大阪湾を囲む4自治体の抱える地域の課題を「SDGs」の視点から掘り起こし、未来に向け、持続可能な課題解決策を探る「関西湾岸SDGsチャレンジ」(主催・朝日新聞社メディアビジネス局、甲南大学、後援・神戸市、堺市、和歌山市、徳島市)を2018年8月から9月にかけて開催しました。甲南大学(神戸市東灘区)の学生と地元の高校生が、大学教員のサポートも受けながら、テーマ設定から現地でのフィールドワークなどを通してまとめた独自の解決策を9月に大学で発表。若いアイデアで関西の未来をひらく取り組みに注目が集まりました。
甲南大学は2011年、大学が持つ知的資源を地域の課題解決や活性化に役立てることなどを目的に地域連携センターを開設し、各地の自治体や商工会議所などの20以上の団体と地域連携協定(包括連携協定を含む)を締結。また、地域の課題解決に挑む学生主体のプロジェクトやボランティアも積極的に支援してきました。
今回参加した神戸、堺、和歌山、徳島の4自治体とは、「海でつながる」をキーワードに「関西湾岸ネットワーク」を2年前に構築。SDGsに力を入れる朝日新聞社がパートナーとして加わり、大学生と地域、大学生と高校生をつなぐ新たな挑戦へと発展したのが「関西湾岸SDGsチャレンジ」です。
(新しい教育のあり方について話す稲田義久甲南大学総合研究所長)
甲南大学総合研究所長の稲田義久教授は「2030年以降の地球を支える若者たちに、バックキャスティング(未来のある時点に目標を置き、そこから振り返って今することを考える)の発想で、持続可能な仕組みを作るアイデアを出してほしい。国際的な視野と地域の視点を併せ持ち、国内外へ雄飛できる学生の育成に注力する本学において、朝日新聞社とともに、学生の経験をさらに豊かにできるプロジェクトです」と期待を込めます。
朝日新聞社もサポート 現地取材で解決策を探る
プロジェクトは課題を設定するグループワーク、現地を視察するフィールドワーク、解決策を発表する「SDGsチャレンジアカデミー」の3ステップで進行しました。
8月5日、応募があった大学生と高校生、自治体担当者ら参加者全員が大学に集まりました。大学生と高校生が1チーム7~9人の4つの合同チームを作り、1チームが一つの地域を担当。メンター(助言者)として加わった大学教員や朝日新聞記者とともに、「SDGs」の観点から地域ごとにテーマとなる課題を設定していきました。
8月下旬には夏休みを利用し、各チームが3日間程度、各地へ出かけ、テーマに応じたフィールドワークを実施しました。現地の企業や自治体、市民団体の視察、担当者へのインタビューなどを行い、設定した課題に関する情報収集と現状把握に努めるとともに、現地のさまざまな人たちとの交流も深め、学びと発見はより実り多いものとなりました。
そして9月23日に甲南大学で開催された「SDGsチャレンジアカデミー」でプレゼンテーション。異なる世代、異なる地域の学生が交流することで、互いに刺激し合った成果が次々と報告されました。若い感性を生かし、独自性にあふれた解決策は、大学関係者や自治体担当者も気づかない課題の提示もあり、大いに盛り上がりました。
(学生による地域連携に意欲を見せる佐藤泰弘甲南大学地域連携センター所長)
甲南大学地域連携センター所長の佐藤泰弘教授は「学生が地域に出て、自分たちで企画を考え、責任を持って活動することで主体性が育まれます。学生はそれぞれの地域の持続可能性に気づくことでしょう。長期的な視点で考えるプロセスを大事に取り組んでもらいたい」と今回のチャレンジへの期待を話しました。
徳島・堺・和歌山・神戸 現場と立場の多様性を実感
各チームが挑んだ課題と解決策を紹介します。
【徳島市チーム】藍の伝統文化の保全と活性化策
(藍染め工房で織り機を見学する学生たち)
徳島市チームは「持続可能な産業」として地元に伝わる伝統の「藍染め」に注目。大学生4人と徳島市立高校の生徒3人が、人口減が進む中、四国一の大河・吉野川が流れる街に受け継がれる藍の文化の保全と活性化策を考えました。
甲南大学マネジメント創造学部の倉本宜史准教授とともに、8月下旬、徳島市で藍染め業者や市、大学などから聞き取りを実施。「藍の良さを伝える機会が不足」「消費者のニーズがわからない」などの声を聞き、実際に工房ではハンカチ染めを体験しました。チームリーダーの法学部3年、内間理紗さん(21)は藍の美しい青みを目の当たりにし、「化学染料には出せない自然な風合いなどがよくわかった」と驚きました。
(調査に訪れた企業で藍染めを体験する徳島市チームの学生たち)
議論を経て、博物館などでの藍の企画展や、藍を育てる段階から体験できるツアー、畑の貸し出しなどを提案しました。いずれも「体験」に重きを置いて、使い道も多様な藍の魅力を伝える内容に。同高校3年の藤城三瑚さん(18)は「地元にいても知らなかったことが多い。徳島にとって大切な藍を残していきたい」と語りました。
(体験でできあがった藍染め作品を手に笑顔の学生たち)
【堺市チーム】住民減少と高齢化問題を抱えるまちを再生
(泉北ニュータウン内の緑道にてフィールドワークを行う堺市チームの学生たち)
堺チームは大学生5人と市立堺高校生4人が、住民減少と高齢化を抱える泉北ニュータウンの再生をテーマにしました。
西日本最大規模のニュータウンも誕生から50年。学生たちは、甲南大学経営学部の渡邊和俊教授と藤田順也准教授のもと、市役所やまちづくりの市民団体を取材。ニュータウン内を計24キロにわたって続く歩行者専用の「緑道」に焦点を当て、子育て世代の転入に役立てようと考えました。
住民自身によるガーデニングで「緑道を花で囲む」と提案。自然に親しみながら子育てでき、幅広い世代の住民によるコミュニティーづくりにもつながる。法学部3年の井藤七美さん(21)は、「豊かな緑と花で、まちのイメージを変えられると思った」と話します。種は古紙回収費などを充てることとし、市民団体の取材をヒントに、日常的に楽しみ、今あるものを生かすように意識しました。同高校2年、桃崎祐成さん(16)は、「現場を歩き、話を聞いて、わがごととして考えられた」と振り返りました。
【和歌山市チーム】交通手段を改善して住みやすい町をつくる
(和歌山市の交通政策に関してヒアリングを行う和歌山市チームの学生たち)
和歌山市チームは、大学生5人と市立和歌山高校の生徒3人が、「交通手段を改善して住みやすい町をつくる」をテーマに選びました。甲南大学共通教育センターの岡村こず恵特任准教授のサポートで、市役所や地域のバス運営協議会、町づくりの団体などに取材。電動カートの活用とバス停の改善という二つの解決策を提案しました。
4輪式の1人乗りで高齢者の間で普及する電動カート。バスの本数が少なく、駅も遠い地域で、コンビニや公共施設を拠点に、カーシェアリングのように地域住民が電動カートを共同利用できないかを探りました。試算した結果、利用料を月6千円程度に設定すれば、市内で最も高齢化が進む地区においても、黒字運営が可能になることがわかりました。
また、過去の市の調査報告書でバス停にベンチや屋根の設置要望が多い点にも着目。改修の具体的なデザイン案や、見やすい運賃表と時刻早見表の案も示しました。
チームリーダーを努めた経済学部2年の南野慎之介さん(19)は、「アイデアを出すだけでなく、調査とデータ収集をもとに有効性を検証することの大切さを学んだ」と話しました。
【神戸市チーム】神戸市を定住外国人が過ごしやすい都市に
(定住外国人について取材をする神戸市チームの学生たち)
「誰ひとり取り残さない」。SDGsの標語を掲げ、神戸市を定住外国人が過ごしやすい都市にしようと考えたのが神戸市チームです。
大学生5人と甲南高校(芦屋市)の生徒4人で構成。日本語の学習支援ボランティアを経験した高校生の発案で、外国人児童の存在に注目。市、支援団体、インターナショナルスクールなどを取材し、「学校で独りになる」「周りに話しかけられない」との子どもの声を聞き、甲南高校2年の木島亮さん(16)は、「誰もが受け入れられる『多文化共生社会』になってほしい」と考えたといいます。
解決策として示したのは「子どものSOSに気づける教員の育成」。外国人児童の進学率を上げる入試制度や、若者がボランティアで関わりやすい仕組みづくり、公設民営の学校の必要性にも踏み込みました。ちょうど期間中の9月、台風21号が関西に襲来。法学部3年の三浦麻由さん(20)は「外国の人は安全に避難できているか、と違う立場の人の見方で考えられるようになった」と振り返ります。
指導した甲南大学法学部の久保はるか教授はグローバルな課題を地域で、地域の課題をグローバルに考える重要性を指摘。「色々な立場がある難しいテーマも、SDGsの指針で望ましい姿が見えてきた」と手応えを感じていました。
ローカルからグローバル 革新を生み出す一歩に
稲田教授は「成果発表では思いも寄らぬアイデアを生み出す相乗効果を感じた。例えば、緑道という地元資源に着目した発想が面白い。電動カートのシェア提案で高齢者の公共交通を確保する提案は、実現可能性を秘めていた。ローカル(地域)の課題はグローバル(世界)につながっている。身近な地域を知り、関西に広げて考え、相互にヒントを得る。このチャレンジはイノベーションや起業を生み出す一歩となる場だ」と総括しました。
9月に発表された成果は、さらに大学のWEBサイトや朝日新聞記事でも広く発信。12月23日(日・祝)に甲南大学が開く高大接続イベント「リサーチフェスタ」でも紹介される予定です。