対応していくか(適応策)は、私たち市民もリテラシーとして持ってないといけない。

この点において、未来メディアキャンプが新しい試みとして、システム×デザイン思考を学ぶ場として会場を自然のなかに移動したことは、大きな意義があることだと感じています。今回、未来メディアキャンプの新しいメンバーとして参加していただくことになった片山さんは、まさに災害が起きたときに72時間生き延びることをテーマに、いろいろな教育活動をされています。朝日新聞社、慶應SDM、そして私たちThink the Earthの3者がタッグを組んだこれまでの6年間の取り組みは、着実に実を結びつつあることを感じつつ、今後、未来メディアキャンプをさらに進化させていくという点ですばらしい人と出会えたと思っています。

たとえば教育現場でもSDGsを積極的に取り上げるようになってきましたが、教室での授業だけではどうしても頭の中の話になりがちで、それをいかに自分ごと化させるかが大きな課題になっています。片山さんが実行されている教育活動においては、この自分ごと化という課題に、どのように取り組まれているのでしょうか?

体験こそ自分ごと化するきっかけになる。サバイバルキャンプの価値とは?


片山誠(以下、片山) そうですね。サバイバルキャンプが、ほかの一般的なキャンプと比較したときに、大きな違いとしては“足りていない状況から考える”ことだと思っています。

今、ほとんどの人にとって、日常生活は情報もモノも満ち足りています。この満ち足りている状態で物事を考えても、頭の中で想像したりすることはできるのですが、本当に必要なのか、それとも実は不必要なのではないか、という判断は現実的には理解できない。言い換えれば、自分ごと化しにくいと思うんですね。

それがサバイバル体験をすると、だいたいの人は「今まで無駄なものに囲まれていたんだな」「これだけあれば、生きていけるんだ」ということを見つけます。

結局SDGsもそうですが、現代社会には、際限ない欲望みたいなものから起こっている社会課題がたくさんあるわけです。それを考えようとしたときに、やはり先ほどお話したように“満ち足りた状態”で考えるのではなく、“足りていない状態”で考えることが、自分ごと化するきっかけになる。参加者が、“足りていない状態”に放り込まれたときに、どう感じるのか。今回のキャンプでは、そこが僕にとっては楽しみだなと思っています。

だから、特に僕のキャンプに来られる方は、もともとサバイバル好きとか、野外活動が好きな方など、不便を楽しめる方が多いのですが、今回の未来メディアキャンプには、そうではない方にぜひ参加してほしいなと思います。


上田 まさに片山さんがおっしゃるとおり、SDGsはわれわれ現代人の際限のない欲望を広げた結果、結局17個ものゴールをつくらなければいけなくなったという、人間の欲望のなれの果てのリストでもあるわけですよね。

それをもちろん国際社会で解決していかなければいけないという大きな視点もありますが、サバイバルキャンプでは、それを言ってみればひとりの人間として体感できるという点でとても価値のあることだと思っています。だから私たちスタッフ自身もそれを経験することが、すごく大事な通過点になるのではないかと期待しています。



神武 サバイバルキャンプでは、実際にはどのような体験が得られるのでしょうか?


片山 普段、僕が開催しているキャンプはサバイバルを求めて参加する人でも、終わってみたらほとんどの人が「きつかった」というくらい厳しいものですが、今回は少しゆるめの設定を考えています。しかしながら、たとえば、食べ物なんかは基本、満足いくほどは食べられないと思ってください(笑)。空腹体験というのは、日常生活では自分からわざわざしないですよね。


神武 普段、満ち足りている私にとっては、それだけでも厳しいですが、テーマはサバイバルですからね。


片山 おなかがへるから食べる。これはごく当たり前の思考ですが、人間はおなかいっぱいになったら、思考が止まりがちになります。つまり、空腹状態を体験することで、いろいろと考えることが求められるわけです。こうした体験を通して、生きるために何が必要なのか、学びや気づきがたくさん得られます。これが、サバイバルキャンプが提供できる価値です。

そのほかには、火起こしを各自ひとりで行ってもらい、たき火体験や、自分たちがブルーシートでつくった寝床で寝るような体験もしてもらおうと思っています。


神武 なるほど。今の私たちの生活には当たり前のようにあるものが“ない状態”にするわけですね。ただ、未来メディアキャンプでは、そうした火起こしや、ブルーシートでの寝床のつくり方という、どちらかというとテクニックを教えるだけではなく、そのテクニックを通じて何かを知って、考える、あるいは振るまいが変わるなど、キャンプを体験した後の意識変容や行動変容にも導いていきたいと考えています。このあたりも可能なのでしょうか?


片山 私が子ども向けにやっている講習では、実はスキルは教えていません。できないのであれば、いろいろ自分で試して、自分でどんどん正解を見つけていこう、というプロセスをずっとたどっていくんですね。したがって人によって課題を解決するスピードもまったく違いますし、結局できずに不合格で帰る子もいます。だからと言って成果はゼロではないですし、10のうち5が出来るようになれば、あとの5は次回チャレンジすればいいだけのことです。


上田 大切なのは思考することであり、正解はひとつではない、ということですね。


片山 そのとおりです。たとえば、たき火をするにしても、誰かに教えてもらった方法でそのままやったらできると思うんです。でも、本来、たき火をつくるためには、火の性質、燃料の性質などを理解していないと、どんな状況でもたき火をつくれるようにはならない。与えられた環境じゃないとたき火がつくれない人を育成することが目的ではなく、どんな状況でも対応できることを学ぶことが大切だと思っています。


それはスキルや知識の問題よりも、思考、マインドの問題でもあるかなと思っています。そうした自力で物事を解決できる思考を育んでいきながら、同時に限られた人員のなかで助け合うことも学びます。サバイバルキャンプの根底には、“自助・共助”の両方が求められるのです。


神武 “自助・共助”の思考は、災害時にかならず生きてきます。助けを待つということももちろん大事ですが、もう少しみんなができることが増えたり、何ができるのかを考えたりするだけでも、災害に対するレジリエンスも上がるはずです。こうした自助も共助もできる人が世の中に増えたら、まちがいなく災害時の対策も、なにより被災者の安心感は大きく変わってくると思います。


片山 本当にそういう社会にしていきたいですね。


上田 片山さんの考えには、すごく共感します。“自助・共助”の思考を育むにも、私は自信というものが必要だと感じています。

教育という観点からいうと、ここ数年、自分に自信がないという子どもたちの数字がすごく高くなっているという現象があります。学力での競争をあおってきた日本の教育の結果でもあるわけですが、そうではなく、まずは自分の身を守ることができて、もし余力があれば人を助けることができる、そうした経験を積んだ子たちが増えれば、おそらくこの数字も変わってくると思うんですね。

今回の未来メディアキャンプは、今の教育現場の課題解決にもつながる取り組みにもなると感じます。この試みを通して自助・共助のマインドをもった人が育つことの意味を研ぎ澄まし、教育の世界にも還元していきたい。そのヒントを、今回のキャンプから発見できたらうれしいなと思っています。

(了)

未来を生きる力について、ともに考える場に

▲未来メディアキャンプ2020開催予定地の東京都西多摩郡檜原村にある「NPO法人フジの森」


この後もさまざまなアイデアや示唆に富んだやりとりで対談は進みました。踏み込んでもう少し知りたい、ともに考えたいという方々のために、オンラインのトークセッションを企画しました。サバイバル体験が持つ意味、システム×デザイン思考とのコラボレーションが生み出す価値を基盤に「未来を生きる力」についてともに考える場にしたいと考えています。こちらから、参加お申し込みができます。

持続可能な社会を目指すSDGsを意識しながら、社会課題の解決、実装を体感することが出来る未来メディアキャンプ。2020年のテーマは「森の中でサバイバル体験。システム×デザイン思考で未来を生きる力を身につけよう!」です。ご期待ください。

※コロナの感染状況などを見ながら企画を進めています。

speaker:片山 誠

一般社団法人 72時間サバイバル教育協会 代表理事

東日本大震災後のボランティア活動で被災者の声を聞くなかで、子どもたち自身が災害時を生き抜く力を身につけることの必要性を感じ、2012年、「72時間サバイバル」プロジェクトを立ちあげる。現在は、72時間サバイバル教育協会のチーフトレーナーとして活動するほか、国内や中国で、野外活動指導者やボランティアの養成、大学での講座、年に数回の無人島サバイバル研修(5日間)などをこなす。著書に『もしときサバイバル術Jr』『車バイバル!』などがある。

speaker:上田 壮一

一般社団法人Think the Earth 理事/プロデューサー

広告代理店勤務を経て、2001年にThink the Earth設立。以来、コミュニケーションを通じて環境や社会について考え、行動するきっかけづくりを続けている。主な仕事に地球時計wn-1、携帯アプリ「live earth」、プラネタリウム映像「いきものがたり」、書籍『百年の愚行』『1秒の世界』『気候変動+2℃』ほか多数。2017年「SDGs for School」プロジェクトをスタートし、2018年『未来を変える目標 SDGsアイデアブック』を出版。グッドデザイン賞審査委員(2015-2017)、STI for SDGsアワード審査委員、多摩美術大学客員教授。

speaker:神武 直彦

慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科 教授

慶應義塾大学卒業後、宇宙開発事業団入社。H-IIAロケットの研究開発と打上げに従事。欧州宇宙機関研究員を経て、宇宙航空研究開発機構主任開発員。国際宇宙ステーションや人工衛星に搭載するソフトウェア独立評価の統括や宇宙用ソフトウェアに関する国際連携に従事。2009年より慶應義塾大学准教授。2018年、同教授。専門分野はシステムズエンジニアリング、デザイン思考、社会技術システムのデザイン、宇宙システム、IoTなど。著書・論文多数。

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