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「苦しみの先にささやかな喜びがある」 元サッカー日本代表・石川直宏が少年院生に伝えたかったこと

更新日 2021.05.15
目標4:質の高い教育をみんなに
目標17:パートナーシップで目標を達成しよう

Jリーグシャレン!アウォーズ「ソーシャルチャレンジャー賞」の盾を持つ石川直宏さん

Jリーグ57クラブがホームタウンで取り組む社会連携活動(シャレン!)の中で、社会に共有したい活動を表彰する「2021Jリーグシャレン!アウォーズ」の各賞が5月10日に発表された。第1回の2020年は、FC東京による多摩少年院の院生たちへの社会復帰活動が、ソーシャルチャレンジャー賞に選ばれた。支援に関わるのが、サッカー元日本代表でクラブコミュニケーターの石川直宏さん(39)だ。

多摩少年院内での「サッカー教室」や、FC東京施設での「職場体験」の交流を経ることで、2016年から両者は関係を深めてきた。石川CCが院生と触れ合うようになったのが、現役引退後の18年から。お互いの心の距離を縮めてくれたのが、サッカーだった。

「最初の教室は緊張しました。院生たちが隊列を組んで『イチ、ニイ』のかけ声でグラウンドに入ってくるんです。でも、一緒にボールを蹴ることで笑顔になるなど、表情が明るくなった。お互いにフラットな関係性で交流を持つことが、大切だと感じました」

FC東京・石川CCの言葉に真剣に耳を傾ける多摩少年院の院生たち(画像は一部加工)

競技を通して伝えたいのが、相手を敬いプレーする「リスペクト」の精神だという。「試合は仲間や相手がいてこそできるもの。仲間と助け合い、相手と激しくぶつかってゴールを目指すのがサッカーです。自分さえ良ければでは、プレーできない」と教える。 多摩少年院ではサッカー教室の終了後、1日を振り返る意味で院生たちが黙想する。石川CCにとって、その時間が一番印象深い。「目を閉じていると、すすり泣きが聞こえたりするんです。楽しい時間を過ごすことで自分の過去を思い出し、現実に引き戻されるんでしょうね。彼らはそれを受け入れて、また、前へ進まなければならない」

昨年は両者の対面での活動が、新型コロナウイルスの影響のためほぼ中止に。そこで、FC東京が提案した「石川CCメッセージ」、映画「BAⅠLE TOKYO」などの院内上映会で、交流は継続された。

キーワードは情けない時にたまる「情熱」

石川CCがメッセージ映像のキーワードとして選んだのが「情熱」だった。プロとして18年間プレーしてきたサッカー場の緑色の芝生をバックにし、院生たちへ優しくほほえむ場面からVTRはスタートした。

「憧れたこのピッチでしたが、苦しいこと8割、喜び2割でした。レギュラーをとり、ケガをした。復帰して調子が出て、また、ケガ。上がったり、下がったりの曲線のようなサッカー人生でした。ただ、この下がったときの取り組みが、喜びにつながるんです」

「苦しいとき、情けなく思うときにたまるフラストレーションや熱を自分へ向け、思い切りため込んでください。それを社会に出た時、挑戦する時に解き放って欲しい。情けない時にたまる熱こそ、情熱。今の姿や思いを忘れずに、生活し続けていって欲しい」

時間にして、およそ7~8分。自らがケガで苦しんだ経験を、院生たちの現状と重ねて勇気づけた。現役時代、思うようにいかず、周囲に「当たり散らしたこともあった」と石川CCはいう。当時の長沢徹コーチから「表現としては悪いが、たまっているエネルギー自体は悪くない」と、静かに語りかけられた。

言葉が切っ掛けとなって「あっ、これ悪くないんだと。エネルギーをため込む器用さがなかった。どう自分の中で気持ちを整理し、発するときのためにためていけるか」と、気づかされた。苦しみの先にささやかな喜びがあることを、少しでも院生に伝えたかった。

院生たちからのメッセージボールを持つ東慶悟選手=FC東京提供

FC東京は他にも「サッカー教室の少年少女育成」「小学校・商店街・小児病棟訪問」など地域との関わりを大切にしている。「関係性を深めたい。相手を敬い思いやれる人たちが地域に増えてくれれば、院生たちが社会へ戻れる環境作りにもつながっていく」

サッカーの無限の可能性を信じ、石川CCは新たな舞台で情熱を注いでいる。

多摩少年院の院生たちは「VTRメッセージ」のお返しに、寄せ書きしたボールをFC東京へ送った。上映会が柏レイソルとのルヴァンカップ決勝直前。「必勝!」「頑張ってください」などと書き込み、関係者からチームへ渡された。

FC東京は期待に応え、ルヴァンカップを11大会ぶりに制覇。再び院生たちは「勇気をもらいました」「感動しました」と、それぞれの思いを書き込んだメッセージボードを送った。

コロナ禍は、少年院内にも影響を及ぼした。「活動を制限せざるを得ず、寮内での日課が増えた」と、児玉貴徳法務教官は状況を説明。そんな中での上映会は院生たちには変化を感じられる貴重な時間となった。

石川直宏 FC東京クラブコミュニケーター

「ため込んだエネルギー、正しい道で使いたい」

石川CCのメッセージを受けた院生たちは、それぞれの思いを感想文にしたためた。一部を紹介したい。

「情熱というのは、何か熱中するときの熱だと思っていましたが、新しい考えを得ることができました」

「今の生活からはい上がっていかなければなりません。少年院でため込んだエネルギーを社会に出てから、正しい道で使いたい」

「大事なのは、苦しい時、つらい時なのだということがわかり、苦しい時こそ上を見て、自分のよい時をイメージしていきたい」

児玉法務教官は「我々が院生たちに言うのとは、また違う刺激になります」。サッカー教室やFC東京の施設を利用した職場体験など、院生たちの社会復帰には外部からのサポートが不可欠だという。「多摩少年院を支援していただいている民間協力者の方々との意見交換の場を大事にし、こういう活動を続けさせてもらいたい」と、感謝した。

【FC東京と多摩少年院の歩み】

▼2016年 Jリーグ・村井満チェアマンの慰問講演を契機に「サッカー教室」がスタート。

▼2019年 院生によるグラウンドキーパーなどの「職場体験」をFC東京が受け入れ。

▼2020年 少年院内でFC東京のVTR・映画上映会開催。

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