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究極の持続可能な社会の実現 「花木葬」という選択

更新日 2022.02.03
目標3:すべての人に健康と福祉を
目標11:住み続けられるまちづくりを

(ツツジを墓標にしたイメージ=越生町提供)
 
少子高齢化や核家族化が進む中、「お墓」のあり方が見直されてきている。海や山などへの散骨など自然にかえりたいと願う人も増え、あの世にいったら墓石の下に眠るという「ならわし」が変わってきた。究極の持続可能な社会の実現、そして生き様とは何か――。見晴らしの良い自然豊かな立地をいかしながら、未来へ歩んでいく子どもたちのために、あえて「花木葬」を整備した埼玉県越生(おごせ)町を訪れた。

ツツジの名所に隣接、五大尊花木墓苑

都心から電車や車で2時間弱。関東平野を一望できる自然豊かな高台に「五大尊花木墓苑(ごだいそんかぼくぼえん)」はある。埼玉県のちょうど中央付近に位置し、梅林のほか、桜やアジサイなど季節の花々で有名な町が開設した町営の墓地だ。ツツジの名所として知られる「五大尊つつじ公園」に隣接する約4千平方メートルの山の斜面に、1千株のツツジが植えられ、そのうち700株が墓標となる。1株に最大5体まで埋められる。2019年春に開設し、条件付きで町民以外の利用も認めていることもあり、2020年1月末現在、300件近い申し込みがある。
 
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(擁壁を設け、安全対策が万全に施された墓苑=越生町提供)
 
なぜ、全国で初めて「樹木葬」と「樹林葬」を一緒に合わせた「花木葬」の公共墓苑をつくったのか。完成までの道のりは決して容易なものではなかったという。
 
2015年、町は隣接する五大尊花木公園を拡張しようと民有地を取得し、この場所の有効活用を検討していた。すると、お年寄りから「越生の自然の中で眠りたい」という要望が寄せられたことや、少子化や非婚化などの影響で墓地の継承や維持管理が難しく、「墓じまい」を考える町民が不安を抱いている状況を踏まえ、新井雄啓(かつひろ)町長が公共墓苑の事業化に踏み切ったという。
 
計画当初は反対意見も根強かった。崩落や大雨による土砂崩れなどの危険を心配したり、墓地を新設する際、許可する側の行政が自ら運営に乗り出すことを疑問視したりする声もあった。そのため、町は擁壁を設置するなど安全対策を万全にし、民間霊園の経営を圧迫しないように費用を設定するなどしたという。
 
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(関東平野を一望できる。手前が越生小学校)

ふるさと納税で町外の人も利用可能 30年保証

墓苑を訪れると、青く広い空が広がり、遠くに東京スカイツリー(東京都墨田区)まで望めた。お線香を手向けられる献花台はあるが、お墓というイメージはない。すぐ近くの越生小学校では体操着姿の児童たちが元気いっぱい校庭を走り回っているのがよく見える。ここからならば、地中からでも子どもたちの姿を眺めることができるだろう。越生小では常に先人たちが眠る崇高な場所に見守ってもらっていることを教えているという。
 
付近には野生のイノシシが出没するが、敷地の周囲は電気柵が張りめぐらされ、えさになるお供え物は持ち帰ることになっているため、荒らされたことはないという。転ばないように急斜面を上っていくと、最上段の苗木に管理番号を記した金属製のプレートがあった。小さな墓石(縦25センチ、横30センチ)を置いている株もある。
 
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(隣接する公園に仕掛けられたイノシシ用のわな。敷地内では被害はないという)
 
お骨は株の根元に、自然にかえりやすい白い絹の袋に入れられて埋められているのだという。近くには多数の遺骨を一緒に埋葬する合葬式の樹林葬もあり、そこには綿の袋に入ったお骨が眠っている。計画では敷地内で最後の埋葬から30年後にプレートなどはすべて撤去し、辺り一帯は色鮮やかな花が咲き誇るツツジの群生地になる。
 
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(管理用に金属製のプレートが設置された株。自然にかえる絹の袋に入ったお骨が眠る)
 
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(希望すれば墓石のプレートが設置できる)
 
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(30年後にはツツジが咲き誇る群生地になる=越生町提供)
 
施設は町民が対象だが、町に1万円以上のふるさと納税をすれば、「越生町ふるさと住民票」が発行され、「準町民」として利用できる。樹木葬の場合、使用料は1区画15万円で、2体目以降は7万5千円。町外の人はそれぞれ30万円、15万円。また、樹林葬は1体当たり5万円で、町民以外は10万円。いずれも町が30年間は責任を持って管理してくれ、宗教や宗派に関係なく利用できる。
 
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(「子どもたちのために役立つ仕組みを考えたい」と語る新井町長)
 
町では、これまでにかかった建設費用などを差し引いても、一定額の余剰金が確保できると試算している。新井町長は「行政の仕事は、まさに『ゆりかごから墓場まで』。これからの町や社会を支えていく子どもたちのために、先人たちの歩みを子育てや教育に使っていけるような仕組みを考えたい」と話している。
 
<WRITER・写真>小幡淳一
 
■五大尊花木墓苑の問い合わせは、越生町まちづくり整備課(049-292-3121)。ホームページ「越生町営樹木葬墓苑のご案内」もある。

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