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1クラスに3人はLGBTQ+? 「スカートは嫌」 多様な性を意識、制服に起きた変革

更新日 2022.02.02
目標4:質の高い教育をみんなに
目標5:ジェンダー平等を実現しよう

SDGsには「誰も置き去りにしない」という目標のもと、「ジェンダー平等」や 「国や人の不平等をなくそう」などが掲げられています。LGBTQ+(*1)という言葉は当事者や支援者が声を上げ、活動してきたこともあって、広く社会に知られるようになりました。一方で「自分の周りにはいない」と考える人も多いようです。本当にみなさんの周りにはいないのでしょうか?また、みなさん自身は当事者ではないのでしょうか?

©社会応援ネットワーク/太田出版

LGBTQ+に代表されるセクシュアル・マイノリティーの人々の割合については、政府機関などによる公的な統計データがなく、民間団体・企業などによる様々な調査結果が報告されています。2020年の調査(*2)によると、日本の20~59歳でLGBTQ+層の人は 8.9%、約11人に1 人ということが明らかになりました。1クラス(35人)に3人はLGBTQ+層の人がいる計算になります。

それなのになぜ、多くの人は「自分の周りにはいない」と思っているのでしょうか。LGBTQ+の当事者の多くは、日常生活のさまざまな場面で傷つき、生きづらさを感じても、なかなかカミングアウト(*3)ができなかったと言います。2013年時点の調査(*4)では、学校在学中に当事者の約7割が、いじめや暴力を受けたことがあると回答しています。また、約半数の人がそのことを誰にも相談していませんでした。

©社会応援ネットワーク/太田出版

2015年のSDGs採択と同年、文部科学省がセクシャル・マイノリティーの児童生徒への対応に関する文書(*5)を発表。この頃から学校においても、多様な性のあり方を含め、生徒の個性や意思を尊重する対応が強く意識されるようになりました。中でも、日本の学校文化の一翼を担う学校制服(標準服)には変革が起きます。多様性を意識した制服にモデルチェンジする学校が増えていったのです。こうした学校や生徒たちの要望にいち早く応え、多様なオーダーに応える「レインボーサポート」というプロジェクトを立ち上げた明石スクールユニフォームカンパニーの榊原隆さんを取材しました。

榊原さんは、入学前の制服採寸時に、生徒がジェンダーや性に違和感を持つ瞬間にたびたび遭遇してきたといいます。「スカートをはくのが嫌、と泣き出すお子さんがよくいます」。小学校には、ほとんどジーンズパンツで登校していて、中学校入学時に初めて本人も家族もトランスジェンダーを自覚することが多いそうです。同じ反応でも、理由は性表現に対する強いこだわりであったり、身体的な事情であったりとさまざま。そうした生徒個々人の事情に向き合い、多様な性への対応を可能にする「レインボーサポート」プロジェクトが2018年に立ち上がりました。

その頃から、従来の女子はセーラー服、男子は学ランというスタイルから、ブレザー型の制服にモデルチェンジする学校が急速に増えはじめました。モデルチェンジする際に、同時にスカート・ズボン・ネクタイなどの組み合わせを個々人が自由に選べる方法を採用することによって、多様な性に対応できるからです。

明石スクールユニフォームカンパニーでは、組み合わせ選択をする際に、女子用、男子用という表現はせず、タイプA、タイプB、タイプCと呼ぶ基本形を設けています。さらに、基本型を選んだ上で前身ごろの合わせを変える、袴型スカートにするなど、あらゆる生徒の意思を尊重できるよう選択の幅を広くする工夫をしており、それを「レインボーオーダー」と呼んでいます。このシステムを採用した学校で、興味深い現象が起きているといいます。

「自分だけではない」が可視化

卒業年度になって、タイプを変える生徒さんが増えているのです」。入学の時は家族に遠慮していた、あるいは通学中に自分の性的指向に気づいたなどで、卒業式ぐらいは自分の意志で選んだ性の制服で参加したいという理由からです。制服の選択肢が広がったことで「みんな同じじゃない」「自分だけではない」ということが可視化され、これまでできなかった意思表示がしやすくなったのかもしれません。こうした取り組みも、学校制服メーカーによるSDGs活動の一環といえるでしょう。

2020年、福岡県北九州市は市立の中学校全校をセーラー、学ラン型からブレザー型に変えました。同様のケースは全国に広がっています。また、1校の生徒数が少ない三重県いなべ市および東員町では、教育委員会と校長会が協力して、地域内の中学校を同じデザインのブレザー型に統一、エンブレムやボタンで学校の違いを表現しています。今後も、多様性に対応したこうしたモデルチェンジは加速しそうです。

もともと、男性と女性に求められる人間像が大きく異なっていた明治時代につくられ、ジェンダーの影響を色濃く受けてきた日本の学校制服(*6)が、世界的な潮流である多様性にどう対応し、進化していくのか、学校がどのような選択をするのか、SDGsとLGBTQ+という観点から注目していくのも面白いかもしれません。

【参考】

*1 「最近、よく耳にするLGBTQ+って何のこと? SDGsとの関係は?」

https://miraimedia.asahi.com/lgbtqsdgs_01/

*2 電通ダイバーシティ・ラボ「LGBTQ+調査2020」

https://www.dentsu.co.jp/news/sp/release/2021/0408-010364.html

*3 これまで伝えていなかった自分自身のセクシュアリティー等を、周囲に開示すること。

*4 いのちリスペクト。ホワイトリボン・キャンペーン「LGBTの学校生活に関する実態調査」(2013)

5 「性同一性障害や性的指向・性自認に係る、 児童生徒に対するきめ細かな対応等の実施について」

https://www.mext.go.jp/content/20210215_mxt_sigakugy_1420538_00003_18.pdf

*6 馬場まみ「ファッションにみるジェンダー ―婚礼衣装と学校制服―」『日本衣服学会誌』54(2)、P91-94、2011年

≪この記事は『図解でわかる14歳からのLGBTQ+』(社会応援ネットワーク著/太田出版)の内容を加筆修正して作成しました。≫

writer:代表理事 高比良美穂

一般社団法人社会応援ネットワーク

「心のケア」や「防災教育」、「多文化共生」を中心に子ども・学校支援を行う社会応援ネットワークの代表理事。朝日新聞社でメディアプロデューサー、若者向け新聞『SEVEN』の編集長などを経て2002年に独立。『子ども応援便り』『がっこう応援便り』などの編集長を歴任し、2011年、東日本大震災の被災地の学校からの要望で避難所にメッセージ号外を配布したことをきっかけに団体を設立。以後、全国の学校や保護者団体と連携し、「学校に今、必要なこと」に応え、情報提供や出前授業などの活動を続ける。2020年、コロナ禍での悩みに応えるためのサイト『こころの健康サポート部』を立ち上げる。

最新著書紹介『図解でわかる 14歳からのLGBTQ+』

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