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「自治体のSDGs推進の先頭を走る」未来を見つめる神奈川県の取り組み

更新日 2022.02.03
目標3:すべての人に健康と福祉を
目標4:質の高い教育をみんなに
目標11:住み続けられるまちづくりを
目標17:パートナーシップで目標を達成しよう

神奈川県はこれまで、「いのち輝く神奈川」というキーワードをかかげ、全国でも有数のSDGs先進県として、さまざまな施策に取り組んできました。その活動と今後の取り組みが評価され、2018年6月には、国からSDGs未来都市および自治体SDGsモデル事業の選定も受けています。
 
そして、2019年1月30日には「SDGs全国フォーラム2019」を、横浜市や鎌倉市をはじめ全国の自治体と連携して開催。「SDGs日本モデル」宣言を取りまとめ、自治体の枠をこえて、大きな単位でSDGsに取り組もうという意志を形にしました。
 
全国フォーラムという一大イベントを終え、神奈川県は今後なにに力を入れていくのか。神奈川県理事(いのち・SDGs担当)の山口健太郎さんに、これまでの取り組みと今後の展望について伺います。

「SDGs全国フォーラム2019」を振り返って

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「SDGsを共通の目標として、自治体同士の連携を深めるために全国フォーラムを実施しました。朝から夕方までと長丁場でしたが、参加者を対象に実施したアンケートを見ると後半になるにつれ満足度が上がっており、参加者の方々のSDGsへの意欲を感じる結果となりました」と、山口さんはSDGs全国フォーラム2019を振り返ります。
 
2019年1月30日、パシフィコ横浜で開催されたフォーラムには、計1215名が来場。各県の自治体職員を中心に、民間企業の社員から学生まで幅広い人々が集まりました。当日は、フォーラムで採択された「SDGs日本モデル」宣言を通じ、自治体同士の横のつながりが明確に可視化されました。
 
「SDGs日本モデル」宣言には、社会課題の例として人口減少や超高齢化が挙げられています。このふたつは、神奈川県が数年前から特に力を入れている課題でもあると山口さんは言います。
 
「神奈川県では、高度経済成長期に人口が急増したことにより、全国一、二のスピードで高齢化が加速すると予測されています。そのボリュームが全国的に見ても非常に大きいこともあって、県では、SDGsを目標として掲げる前から“未病(健康と病気の間を連続的に変化している状態)の改善”や“人生100歳時代”といった政策を進めてきました。
 
超高齢社会において健康で長生きするためには、『食』『運動』『社会参加』の3つを重視することが大切です。県は、この中でも特に自治体によるサポートが不可欠である『社会参加』に力を入れています」
 
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神奈川県では、「人生100歳プロジェクト」として、県、市町村、大学、企業、NPOなどが連携し、県民一人ひとりが生涯にわたり輝ける社会・地域づくりを目指しています。このプロジェクトでは、市民が新たに資格やスキルを習得でき、そこで得た技術を地域内で活かすことができる場の実現を試みているところです。
 
たとえば、子どもとシニア世代の交流ができる場所をもうけ、その場の運営を地域のNPOなどがサポートする形で、市民の社会参加を促すといった構想があります。ゆくゆくは、この取り組みが“未病”にも貢献し、持続可能な社会が実現することを目指しています。
 
「最初は、県や市町村が旗振り役となり、一つひとつの取り組みを企画試行するところから始まっていくでしょう。その後は、地域の団体が自主的にオーナーとなり、活動が広がっていくようにサポートしていきます。それぞれが自発的・継続的に行動していく環境をつくることが、まさに持続可能性につながるのです」
 
また、「県」という大きな単位だからこそ、他の自治体との連携も必要だと山口さんは言います。
 
「神奈川県は大きく分けて、横浜・川崎、横須賀三浦、県央、湘南、県西と5つの地域があります。それぞれ地域に特性・課題があり、他県にも共通する特性・課題を有する地域もあります。そこで、共通の課題解決に向けて、他県の自治体も巻き込んで、県の枠を超えて連携することも必要になります。」

「民間ビジネス」の力が、SDGsへの貢献につながる

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フォーラムで採択された「SDGs日本モデル」宣言では、官民連携によるパートナーシップを主導していくことが明言されています。
 
「中でも、今後重要になるのは“民間ビジネス”の力です。SDGsは大企業の間では少しずつ浸透してきましたが、大多数の中小企業への認知はまだまだこれからという状況です。企業の中には、“SDGsが自社の事業とどう結びつくのかがわからない”と思っている方もまだまだ多いはず。そのために県が率先して、SDGsがビジネスにどんな結びつきが可能かを指し示すことが重要です」
 
神奈川県ではまず、すでにSDGsに関する取り組みをおこなっている企業の“掘り起こし”をしています。
 
2019年1月からは、「かながわSDGsパートナー」の募集が始まりました。これは、SDGs推進に貢献する事業を展開している企業をパートナー登録し、県が広く発信するという制度。今後は、県が市町村や大学と企業とのマッチング支援をおこなったり、金融機関と連携した事業支援をおこなうことも検討されています。
 
民間企業にとって、自社の事業が専門機関や金融機関のサポートを受けることは必要なことでしょう。外部の目が入ることで、定期的な事業の見直しが発生することも予想できます。県は、民間企業と専門機関・金融機関を連携させることで、SDGsの推進に貢献する事業を持続可能にすることを狙いとしています。
 
そこで神奈川県は、「SDGs社会的インパクト評価実証プロジェクト」という事業に取り組んでいます。インパクトとは、社会的な効果・変化を指します。
 
SDGsの17個のゴールを目指している事業は、世の中にたくさんあります。しかし、それが本当にSDGsの実現に効果があるのかどうか?環境・社会にマイナスの影響が生じていないかどうか?また、持続可能な取り組みなのかどうか?こうした「社会的インパクト」を客観的に評価することで「見える化」し、社会的投資につないでいくことが、このプロジェクトの目的です。
 
社会的インパクトの客観的な評価、それは成績表のようなものです。事業主にとっては事業計画を立てるときに参考になるでしょうし、消費者や市場にも影響を与えます。そして、銀行や信用金庫などの金融機関にとっても、この評価はとても重要な情報になります。
 
将来、この社会的インパクト評価システムが、“神奈川発のモデル”として全国に波及し、SDGs事業を後押しすることを期待しています。
 
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「意識はしていなくても、事業を通してSDGsに貢献しているという企業は多くあります。この機会に、“うちの事業もそれに当たるだろうか”と見直していただけたらいいですね。先行的な事例紹介とともに、自社の事業がSDGsに貢献しているのかをチェックする『中小企業のためのSDGsガイドブック』もまもなく完成予定なので、ぜひ参考にしてほしいです。
 
県がパートナー制度を設け、“あなたの取り組みはSDGsに貢献しているんです。県がそれを後押ししますよ”と目に見える形にすることで、当事者意識を持ってもらうとともに、SDGsがビジネスにも役立つツールであることに気づいてもらえればと考えています」

産官学民金の枠を越えた「クロス展開」が重要

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また、神奈川県は、教育機関との連携にも積極的に取り組んでいます。2009年にスタートした「Policy Proposal from Academia 2019(大学発・政策提案制度)」では、県内の大学68校(短期大学・大学院大学を含む/2019年現在)から、県政に関わる政策の提案を募集しています。公開コンペ式の審査により選ばれた提案は、大学と県の協働で実際に事業化されると言います。
 
そして同時に、SDGsの普及活動にも力を入れています。大事なのは「クロス展開」であると、山口さんは説明します。
 
「地域とのつながりを強くするためには、産学官民金が連携していくクロス展開が重要です。たとえば、民間ビジネスを県や金融機関がサポートすること(=『SDGs社会的インパクト評価実証プロジェクト』や『かながわSDGsパートナー』)や、県の施策に教育機関がアイデアを出すこと(=『大学発・政策提案制度』)がそれに当たります。産学官民金が連携する流れを県が作って後押しすることで、県の抱える課題を解決し、『いのち輝く神奈川』の実現を目指していきます」

他の自治体へのバトンをつなぐ

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SDGsの推進に取り組む自治体として、リーダーシップを持ち先頭を走る神奈川県。これまで、地道な普及活動を中心に、SDGsに対して多面的なアプローチをおこなってきましたが、今後はどのような展開を考えているのでしょうか。
 
「全国フォーラムの第1回目は、まずは我々が先頭を、という思いで開催しました。次は、他の自治体の番だと思っています。今後は、他の自治体が主導権を持って、さまざまな土地で SDGsフォーラムを開催してくれるでしょう。そして神奈川県としては、まずは多くの人々・企業にSDGsを『自分事』として知っていただき、できることから『行動』に移していただくよう後押ししていきます」と山口さんは語ります。
 
神奈川県が先陣を切って始まった、全国の自治体のクロス展開。今後は、その“クロス”の範囲がより広がっていくことでしょう。民間企業、金融機関、学校、NPOなどとの連携も、すでに動きを見せ始めています。
 
「それぞれが枠を越え、SDGsの実現に向けて自発的な一歩を踏み出すことで、地域・世界は持続可能になる。そのサポートのために、自治体はあるのです」
 
神奈川県は、広い視点で2030年を見つめています。
 

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山口健太郎(やまぐち・けんたろう)
1983年、神奈川県入庁。1994〜96年、神奈川県ロサンゼルス駐在員としてアメリカに派遣。2011年、太陽光発電推進課長、2013年、参事兼国際戦略総合特区推進課長に就任。2014年、ヘルスケア・ニューフロンティア推進局事業統括部長に就任。2017年、ヘルスケア・ニューフロンティア推進統括官に任命。2019年より、理事(いのち・SDGs担当)として活動している。

 
<WRITER>河野桃子 <編集>サムライト <写真>鈴木智哉

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