報道するメディアから支援するメディアへ
神武 今、社会課題を報道するためのメディアから解決を支援するメディアへ、という流れがあります。この「未来メディアキャンプ」も、そんな流れの中でこれからのメディアのあり方を探るというトライアル的な側面も持っています。
林 物事の情報を編集する人=記者が、解決の段階まで関われるのはすごくいいことだと思いました。ただ、私はメディアが課題を解決するためのプロジェクトの実践者になる必要はないと思っています。なぜなら実践するプロはすでにいますから。
神武 僕はその役割がはっきりしている必要はないのではないか、と思っています。役割が明確だとその間をつなげる人が必要になり、そういう人がいない場合はプロジェクト全体がなかなかうまくまわっていかないことが多いからです。
林 確かに領域を超えて融合する部分を作るのは一番重要なことだと私も思います。
神武 では、これからのメディアはどのような役割を担っていくべきだと思いますか?
林 メディアというと、中立に情報を伝える報道機関であることが主たる活動と思われがちですが、それに加えて、報道対象の人や活動を「支える役割」もあるのではないでしょうか。記事にすることとは、光をあてること。ある種、「ノーベル賞」のようなものかもしれません。
新たにクラウドファンディングとの連携も
神武 ノーベル賞ですか?
林 はい(笑)。先日もお二人の日本人研究者がノーベル賞を受賞されて大きな話題になりましたが、あの時私は世界中の科学者や研究者にとってノーベル賞はやはり大きなインパクトがあると改めて思いました。科学者の仕事は経済的合理性だけで考えたら報われないことの方がはるかに多いですよね。それでも彼らは、自分が今この研究をやり続けることでいつかその問題が解決する日がくるかもしれないという期待を胸に、日々研究に没頭している。そんな方たちを讃えるノーベル賞は彼らにとって心の支えだと思います。
神武 なるほど。つまり、メディアは自らが社会課題を解決する実践者になるのではなく、社会課題のために活動する人たちを支援する存在になりえるのではないか、ということですね。
林 そうです。メディアは今や単に事実を伝える媒体というよりも、ソーシャルメディアも含めて様々な関係性を紡ぐものになっています。だからこそ、そういう領域があってもいい。むしろ、そういった領域を意識的に作ることが、これからのメディアの役割の一つになっていくのではないかと思います。ノーベル賞は、まだ世に知られぬ人々を可視化し、応援する「メディア」であるという見方もできますね。
神武 その発想から朝日新聞が立ち上げた試みの一つが、クラウドファンディングの「A-port」なんだと思います。今回「未来メディアキャンプ」では、新たな取り組みを幾つか行うのですが、「A-port」と連携して参加者が考えたアイデアをネット上で紹介し、実現のための寄付を募ることもできるようにしているところはその新たな取り組みの一つです。
林 それはいいですね。これからは「未来メディアキャンプ」で課題解決に取り組んだチームのその後の展開にも期待できそうですね。
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