工作や書道から、マジックにアロマテラピー、ドローン操縦まで──。地域には、個性あふれる、大人たちのスキルがたくさん眠っています。いま横浜で、そんな大人たちのスキルを活かし、子どもたちに学校では得られない“学びの場”を提供するプロジェクト、「あそびい こどもカレッジ」が始まろうとしています。
「あそびい こどもカレッジ」を主催するのは、株式会社パパカンパニーの添田 昌志さんと高瀬 康道さん。パパカンパニーは、横浜市内の保育園で出会った「パパ友」の添田さんと高瀬さんが、子育てに楽しさを感じる機会を増やしたいという思いで設立した会社です。
2019年1月27日、横浜市関内のKosha33で、この「あそびい こどもカレッジ」プロジェクトの説明会が開催されました。当日の模様をレポートしつつ、パパカンパニーの取り組みをご紹介します。
「あそびい こどもカレッジ」が生まれたワケ
「あそびい こどもカレッジ」のビジョン説明会当日。日曜日の朝にもかかわらず、横浜・関内の会場には40名ほどが集まりました。どの参加者も、「書道」や「工作」、「マジック」といった、自分が子どもに教えたい・教えられるスキルが書かれたカードを首から提げています。
説明会は、パパカンパニー代表の添田さんによるこんな言葉で始まりました。
「私たちは、学校では習わない多様な体験を子どもたちに提供したい、と思っています。子どもが本当に好きなことを見つけるには、さまざまな体験をたくさんすることが不可欠。そんな体験の機会を子どもたちに提供すると同時に、親にとっても子どもの新しい面を発見するような場を作れれば、と思います。
地域には眠ったままの場所がたくさんあり、空いている場所をぜひなにかに活用してほしい、というニーズも多数あります。そんな場所を使って子どもたちに新たな体験を提供することで、『子どもは地域で育つ』というのをここ横浜から体現していきたい、と考えています」
パパカンパニーはこれまで約3年半にわたって、子育てファミリー向けに、横浜・湘南のお出かけ情報サイト「あそびい横浜」を運営してきました。お出かけスポットを紹介する際、「ベビーカーを置けるのか」、「本当に親子で楽しめるのか」といった親子目線を重視しているというあそびい横浜は、のべ400万人に利用されている大人気サイト。そんなWebサイトの運営を通じて知り合った企業や団体から、「横浜市のさまざまな場所を活用して親子を集めてほしい」という相談を多く受けるようになったことが、「あそびい こどもカレッジ」の構想につながったと添田さんは語ります。
「たとえばこれまで、横浜駅前の川でマリンスポーツの『SUP』を親子で体験するイベントや、横浜の公園でかけっこ教室をするといったイベントを『あそびい横浜』に掲載してきました。どれも人気で、掲載するとすぐ満員になってしまうんです。いまは、需要はたくさんあるのに供給が足りていない状態なので、もっといろいろなイベントをさまざまな人たちの協力で開催することができたら、と思っています」(添田さん)
親子が「経験を共有する」機会を作りたい
続いて、「あそびい こどもカレッジ」プロジェクトを共同で進めている、横浜でワークショップやイベントの開催をおこなうソライロデザインワークスの今井将さんから、こどもカレッジにかける思いと、その具体的な構想についてのお話がありました。
「現代は、ほんの1~2年でさまざまな情報・状況がめまぐるしく変化してしまう時代です。10年後や20年後、自分の子どもがどんな仕事に就き、どんな生活をしているかという想像もなかなか出てこないと思います。そんな時代において、『大人が子どもになにかを一方的に教える』というのはもう違うのではないか、と考えるようになりました。
いまは知識だけではなく、大人がこれまで生きてきた“経験”を子どもに伝えることが、子どもにとって大きな勉強になる時代なのではないかと思っています。大人が持っている魅力的なスキルを活かし、親子が“経験の共有”をすることで、親も子も人生の選択肢がこれまで以上に広がるのではないか、と思うのです」(今井さん)
あそびい こどもカレッジは、スキルを持った地域の大人たちに「カレッジコーチ(先生)」になってもらい、横浜の親子にさまざまな“経験の共有”の場を提供すると同時に、カレッジコーチには、参加費はもちろん、イベントを開催する場所(横浜市内)やコーチ同士のコミュニティ、副業支援の場などを提供するというしくみ。
カレッジコーチや参加者の親子だけでなく、横浜市内の商店街や商店会、幼稚園や小学校などの教育機関といった事業者(場所オーナー)にとっても、バラエティ豊かなコンテンツを定期的・継続的に開催できるというメリットがあるプロジェクトです。「あそびい こどもカレッジ」の構想は2018年秋に開催された「未来メディアキャンプ2018」の中でブラッシュアップされ、正式なプロジェクトとして採用されました。
「まず今年は3~4月から各種トライアルを始め、プログラムや仕組みの開発を進めます。3年目に正式に運用をスタートする予定です」(今井さん)
会場からの質疑応答の時間も設けられました。ある参加者からは、「まだ教室などを開いた経験がなく、自分のスキルにお金を払ってもらうことに自信がないという人の練習の場はあるか」という質問が。添田さんは、「さまざまなカレッジコーチの方がいて、その経験の差もさまざまだと思います。もちろん、経験に応じて運営側が伴走する機会も作りたいです」と回答していました。
「地域への恩返し」「親子の化学反応が見たい」──カレッジコーチのさまざまな思い
(参加者の鈴木早希さん<左>とおかもとりょうこさん<右>。それぞれ、書道と工作・絵画を横浜の親子に教えたいという)
説明会のあとは、会場の参加者同士で交流会が開催されました。今回の説明会を受け、カレッジコーチとして自分のスキルを活かしてみたい、と改めて思った参加者も多いようです。
参加者のひとり、今井司さんは現役のマジシャン。ご自身も地域のマジッククラブでマジックを習い、プロになったと話します。
「自分自身が地域のコミュニティで育ったので、今度は自分が地域になにか恩返しをしたい、という思いで今回参加を決めました。いまでも子ども向けのマジックのプライベートレッスンをおこなっているのですが、こどもカレッジへの参加で、コーチ同士の交流も生まれればいいなと思っています」
また、ドローンパイロットのはらさんは、同じものに親子が初めて触れたときの化学反応を見てみたい、と言います。
「もともと大人向けにドローンの操縦を教えたり、小学校の課外授業でドローンのことを教えたりはしていたのですが、こどもカレッジに参加することで、子ども向けのしっかりとしたカリキュラムを作りたいなと思っています。2020年度からプログラミングが必修化されることもあり、子どもにはぜひドローンのしくみや操縦についての知識をつけてほしいなと。
それにたぶん、ドローンって多くの大人も触ったことがないものですよね。大人も子どもも同じスタート地点から学びを始めたら、一体どんな化学反応が生まれるんだろう? というのを、個人的にはとても楽しみにしています」
大人の小さな経験も、子どもにとっては大きな気づきになり得る
最後に、パパカンパニーの高瀬さんは、あそびい こどもカレッジに対する期待をこんな風に語りました。
「たとえば『足が速い』とか『手先が器用』といった自分のちょっとした強み・経験が、子どもにとっては非常に大きな気づきになるということは多々あります。カレッジコーチの方々には、自分のいろいろな経験を“人に教えられるようなことじゃない”と思わずに、自信を持って子どもに提供してほしいと思っています」
個性豊かなスキルを持った大人たちと、学校では得られない体験を求めている好奇心旺盛な親子。双方が出会ったときにどんな化学反応が生まれ、ひいては横浜の街にどんな変化がもたらされるのか、いまからその結果が楽しみです。
<編集・WRITER>サムライト