SDGハウス(5) SDGハウスの『外皮』:窓でまもる

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南面の木製窓の取り付け/Photo by Jumpei Suzuki, Courtesy of Nori Architects


SDGsで家を作ってみよう――。慶應義塾大学大学院教授の蟹江憲史さんが取り組む「SDGハウス」。プロジェクトを紹介するコラム第5弾です。


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前回はSDGハウスの「外皮」について、建築設計を担当する建築家の川島範久さんから断熱や気密を高めながら廃棄を少なくしたりすることで、SDGsに貢献していくことができるということを語ってもらいました。今回はその続きとして、窓について語ってもらいたいと思います。

窓は私がとてもこだわった点の一つです。大学院生時代にオランダに留学していた私は、オランダの開放的で大きな窓に非常に強い印象を持ちました。Low Skyといわれ、特に冬はどんよりとした雲が低い位置でかかることの多いオランダでも、性能の良い窓を大きくとることで、家の中は明るく暖かく、また、電気の使用量も少なくすることができるというのは、素晴らしいことだと思っていました。何よりも開放的です。自分が家を建てるとしたら、そんな大きな窓が欲しいという希望を持っていましたが、その想いが込められているのがこの窓です。


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窓も重要です

川島です。前回のコラムでは壁の話をしてきましたが、窓の断熱性能が低ければ、窓から熱が逃げてしまい、建物総体としての断熱性能は低くなってしまうので、窓も重要です。

一般に、窓の断熱性能は、サッシの断熱性能とガラスの断熱性能の組み合わせで決まります。サッシは、アルミサッシなどの金属サッシだと熱を通しやすく、樹脂や木製のサッシとすると熱が逃げにくくなります。樹脂はアルミの約1400倍、木はアルミの約2400倍、熱を伝えにくい性質を持っています。また、ガラスは、単板よりペアガラス(複層ガラス)のほうが熱が逃げにくく、さらにペアガラスにLow-E膜が貼られたLow-Eペアガラスや、ペアガラスの間に断熱ガスを充填したものがあり、それらのほうが熱を逃がしにくくなります。木製または樹脂製サッシとアルゴンガス充填のLow-Eペアガラスを組み合わせた窓は、アルミサッシと単板ガラスの窓に比べて、約4~5倍高い断熱性能があります。

本建物で採用した窓の断熱性能/Nori ArchitectsⓒAll rights reserved.


木製窓は断熱性能も高い自然素材です。近年求められる木材利用促進の観点からも、国産材を用いた木製窓を採用できればと考えていました。考えてみれば、一昔前の日本家屋の窓は全て木製サッシでした。しかし、それらは製作建具でスカスカで隙間風がビュービューと入ってしまうような欠点がありました。それが近年では、機械加工の技術が進歩し、気密性の高い木製サッシの製作が可能になりました。

もうひとつの木製サッシの欠点は、燃えてしまうことでした。しかし、近年、木製サッシに加熱膨張材を組み合わせることで、木の着火温度近くまで加熱されると膨張材が膨張して窓と窓枠の隙間をふさぎ、炎をシャットアウトする技術が確立されてきました。また、木は表面が炭化するとその層が断熱の役割を果たすことになり、実は燃えにくく強度を保つことが可能なのです。

今回の敷地は、準防火地域のため、延焼の恐れのある範囲では防火窓とすることが求められました。そこで、上記のような遮炎技術を活用し、試験をクリアして防火設備認定を得た木製サッシを南面の大開口等に採用することにしました。国内で唯一杉材を使用しての認定を取得しており、サイズや開閉方式のバリエーションの多い、山形県米沢に本社と工場を構えるアルス株式会社の夢まどです。木材を機械で削るだけで製作できることから、製造時に必要なエネルギーが極めて少なく、生産から廃棄に至る過程で有害な物質を発生しないこともポイントでした。また、防腐処理によって耐久性も高めています。とはいえ、木製サッシはまだまだ高価ですので、計画上重要な主に南面のみの採用としました。


木製窓(ドレーキップ)(アルス株式会社 夢まど)/アルス株式会社ⓒAll rights reserved.


南面以外の窓には、防火設備認定を取得している樹脂窓であるYKK APのAPW330防火窓を採用しました。樹脂窓は日本では未だ普及が十分には進んでいませんが、欧米をはじめとする世界ではスタンダードになってきています。それは、樹脂サッシはアルミサッシと同様、溶かした原料を金型から押し出すことで成形する押出成形ができ、部材同士の溶着も容易なことから量産可能であることが、普及が進み始めている大きな要因のひとつと言えます。また、PVC(ポリ塩化ビニル)と呼ばれる、地中のパイプなどにも使用される高耐久・高強度の樹脂を採用しており、表面にアクリル層を形成することで紫外線劣化の対策もされています。

ただ、樹脂は炎によって溶けてしまうという欠点があります。しかし、中空層に金属の補強材を追加し、先の木製サッシと同様に加熱膨張材を組み合わせることで、防火設備認定を得ることにも成功しています。樹脂窓もアルミサッシの窓と比べれば高価ですが、以上のような理由から、一般普及可能性が高く、将来的には価格が下がることが期待できるのがポイントと言えるでしょう。


樹脂窓(YKK AP APW330防火窓)の断面/YKK APⓒAll rights reserved.
東面の樹脂窓の取り付け/Photo by Jumpei Suzuki, Courtesy of Nori Architects

健康・省エネルギー・耐久性、そして普及性

さて、前回のコラムで取り上げたフェノールフォームという断熱材による外張と充填を組み合わせた断熱気密工法と、木製窓や樹脂窓といった高性能窓によって、断熱性能の指標である外皮平均熱貫流率UA値は、0.32W/m2Kという、省エネ基準地域区分6地域におけるHEAT20 G2レベルの0.46 W/m2K(ZEH基準:0.60 W/m2K,建築物省エネ法基準:0.87 W/m2K)を大きく上回る性能を実現しました。

本建物の断熱性能/Nori ArchitectsⓒAll rights reserved.


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ここまでの川島さんの説明にあるように、高断熱で気密性の高い空間ができれば、暖房をつかわなくとも身体に負担の少ない快適な温熱環境が実現できるといいます。つまり、このことによってエネルギーの効率が向上します(目標7)。また、モノ作りの段階からのライフサイクル全体を考え、性能を長く維持することのできる耐久性が高いものとすることは、エネルギー消費量を減らすことにもなります。我が家では再生可能エネルギーで電力を賄うつもりにしていますが、それでもガスなどを通じて温室効果ガスの排出はあるので、こうした設備は気候変動対策にもつながります(目標13)。冬場に急にお風呂など寒いところに行ったときに身体に負担がかかり、場合によっては心臓麻痺などを起こしてしまうヒートショックの危険性を耳にしますが、そうした環境に住むことで、そうした心配がなくなるとすれば、それは心と身体の健康(目標3)につながるでしょう。

ただし、課題は、現時点は広く普及しているとは言えず、また、それ故に比較的値段が高くなるという点です。以前も書きましたが、今回SDGハウスプロジェクトに取り組んでわかったことの一つは、環境や社会面での持続可能性を高める商品はあるが、それらは値段が高い、ということです。我が家も当初の想定よりもコストが高くなり、正直大変です(一度乗りかけた船なので途中で降りることはしませんが・・・)。価格を低くすることは2030年のSDG達成までの大きな課題です。

そのためにどうすればいいのでしょうか。

一つは、より多く生産することで、経済の論理にのって、価格を下げていくことです。私はこれを「広げるSDGs」と呼んでいます。そのためには、消費者の意識も変わる必要があります。短期的なコストに目を向けるのではなく、長期的なコストに目を向けるようにするというのはその意識改革の一つです。つまり、初期投資が高くなったとしても、それが長く使えれば、結果的にはコストが変わらないか、安くつくということです。そして、持続可能なものがより安くなるような仕組みを作ることも大事です。そこでは政策の役割も大きくなります。省エネ基準のような「SDGs基準」をつくり、その達成を必須とするとか、あるいは、その達成によって減税などの措置をとるようにするといったことが考えられます。

もう一つは、「深めるSDGs」です。大量生産が難しく、「一つだけ」の価値が大事になるようなものの場合には、ストーリー性を深めることによって、価値を上げていくことです。たった一つのものであることに価値を見出すのです。

これらは両立させることも可能でしょう。こういった取り組みを進めていくことで、SDGs達成を目指す家が2030年には普及し、「おうち時間」が増えてもそれに耐え、楽しくなるような社会となっていくことを願っています。

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