LGBTカミングアウト 子どもにどう教える?【未来メディアカフェVol.23】

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同性愛やトランスジェンダーなど性のあり方が多様化するなか、誰一人置き去りにせず、誰もが生きやすい世の中を実現するために、意識の持ち方や日ごろの気遣いはどのようにしたらよいのか――。

 
23回目となる未来メディアカフェは、これまでSDGs(持続可能な開発目標)ではあまり触れられてこなかった「性」をテーマに、心と体の性が一致しないトランスジェンダーの杉山文野さんを迎え、朝日新聞メディアラボ渋谷分室で7月10日にトークイベントを開いた。題して「LGBTカミングアウト……あなたならどう受け止めますか? 杉山文野さんと考える『多様な家族・多様な性』」。

性の不一致に悩んだ日々 人工授精で赤ちゃん授かる 杉山文野さん

SDGsは2030年までに17分野の目標達成を掲げている。中には「ジェンダー平等」(目標5)、「人や国の不平等をなくす」(同10)があるが、LGBTなど性的少数者(以下LGBT)に関しては具体的に盛り込まれていない。性に対する見解が国によって異なり、同性婚を認める国がある一方、同性愛を禁止するケースもあることなどから、共通の目標にできなかったというのが実情だ。

 
物心ついた時から性の不一致に悩んでいたという杉山さん。幼稚園の入園式ではスカートが嫌だと泣き、習っていた水泳は水着のせいでやめた。制服のスカートの下にはいつも短パンをはき、なんとか気持ちをやり過ごして通学した。フェンシングは日本代表まで上り詰めたが、男女でユニホームに違いが少ないという理由で始めたのだった。

 
「女の子だった時期は一度も無い」。自分がどんな大人になっていくのか、年を重ねる未来が全く想像できない。男性として暮らしていく選択肢を知らず、大人になる前に死んでしまうのではないか。それならば早く死にたい、とすら思ったこともあったという。

 
失恋、そして親友へのカミングアウト……。つらく苦しい現実にしっかり向き合った時期は、逆に自分を大きく成長させてくれた。今でもトイレや風呂のほか、選挙の投票や免許証の提示、海外渡航など思いもよらない場面で困ることもある。しかし、今は、すべてポジティブに捉えられるようになっているという。

 
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現在は、パートナーと昨年生まれた子どもと暮らす。性的少数者への偏見や差別をなくす活動を一緒にしていた同性愛者の男性から精子の提供を受け、人工授精して授かった赤ちゃんだ。パートナーと杉山さんは法的に婚姻関係を結ぶことはできず、杉山さんに親権はない。周囲の理解を得るための道のりは長かったが、パートナーの出産後、親たちは泣いて喜んでくれた。「自分たちが親になった喜びもありますが、それ以上に互いの両親をジジババにさせたことの方がうれしかったかも知れない」

自治体パートナーシップ制度続々 小さな一歩の積み重ね

LGBTに対する取り組みや理解は少しずつ広がっている。企業は顧客、社員双方への取り組みを進め、自治体が同性カップルを正式に認めるパートナーシップ制度は全国で24自治体が導入し、すでに500組以上が申請した。

 
これまで様々な活動を展開してきた杉山さんは「普段生活している中で、身近に困っているやつがいれば、何かできることをやってみようかと考える。そんな小さな一歩を積み重ねた結果」と振り返る。そのうえで誰もが今からでもできることとして「ウェルカミングアウト」を紹介した。当事者にとって、良き理解者かどうかは外からはわからない。LGBTへの理解と支援を表すバッジなどを身につけたり、ニュースなどにSNSで反応したりすれば、「この人ならば相談できるというきっかけや安心感につながる」と話す。

 
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杉山さんは講演の最後、「多様化する社会ではない。すでに多様な社会なんです。自分の知らないものや自分と違ったものに出会った時こそ、柔軟に対応する適応力、応用力が求められている。誰だって一つぐらいは人に言えないマイノリティー性がある。世の中は誰一人として同じ人がいない中、グループを作っているだけ。マイノリティーの課題に向き合い、優しくできる社会は、きっとマジョリティーにも優しい社会になるんじゃないかと思う」と語り、締めくくった。

子どもにLGBTどう教える?

その後、過去に杉山さんを取材したことがある朝日新聞東京本社社会部の杉山麻里子デスクとのトークでは出産時の思い出や子育て談議を展開。出産前は血のつながりがないことに不安を抱いていたが、おむつ交換やミルクの時間、泣きやまないこともよくあり、実際には日常に追われ、考える暇などないという。

 
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杉山さんは「血のつながりがなくても、コミュニケーションを一つずつ積み重ねていくということが家族になるということだと実感している」と語り、「LGBTというだけでこんな素晴らしい人生の機会を最初からないことだと思いすぎている。社会に思い込まされている現状はあまりにもったいない。子育てしたいという思いがあるならば、血のつながりにこだわりすぎずに何かしらの形で子育てに関わった方が人生はより豊かになるのではないでしょうか」と、悩みを抱える人たちに語りかけた。

 
質疑の時間では、「子どもにLGBTについて教える時期や進め方は」という問いかけに対し、杉山さんはカナダやオーストラリアなどでは塗り絵の絵本にお母さんが2人いたり、トランスジェンダーの話が出たりしていることなどを紹介。「1回話して終わりではなく、その時、その時の理解できるレベルでちゃんと伝えていくことが大事」と話した。
      
 
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参加者はその後、杉山さんから提案のあった「子どもと街を歩いているときにトランスジェンダー女性らしき方とすれ違い、『男の人なのにスカートはいているなんて気持ちわるーい!』とひと言。あなたなら何てお子さんに声をかけますか」というお題に対し、数人ずつでディスカッション。話し合った内容を発表し、交流を深めた。

 
<WRITER・写真>小幡淳一

 
杉山文野(すぎやま・ふみの)
1981年、東京都生まれ。フェンシング元女子日本代表。早稲田大学大学院でジェンダー論を学び、研究内容と性同一性障害と診断を受けた自身の体験を織り交ぜた『ダブルハッピネス』を講談社から出版。一般企業に3年ほど勤めた後に独立。日本最大のLGBTプライドパレードを運営する特定非営利活動法人東京レインボープライド共同代表理事、セクシュアル・マイノリティーの子どもたちをサポートするNPO法人ハートをつなごう学校代表、日本初となる渋谷区・同性パートナーシップ証明書発行に携わり、渋谷区男女平等・多様性社会推進会議委員も務める。現在は精子提供を受け、パートナーとともに子育てをしている。

 
杉山麻里子(すぎやま・まりこ)
朝日新聞社社会部次長。1995年に入社し、長野支局、横浜支局を経て、東京本社社会部、AERA編集部で勤務。教育や子育て、家族、ジェンダーなどを中心に取材してきた。日本新聞協会が主催し読者からの感想文を募る「HAPPY NEWS 2010」大賞に、執筆した記事「満員電車友だち 10人」が選ばれた。著書に『ルポ同性カップルの子どもたち アメリカ「ゲイビーブーム」を追う』(岩波書店)。

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