2030SDGsで変える
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企業がSDGs達成に向けてできることとは?【未来メディアカフェvol.19】

更新日 2022.02.02
目標8:働きがいも 経済成長も

写真説明=登壇した渋澤健・コモンズ投信会長(前列左)、と多賀谷克彦・朝日新聞編集委員(前列右)。後列は、イベントの内容を文字やイラストで描き出す「グラフィックレコーディング」を披露してくれた学習院大の2人。
 
2030年までの達成を目標に、各国で取り組みが続けられている持続可能な開発目標、SDGs(Sustainable Development Goals)。
 
世界各国ではSDGsに向け、民間企業も動き出しています。2016年に行われた世界経済フォーラム(ダボス会議)で「企業がSDGsを達成すれば、12兆ドルの経済効果が得られる」という試算が行われたように、SDGsは社会問題の解決と企業の成長を同時に達成できるものとして今、注目が集まっています。
 
第19回目を迎える未来メディアカフェでは、SDGsの達成に向けた企業の活動事例の紹介や、コモンズ投信株式会社の会長、渋澤健氏による講演が行われました。2018年8月28日、朝日新聞東京本社読者ホールにて実施されたイベントの様子をお伝えします。

伊藤園、ネスレジャパン、ユニクロ……“CSV”に取り組む企業たち

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(朝日新聞編集委員 多賀谷克彦)
 
今回の未来メディアカフェは、朝日新聞編集委員の多賀谷克彦による記者セッションから始まりました。
 
朝日新聞の紙面にて、SDGsに取り組む企業の実例を紹介している多賀谷。多賀谷はSDGsを知るきっかけのひとつが、“CSV”という言葉だったと言います。これはアメリカの経営学者、マイケル・ポーター氏が提唱した「Creating Shared Value/共通価値の創造」の略語。企業が本業として社会課題などの解決に積極的に取り組むことで、社会的な価値と経済的な価値がともに創造されることを意味します。
 
多賀谷記者がCSVに取り組んでいる企業としてまず紹介したのは、飲料メーカーとして知られる株式会社伊藤園です。伊藤園はペットボトル入り日本茶の需要が増えたことから、2001年に宮崎県の耕作放棄地を茶畑に耕作し、安定した茶葉の確保に努めていました。多賀谷は、その数年後に伊藤園の広報から、茶葉の育成事業が拡大していることを聞きます。
 
安定して高品質な茶葉を確保できるため業績を伸ばした伊藤園と、耕作放棄地の農地化と雇用創出による地域活性化が行われた地域……双方にとってプラスが大きいこの事業は、持続可能な日本農業の育成にもつながっています。
 
20181004カフェ原稿写真取り換え写真A〈多賀谷スライド〉のコピー
 
ネスレジャパンの取り組みもまた、CSVに取り組む企業の事例のひとつです。
 
ネスレジャパンはマーケティングの延長として、小学校ごとにコーヒーマシン“ネスカフェ ゴールドブレンド バリスタ”を集会所に設置する活動を行っています。その地域に住む高齢者が集会場に徒歩で来ることが介護予防になり、コミュニケーションの場を提供することによって、地域の活性化が促進されています。
 
この取り組みは、ネスレジャパンが東日本大震災の避難所にコミュニケーションの場を作ろうとしたことによって始まりました。機材を無償で置く一方、消耗品のコーヒーカートリッジを購入してもらうことで事業性を担保し、社会課題の解決も果たしたのです。
 
「これからはCSVという言葉によって企業が社会的課題の解決に取り組むイメージを具体化させ、自社製品の持つストーリー性を語り、共感を生むことが求められています」(多賀谷)
 
多賀谷は最後に国内で知られてない事例として、ユニクロが毎週金曜日の夕方に開催している、ニューヨーク近代美術館で来館者に無料でアートを楽しんでもらうイベントを紹介しました。
 
ユニクロでは、キース・ヘリングやアンディ・ウォーホールといったアーティストのデザインTシャツを販売しており、それらのアーティストの絵はいずれもニューヨーク近代美術館の所蔵品です。美術館を訪れた人がすぐ近くのユニクロへ足を運ぶ動線づくりを行っているだけでなく、美術やデザインに興味のある若者たちに、素晴らしい美術品に触れる機会を提供しているのです。
 
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(トークセッションの内容をイラストや文字で描き出す、グラフィック・レコーディングを用いた資料)
 
事例紹介の後、多賀谷は事前に寄せられていた「社内において、SDGs活動を広めるにはどうすればいいか」という質問について回答しました。
 
「アワード制度の活用や、社内でSDGsへの取り組みを公募する方法が挙げられます。ネスレジャパンでは企業内で社会課題を解決できる方法の公募を行っており、今年寄せられたアイデアは500個ほどにも上ったと聞いています。
 
そのひとつが、『スーパーへ来られるお年寄りに提供する目的として、“バリスタ”を置けばいいのではないか』、『コーヒーを売るのではなく、コーヒーを飲むシーンをつくってあげるのがいいのではないか』という契約社員の意見でした。この案は見事に採用され、現在この方は正社員として、マーケティングをやっていらっしゃるそうです」

あの大谷選手も読んだ、『論語と算盤』から見えてくるもの?

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(第二部のゲスト、コモンズ投信株式会社 会長 渋澤健氏)
 
第二部では、「三方良し、『論語と算盤』とSDGs & ESG投資」をテーマに、渋澤健氏が講演を行いました。
 
渋澤氏の高祖父にあたる渋沢栄一氏は、「日本資本主義の父」として知られています。栄一氏の著書『論語と算盤』は、現在メジャーリーグで活躍を続ける大谷翔平選手も読んだ1冊。健氏は、若い大谷選手が大正時代に書かれた作品を読んでいることに驚いたと言います。
 
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(大谷選手の話を切り口に、『論語と算盤』について講演を行う渋澤氏)
 
「大谷選手は、日本ハムファイターズに入団した後に記載した目標設定シート、マンダラートの中に『論語と算盤』を読むことを挙げていました。その背景には、日ハムの栗山英樹監督が入団2年目の選手全員に『論語と算盤』を配っていたことが関わっているそうです。
 
栗山監督は才能と熱量のある若い選手を枠に留めるべきではないと考えており、大谷選手の見えない未来を信じました。だからこそ、彼はメジャーリーグでの活躍を果たしたんです。この『見えない未来を信じる』という言葉は、渋沢栄一の思想とSDGsをつなげる重要なキーワードです」
 
渋澤氏は、『論語と算盤』に記されているのは「道徳と経済の合一である」という思想だと語りました。
 
「経営者一人が大富豪になっても、そのために社会全体が貧困に陥るのならばその幸福は継続しないと渋沢栄一は唱えていました。これは、経営者や企業が自分たちの利益追求だけでは、その幸福は長続きしないという警告です。これはSDGsにおけるサスティナビリティ(持続性)と同じことです。
 
もうひとつ重要なのは、インクルージョン(包摂性)という言葉です。今から10年ほど前、リーマンショックが起こりました。あらゆる世界の中央銀行が超金融緩和を行い、景気の底上げ、資産価格の回復、失業率の低下ができたことを踏まえると、いい状態にはなった。ただ、金融政策は万能ではありません。なぜなら、平均値と総額という数値しか見えていないから。その平均値や総額に表れていな人々の怒りが、今の社会への不安につながっているように思います。インクルージョン(包摂性)がないと、サスティナビリティ(持続性)がない」
 
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イノベーションにおいて、必要なのは「“と”の力」だと話す渋澤氏。「白“か”黒か」、「ゼロ“か”1か」だけを比べ、どちらかを選択して進める「か」の力ではなく、どちらも選択することが重要になってくると語った)
 
「一般的に、企業人は算盤でしっかり稼いでから、そのあとで論語を実施するという順番になると思います。ただ、論語“と”算盤というように、一見かけ離れたものを一致させる力こそ重要です。最初はそれが矛盾や無駄に思え、答えが見えないかもしれない。しかし、試行錯誤を繰り返せば、ある瞬間、つながることがあるかもしれません。それは新しいクリエーションです。
 
SDGsは、2030年を目処に“誰一人取り残さない世の中をつくる”という目標を掲げています。SDGsに限らず、物事を達成できるかどうかは、できるかできないかではなく、やりたいかやりたくないか。成功者は、できる・できないでは考えません。ただ、やりたいかやりたくないかがあるだけです」(渋澤氏)
 
20181004カフェ原稿写真取り換え写真B〈SDGsマンダラアート〉
(渋澤氏が企業の研修で実験的に用いているSDGsマンダラート。まちづくり、ジェンダー平等などの目標に対し、何ができるのかを可視化)
 
また、人間は生まれた国や生活している地域社会、会社、自分自身の成功体験の中で、誰しもが“枠”を持っていると渋澤氏は言います。私たちは本能から安全を求め、枠の中で生活することに満足しているとき、コンフォートゾーン(自分にとって心地よい範囲)にとどまります。ただ、その枠の内側が小さくなっていることに気がついていません。たとえ枠そのものは動いていなくても、外が大きくなっていれば相対的に枠は小さくなるもの。そんな状況で、企業が価値を創造するのは難しいと渋澤氏は語ります。
 
「価値をつくるためには、外から異分子を入れるべきだと渋沢栄一は考えていたと私は思います。若き栄一は尊王攘夷派でありましたが、初めて西欧社会を自分で体感したときに目が開いたからです。西欧の社会インフラや技術などを日本へ持ち込み、日本の近代化に成功した。現在では、地域創生でも、企業でも同じです。多様な視点を取り込むことが、これからの繁栄へとつながります。
 
SDGsが達成される2030年に生きるミレニアル世代に期待しているのは、未来を信じる力を持っていること。世代交代が加速する2020年以降は、過去の成功体験を持つ人がいなくなり、成功体験を持っていない人たちが中心となります。それまでの価値観から、日本は大きく変わることでしょう。過去の成功体験から真っ直ぐ延長しても、未来の成功は築けません。また、女性の活躍が当たり前となり、“女性の活躍”という言葉そのものが死語となるかもしれません」
 
渋澤氏が最後に「人間しか持っていない力」として述べたのは、「想像力」。人間は自分自身が体験したことのない未来についても、飛躍して想像する力を持っているのです。これは、他の動物やAI(人工知能)が持っていない特長です。

2030年を担う、ミレニアル世代への期待

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(渋澤氏=右=の話を聞く、多賀谷)
 
第一部、第二部の後には渋澤氏と多賀谷による対談、そして会場からの質疑応答の時間が設けられました。
多賀谷は、渋澤氏に「いつから、なぜESG投資を行うようになったのか」という疑問をなげかけます。
 
「20代、30代の頃、私は外資系の金融機関で働いていました。今の仕事を行うようになったきっかけのひとつは、子供が生まれたこと。今も大切だけど、30年後に子供が大きくなったときにこの国はどうなっているのかということを、自分ごととして考えるようになったことも大きいです」(渋澤氏)
 
また、会場からSDGs達成のための課題について尋ねられると、
 
「取材先でも、SDGsのために具体的に何をすればいいのかとよく聞かれます。ただ、私個人の意見ですが、SDGsは事業計画や数字などをもとに、焦ってすぐに取り組むものではありません。自分たちの事業がどういったものなのか、社会とどう接点があるのかをまずは考えてみましょう」
 
と多賀谷が語りました。
 
SDGsとひと言でいっても、その目標は実にさまざま。まずは自分たちに何ができるのかを考えながら、企業が一丸となってSDGsに取り組むための指針を今一度見直すことが求められています。
 
渋澤氏は最後に、以下のように結びました。
 
「若い世代は、就職活動でも仕事を通して社会にどう貢献できるかというのを軸にしていて、SDGsにも強い関心を持っている人が多いです。そんなミレニアル世代が日本社会の中心となってくる2030年に期待しています」
 
ミレニアル世代が活躍し、SDGsが達成されているであろう2030年。その頃、果たして日本は、世界は、どのように変わっているのでしょうか。
 
<編集・WRITER>サムライト <写真>鈴木智哉

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