SDGハウス、始めます(2) 尾鷲訪問

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7月中旬に地鎮祭を執り行い、「SDGハウス・プロジェクト」はいよいよ具体的な建築へと進み始めました。当初、我が家の要求をすべて盛り込んで設計をしていただくと、想像以上にコストがかさみました。東京オリンピック景気で、建築関係のコストが上がっているというのも要因の一つにあったようです。そこからいま一度設計を見直していただき、何とか可能な範囲にコストを抑え込み、最終的な設計にたどり着きました。

 
気候変動の国際政治や、削減シナリオ研究を行ってきた経験から、僕は環境、社会、経済の三側面をもつSDGsの中で、大きな制約条件となるのは環境要因だろう、と長らく思っていました。しかし実際にモノづくりを行おうとすると、大きな制約要因となるのは実は経済だ、ということに改めて思い知らされたのが、この時でした。

 
考えてみれば、今はかなりいろいろな技術が発展していて、それらを活用することで、環境の持続可能性や、社会の持続可能性を高めることはできます。そこで問題となるのはコストです。限られたコストの中で持続可能性を高めようとすると、工夫することが必要になります。しかし工夫にも限界があるとすれば、あとはその技術や製品を普及させることで、コストを下げることが重要になってきます。

 
2030年にスタンダードとなることを基準に考えるSDGハウス・プロジェクトは、こうして設計から実際の建築段階に入っていくことになったのです。

尾鷲の森とFSC認証

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7月下旬には、迫りくる台風に向かっていくようにして、三重県南部の尾鷲の森に川島建築士と小学生の息子の3人で向かいました。まずは構造材として使わせていただくことになる木について、その起源を見ておこうという取り組みです。

 
森を作っていらっしゃるのは、大学時代の陸上部(僕の大学では競走部と呼んでいます)の大先輩でもある三重県尾鷲にある速水林業の速水さんです。速水林業は、持続可能な森林経営を実践し、そのことを対外的に証明するために、環境に配慮し適切に管理されていると第三者機関が認める森林認証の中でも、最も厳格だと言われるFSC(森林管理協議会)認証を取得しています。

 
FSC認証は、グローバル・ガバナンスを専門とする私としても、以前から注目していました。認証を政府単独で実施するのではなく、民間単独で実施するのでもなく、その両者がハイブリッドに協力することで制度を構築するという課題解決の仕組みを持っているからです。森林に関しては、1992年にリオ・デ・ジャネイロで開催された地球サミットで国際条約を作る動きがありましたが、条約策定には至りませんでした。その代替のような形で出来てきたFSCですが、逆に政府に頼らない制度構築が、持続可能なガバナンスの仕組みとして注目されてきました。

 
SDGsの観点からもFSC認証は大変優れています。私が代表を務める慶應SFC研究所のxSDGラボで、FSC認証とSDGsとの親和性を調べたところ、FSC認証を取得することで、少なくともSDGsの37ターゲットの実現を目指すことになることがわかりました。

 
とはいえ認証を取得するにはコストもかかります。尾鷲の場合は、森林組合おわせと尾鷲市、紀北町を中心としたいくつかの組織が共同して認証を拡大していくことで、供給量を増大して認証取得のためのコストを削減する戦略を練っています。こうして広がる尾鷲林業地帯管内のFSC認証林の面積は、2018年3月時点で9,680haに及んでいるとのことです。

持続可能な地球を実感する仕事

速水さんと森に入ると、まさに持続可能性を実感しながら仕事をされていることが、その言葉の端々に、にじみ出ていました。2014年5月に公開された映画「WOOD JOB!(ウッジョブ)~神去なあなあ日常~」の舞台にもなったその森を歩いていると、「この木は樹齢20年ぐらい、あの木は70年ぐらい、向こうの木は130年」という言葉がスッと出てくるのです。つまり、今植える木が木材として出荷されるのは、子の世代、孫の世代、あるいは玄孫の世代となっていくのです。その時にきちんとした材を残すことが今の仕事であり、今の仕事は親や祖父母、その上の世代から引き継がせてもらっているものなのです。

 
以前審査をさせてもらった「SDGs映像アワード」の受賞作品の中に林業を取り上げたものがありました。

 

 
まさに地球と向き合いながら仕事をするというのはこういうことなのだということを実感しました。

 
速水さんの森では、針葉樹と広葉樹をミックスさせて森林管理を行うことで、多様性のある森を育て、そのことが森を強くすることにもつながっているのではないかと言います。適切に光が地面まで届くように管理すると、下草が発生し、広葉樹が育ちます。その結果、腐植土が堆積(たいせき)して土壌が豊かになるほか、微生物や鳥類、野生生物なども増加します。雨が地下水として浸透し、地表を流れる水が少なくなり、流れ出る水も美しくなります。

 
尾鷲を流れる銚子川が「奇跡の川」と呼ばれ、「日本一美しい川」とも呼ばれる所以(ゆえん)はここにあったわけです。

 
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持続可能な木材へ

丸太が積まれている場所に移動すると、太い丸太や細い丸太など、様々な木材が並んでいました。そのうちの一本にかなり太い丸太があります。よく見ると年輪の一部に何かの跡があります。説明を受けると、それは雷が落ちた跡だということでした。こうした丸太を1本買って、それで家を作ってしまうのも一つの考えだ、ということを伺い、それはとてもストーリー性があると思いました。

 
持続可能性を考えるというのは、できあがったモノを扱うだけでなく、そのモノの生い立ちや行く先までを考えるということです。丸太一本で家を建てることが出来れば、すごいことだと思いました。今回のプロジェクトでは、時間の関係もあり、そこまで出来ませんが、今後出来るSDGハウスではこうした木材調達もあり得そうだ、と川島建築士と話しました。

 
森林組合おわせの組合長の濱田長宏さんも合流して製材所を訪れると、フローリングを中心とした木材製品を扱う会社「マルホン」(本社・静岡県浜松市)に出荷される予定の、SDGハウスでも使用するフローリング材が積まれていました。マルホンは、持続可能な木材でフローリングなどを作ることにこだわりを持っている会社です。速水林業から木材を調達しているほか、木材の価値やリスクを把握したうえで販売という意味の「デューデリジェンス」を重視し、海外からの輸入木材についても、調達先の現地にも足を運び、森林管理にまでさかのぼって持続可能な木材であることを確認しています。

 
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そのマルホンへ出荷するフローリング材には、FSC認証材であることの証明書がきちんと張られています。

 
さらに加工場に行くと、加工済みの木材が積まれていました。説明を受けると、新国立競技場の一部になる木材だとのこと。そうした木材と同じところから来た木材が家を構成することになるのであれば、それもまた、この時代ならではのストーリーだと思いました。

 
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森に入った午後には、美しい銚子川で、息子や川島さん、それに速水さんのご家族とともに、泳ぎました。台風一過とは思えない澄んだ水に驚くとともに、心も身体も洗われるひと時でした。

  • writer蟹江 憲史

    慶應義塾大学大学院
    政策・メディア研究科教授

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