オッフェンの岩本さん(写真右)と日坂さん。
日々の暮らしに欠かせない買い物。手にする商品の背景を知り、毎日使う「お金」の行き先を環境配慮型の商品に変えていくことで、社会課題の解決に少しずつ近づくことができるかもしれません。
「買えるSDGsプロジェクト」では、私たちが思わず「いいね」と唸った商品の背景や開発者のストーリーを紹介します。(通販事業部バイヤー・白木琢歩)
1, 普段履けるちょっとオシャレな靴。そして環境に優しいがテーマ
港町・神戸市を代表する観光スポットの一つ・北野エリア。明治の開港以降、外国人が住んだ邸宅が今も点在する異人館街は、多くの観光客でにぎわう。異国情緒が漂うこのまちに、環境配慮型の靴作りに取り組むシューズブランド「Öffen(オッフェン)」が初めて出した路面店がある。
関東や関西の大手百貨店でポップアップショップを開くたび、多くの女性が訪れる。女性誌などでもたびたび取り上げられ、インスタグラムのフォロワーは約4万人。人気の秘密はいったい何なのか。
店に入ると、色とりどりのパンプスが並んでいる。ただアッパー部分の素材は本革や合成皮革ではなく、再生ペットボトルから作った糸で編んだニットだ。ブランドのテーマは「普段履けるちょっとオシャレな靴。そして環境に優しい」。素足のような優しい履き心地を目指し設計されている。高品質のポリエステル糸を使っており、丸洗いができるのも特徴だ。
「パンプスを履いて足が痛い思いをする女性たちに、少し楽におしゃれしてほしいと思って作りました」。長年アパレル業界でデザインやブランディングに携わってきたオッフェンのプロデューサー、日坂さとみさんが説明する。オッフェンとは、ドイツ語で「解き放つ」といった意味がある。独自のものづくりで女性を足の悩みから解放する、そんな思いがブランド名に込められている。

2,子育てで感じた不安と納得。説明できる靴作りの原動力に
オッフェンは2021年春、日坂さんと、神戸で長年靴作りに携わってきた岩本英秀さんが立ち上げた。旧知の2人は、かねてから新しい靴ブランドを始めようと計画していた。ただ、これまでも靴やバッグなどを多くデザインしてきた日坂さんは悩んでいた。「デザインとか履き心地がいい靴って、すでに世の中にいっぱいある。そこで何が違うということを皆様に訴えられるのか」。
長年アパレル業界に身を置いてきた日坂さん。半年先の流行を読んでデザインし、大量に生産して売れ残ったらセールする。半年ごとに新しい商品を投入する。そんな業界の早すぎるサイクルに、疑問も感じていた。
「自分が今必要だと思ったものを、必要とされる分だけつくる。そのほうが、よっぽど消費者の気持ちに近いと思うようになったんです」
出産したことがきっかけで、商品の作り手の姿勢を今まで以上に気にするようになった。子どもが手にしたり、口にしたりする商品が本当に安全で、安心できるのか。どんな会社がどんな工程で、どんな素材を使って作っているのか。細かく知りたいと思うようになった。
「企業の姿勢や商品の背景の部分が見えないと不安になるし、逆にちゃんと説明してもらって納得できたらファンになるということを一消費者として体験しました。それを作り手としても、きちっとやっていきたかった」。
同時に環境への関心も高まり、さまざまな知識を吸収した。ごみを出さない「ゼロ・ウェイスト」の先進地・徳島県上勝町を訪れた時には、ショックを受けた。そこでは多くのものが小分けに分別されリサイクルされていた。しかし、靴は数十ものパーツから構成されるため、分別できず「燃えるごみ」として処分されていた。「いかにごみを減らせるか」を新しいブランドの新たな課題に据えた。

3.素材だけじゃない「ごみセロ」へのこだわり。業界の「当たり前」を変えていく
日坂さんと岩本さんは計画をいったん白紙に戻し、デザインと履き心地に加えて、環境負荷の少ない靴をつくるべく、素材から考え直し始めた。その頃岩本さんが出会ったのが、使用済みペットボトルから作られた糸だ。
アメリカや日本から分別回収された使用済みペットボトルは、リサイクル専門の工場で、洗浄、殺菌され、小さなチップへと粉砕。熱処理を加え紡績することで再生PET糸として生まれ変わる。「これを使ってニットの靴にできないか」。今までにない着想を得て、新たな挑戦が始まった。
既存の靴の木型が使えず、岩本さんは十数回も試作を重ねた。その理由の一つが、パーツの数を大幅に減らそうと工夫を重ねたからだ。岩本さんによると、通常の女性用のパンプスは50前後ものパーツで構成され、接着剤を用いて一体化させているという。
工程をシンプルにして、作り手の負担を減らしたいという思いも強かった。「靴作りって完成するまでたくさんの人の手を渡って、長時間かかる。パーツを減らし、工場の人が休めるほうがいいかな、という思いがある」と岩本さん。オッフェンの靴は10パーツ前後まで減らした。接着剤の量も、通常の3分の1程度で済んでいるという。製造工程での裁断作業もなくし、端材が出ないようにした。
通常の新しい靴なら発売までの準備期間は半年あれば十分だったが、オッフェンの場合はデビューまで2年もの時間がかかった。

靴そのもの以外にも、ごみを減らす工夫が盛りだくさんだ。たとえば、オッフェンの靴には1足ごとの靴箱がない。お客様に手渡す時には、再利用ができる丈夫なペーパーバッグに入れている。これは日坂さんのアイデアだった。
靴業界が長い岩本さんは「今でこそ慣れましたけど、これまでは靴を運搬したり保管したりするのに靴箱は欠かせないものだったんです。物流の人からも『無理でしょ』って言われました」と振り返る。上の写真のように、段ボールにタテに入れるなどの工夫で、なんとか実現にこぎ着けた。ペーパーバッグを結んでいるのは、スニーカーなどに使える靴ひもだ。
形崩れを防ぐため、新品の靴の中によく入っている丸めた紙もなくした。その代わり、植物由来の生分解性プラスチックでできたシューキーパーが付属している。「今まで当たり前だと思っていたことを『本当にそうかな?』と見直していって、今の形になりました」と日坂さん。
「結局私たちも、いろんな人の話を聞いたり見たりして、疑問が生まれてきて、行動でこういう風にしようとなった」と話す。今後は、いまどんな問題が自分たちのの近くて起こっているのかを、お客様と一緒に学ぶような機会をつくりたいという。「オッフェンの靴を履いて、そういうところに旅をしに行きませんか、というツアー的なことを将来的に組めたらいい」。
岩本さんは、作る人たちの環境をさらに整えたいという。「今まではコスト面が重視されすぎて、工場の人たちの長時間労働などにつながっていた面があると思う。働く人の過度の負担を減らさないといけない。そういうところでできた商品こそが、本当に環境に配慮したものだと思います」。
【買えるSDGsプロジェクト】
株式会社朝日新聞社、株式会社大広、株式会社Gabによる共同プロジェクト。日本最大級のエシカルメディア「エシカルな暮らし」を運営するGab社が扱う社会課題解決型の商品が、「朝日新聞モール」で購入できます。
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