記者が注目する社会課題について、参加者とともに問題の本質を探り、解決策を考えるワークショップ「イノベーション・キャンプ」が1、2月、東京都内で開かれた。
低投票率や地方再生、病院不足、働き方などの10の社会課題について、6人1チームに分かれて議論。「選挙の日に同窓会や街コンを開き、低投票率を改善する『出会いは総選挙』」「仕事と家事の量や消費エネルギーを可視化するウエアラブルツール」「各国の食を知るワークショップの提供」……。参加者と記者が一緒に、社会課題の本質を議論し、取材やリサーチしながら考えた10の解決アイデアが創られた。
参加したのは、金融機関やメーカー、IT企業、コンサル、メディア、NPO、自治体など、業界も職種も異なるビジネスパーソンや学生の計50人。記者と6人1チームになり、解決策に挑みました。プログラムは、慶應義塾大学大学院の神武直彦准教授の協力を得て作った。イノベーション創出手法で知られるデザイン思考やシステム思考をベースに、新聞社の資産価値である記事データベースや取材・リサーチも取り入れた。
記者が注目の社会課題、参加者と解決策探る 秋葉原
記者が提示した10の社会課題
神田誠司 編集委員
人口減少時代に、地方をどう元気にするのか?
武井宏之 東京写真部
「都会の空き家」の急増をどうする? 東京五輪後を視野に
田中雄一郎 論説委員
「寄付か税金か~お金の流れから社会の支え合いを考える」
山下剛 世論調査部
低投票率と若者の政治参加
黒沢大陸 編集委員
リスクと上手に向き合うには
浅井文和 編集委員
2025年、病院が足りない「医療危機」を防ぐには
岡林佐和 経済部(労働担当)
ワークライフ・アンバランスを超える 両立できる社会へ
高橋末菜 経済部(労働担当)
「新しい時代の働くかたちを考える」
藤谷健 ソーシャルメディアエディター
途上国の開発問題。私ごとに感じるには
伊東和貴 教育担当
教育格差をICT活用で縮められないか?
人口減少時代に、地方をどう元気にするのか?
神田誠司(編集委員)
日本の人口はすでに2008年に減少に転じ、2010年に1億2800万人だった人口は25年後の2040年には1億700万人余りになると予想されています。昨年、注目を集めた民間の研究グループ「日本創成会議」は、全国の市区町村のほぼ半数の896自治体は「消滅可能性都市」だというリポートをまとめて波紋を広げ、安倍政権も「地方創生」を主要テーマに掲げました。
人口減少はすでに私たちの暮らしにも影を落とし始めています。大都会の足元でも空き家が急増し、公共施設や下水道などのインフラの統廃合の検討も始まりました。かつてない人口減少時代に突入した社会で、どうすれば地方を元気にできるのか。いっしょに考えてみませんか。
解決のアイデア/チーム名:「げんき屋」
参考記事・ブログ・メディア
(人口減にっぽん)過疎の町、ようこそ若者
(人口減にっぽん)若者の移住、競う自治体
(人口減にっぽん)地方都市は生き残れるか/明治大学、小田切徳美教授インタビュー「集落存続、小学校復活にかける 縮む地方、もがく自治体」
(人口減にっぽん 次世代をつくる)学校統廃合、弱る地域 過疎加速、薄れるつながり
(人口減にっぽん)後手の少子化対策
(人口減にっぽん・中2)細る集落、維持難題
(天声人語)若年女性、896自治体で半減 民間機関試算、2040年には「消滅」自治体に衝撃 若年女性の人口試算
「都会の空き家」の急増をどうする? 東京五輪後を視野に
武井宏之(東京写真部)
全国で「空き家」が増えている。2013年に820万戸で5年前の63万戸増。空き家率は13.5%と過去最高です。過疎が進む地方の問題と思われがちですが、増加数上位に愛知県、東京都、神奈川、大阪府と並び、大都市圏の問題でもあります。住宅の供給が依然、活発なことが一因です。東京湾岸の超高層マンションに象徴されるように、人口の「都心回帰」が進み、郊外でも新たな住宅開発が続いています。「景気刺激策」としても期待されています。
一方、高度成長期などに造られた戸建てや集合住宅が一斉に老朽化し、住民の高齢化も進んでいます。これらが空き家となれば、防災や防犯面、コミュニティーの弱体化で地域をむしばむでしょう。
2020年の東京五輪・パラリンピックに向け、東京都心などへの投資は続くなか、「都会の空き家」を同時に考えることが「負の遺産」を残さないために必要です。解決のアイデアを一緒に考えましょう。
解決のアイデア/チーム名:ソライエ
●参考記事・ブログ・メディア
「空き家率、過去最高13.5% 820万戸、総務省調査」
「街むしばむ空き家 売れず・貸せず・解体できず」
「マンション街、教室足りない 人口急増で校庭に仮設校舎」
「オープン町工場、魅力発信 職人巡り技術体験、地域と共生PR」
「景気刺激策を優先 子や孫へ贈与優遇拡充 企業向け減税先行 与党税制大綱決定」
「社説 大都市の危機 見かけの成長を超えて」
「スラムマンションの危機 老朽化で空き室・部屋からごみ」
「縮む東京圏 老いる団地、開発にも陰り 千葉県初の人口減」(2012年1月9日付)
低投票率と若者の政治参加
山下剛(世論調査部)
みなさんは昨年の衆院選、投票に行きましたか?昨年の衆院選の投票率は、戦後最低の52.66%でした。これまで特に、若い年代の投票率が低いと言われてきましたが、「選挙離れ」は他の年代にも広がっているのかもしれません。
では、どうすれば投票率を上げることができるのでしょうか?あるいは、選挙に行かなくても、ほかに政治に参加する、政治に関わる方法はないのでしょうか?それを一緒に考えてみませんか?
解決のアイデア/チーム名:SSS
●参考記事・ブログ・メディア
全都道府県で60%割れ 投票率、戦後最低52.66% 衆院選
衆議院議員総選挙年代別投票率の推移(明るい選挙推進協会)
埼玉大社会調査研究センター長・松本正夫教授の記者会見「衆院選後に日本-民意をどう読むか」
リスクと上手に向き合うには
黒沢大陸(科学医療部)
東日本大震災後、次が「想定外」にならないように、想定する災害規模が大きくなりました。対策に必要なお金が増える一方、使えるお金は限られています。火災や事故、病気、テロ、失業、詐欺、環境問題などのリスクもあります。リスクのことばかり考える生活は快適ではありません。リスクをあなどらず、恐れすぎずに、どう向き合えばいいかを考えていきたいと思います。災害の想定、様々なリスクの比較、世論調査、災害の風化などのデータが、それを探る手がかりになるかも知れません。
解決のアイデア/チーム名:「命知らず」
●参考記事・ブログ・メディア
「扉科学 災害の風化」
「記者有論 理学と工学の違い超えよ」
「地震研究、お金かけずぎ?」 大震災のたび予算急増、疑問の声も (2013年5月22日朝刊)
「災害大国 軟弱地盤に3800万人」
「もしもの備え、自覚の差 防災に関する世論調査」
「確率の数値を受け止める上での参考情報」(地震調査研究推進本部作製の表)
「主な死因別死亡者数の割合」(厚生労働省 人口動態統計の図)
2025年、病院が足りない「医療危機」を防ぐには
浅井文和(編集委員・科学医療)
日本は超高齢社会を迎え、高齢者人口が急増する首都圏などでは病院の不足が深刻になります。2025年には9万人分、2040年には17万人分の入院ベッドが不足すると推計されています。不足する理由は高齢者は病気やけがで入院する率が高いためです。80代の高齢者は40代の人の10倍ほど入院する率が高くなっています。ただ、病院不足には地域差があり、九州や四国では入院ベッド数に余裕があります。迫り来る「医療危機」を防ぐにはどうしたらいいのか。一緒に考えていきましょう。
解決のアイデア/チーム名:脱・病院
●参考記事・ブログ・メディア
大都市、病床17万人分不足 2040年、介護施設も手薄 国際医療福祉大推計
足りぬ医療、地方に活路 大都市病床、17万人分不足
高齢者が激増、迫る「医療危機」の実態(週刊東洋経済)
ケアレビュー/2025年と2040年の地域別必要病床数を試算しました
千葉県庁/千葉県医師・看護職員長期需要調査の結果について
「寄付か税金か~お金の流れから社会の支え合いを考える」
田中雄一郎(論説委員)
私たちが暮らす社会は、さまざまな支え合いで成り立っています。その中心は、社会保障に代表される通り、税金(と保険料)で運用される国・自治体の公的な制度です。一方、そうした「官」の取り組みが不十分な分野ではNPO法人や公益法人といった「民」の団体が活躍していますが、それらが活動財源として期待し、頼りにするのが民間からの寄付です。
支え合いを全体として充実させていくために、どんなお金の流れを育てていくべきなのでしょうか。税金と寄付との間に位置づけられる「社会的投資」、即ち、寄付(贈与)ではないものの金融商品のような利子・配当収入はゼロかごく少額で、かわりに「自分のお金が社会に役立っている」という満足感を求めるお金の流れにも注目し、考えていきたいと思います。
解決のアイデア/チーム名:MoneyShift
●参考記事・ブログ・メディア
社説/民間発の地方創生 「社会的投資」を突破口に
社説/ふるさと納税 原点は自治体の応援だ
社説/休眠口座活用―社会的事業の支援に
寄付文化が揺れている NPO優遇に見直しの動き
栃木)ふるさと納税、記念品効果で好調 栃木市
社説余滴/孫への贈与の落とし穴(2013年6月6日)
「新しい時代の働くかたちを考える」
高橋末菜(経済部・労働担当)
賃金も上がって定年まで雇用される。引き換えに、長時間労働や全国転勤もいとわない……。そんな働き方が標準だった時代は幸か不幸か、終わりつつあります。
政府は雇用改革に熱心で、転職しやすい「流動化社会」も目指すそうです。一方、長時間労働は依然として残っています。有給休暇も半分以下しかとれず、4人に1人が年収200万円以下。また約6600万人の労働力人口は、2060年には4千万人を割るとの試算もあります。データで現状を踏まえ、これからの時代にどうしたら多くの人が幸せに働き、安心して生きていける社会になるのか、一緒に考えてみませんか。
解決のアイデア/チーム名:一都二県
●参考記事・ブログ・メディア
ブログ(労働政策研究・研修機構の濱口桂一郎氏)
日本は「タコ足型資本主義」を超えられるか WEBROMZA(竹信三恵子さん)
[14]年功賃金廃止の落とし穴 WEBROMZA(竹信三恵子さん)
[16]トップの報酬高額化と空想的「雇用改革」 WEBROMZA(竹信三恵子さん)
ワークライフ・アンバランスを超える 両立できる社会へ
岡林佐和(経済部・労働担当)
子どもを育てながら働くことが、日本ではなぜこんなにむずかしいのでしょう。出産後の女性の離職率はいまだに6割。本人は働き続けたいのに、辞めざるをえないマタハラも後をたちません。
男性にも、壁があります。子育てにコミットしたい男性は増えていますが、職場の事情がなかなかそれを許しません。
高度成長期、働く人は「企業戦士」として、24時間働くことを求められました。男性はいつでもどこでも働き、女性が育児や介護を担うというスタイルはある種、合理的だったかもしれません。
けれど、これからの時代はどうでしょうか。少子高齢化で、労働人口は減りつつあります。男女がともに、子育てだけでなく、勉強や趣味や、地域の活動にもっと時間を使いながら、働けるようになったら。いろんなバックグラウンドを持った人たちが一緒に働くことで、新しい発想がわき、強い組織になるのではないでしょうか。
ただ、染みついた日本の働き方を変えるのは簡単なことではありません。どうしたら変えていけるでしょう。一緒に考えてみませんか。
解決のアイデア/チーム名:ここにいるよ
●参考記事・ブログ・メディア
絶えぬマタハラ、女性連携 情報発信へネット設立
私生活充実 仕事にもプラス 「イクボス」川島高之さん
脱・働きすぎ 過重労働、違法とすべきだ 濱口桂一郎さん
脱・働きすぎ 短時間での成果に評価を 小室淑恵さん
脱・働きすぎ 労働時間、自分で選べてこそ 青野慶久さん
飲み会、家庭と両立 欧米の模索
女性の力、なぜいま注目?
家事シェアのススメ
子育て社員の力、どう発揮 育休時短充実 復帰増えたけど
途上国の開発問題。私ごとに感じるには
藤谷健(ソーシャルメディアエディター)
今年は、10年間で貧困や飢餓の撲滅や初等教育の普及、感染症の防止、乳幼児や妊産婦死亡率の低減などの実現を掲げた国連のミレニアム開発目標(MDGs)の最終年になります。国際支援や自助努力で改善が見られる一方で、まだ多くの問題が残されています。日本の経済が振るわないので援助を減らすべきという意見もあります。果たして途上国の抱える問題は、私たちとは関係ないのでしょうか。かつて戦争で荒廃した日本は米国の支援で復興を遂げました。日々の暮らしも世界と深くつながっています。海外の出来事は決して他人事ではないのです。途上国が抱える問題や解決に向けた取り組みなどの情報をもっと身近なものにならないでしょうか。みなさんと一緒に考えたいと思います。
解決のアイデア/チーム名:ノマド
●参考記事・ブログ・メディア
ビジネス通じ脱貧困/日本発 出資募りアジアで起業支援(2013年1月11日朝刊)
薬効かないマラリア 脅威/和平進むミャンマーの国境(2013年4月25日朝刊)
(風・タイ最南部から)やまぬ紛争 和平への道いったいどこに(2013年5月13日朝刊)
(風・バーミヤンから)読むこと・書くこと 人間の尊厳取り戻す喜び(2011年12月26日朝刊)
フロントランナー/「誰のための支援」問い続け(2007年10月6日付朝刊be)
(アフガン復興と戦乱)この地で生きていく(2011年10月5日付朝刊)
教育格差をICT活用で縮められないか?
伊東和貴(社会部)
家が貧しいから、女の子だから、塾が近くにないから--。さまざまな理由で、学びをあきらめる人たちが国内外にいます。その一方で、都市部では子どもの塾通いや「お受験」が過熱し、早期教育にお金をかけられる家庭とそうでない家庭の差は広がっているようです。
どうすれば、地域や経済、性別による学びの格差をなくせるのでしょうか。たとえば、ICT(情報通信技術)を活用して格差を縮めることはできないでしょうか。みなさんと一緒に、考えていきたいと思います。
解決のアイデア/チーム名:edu
●参考記事・ブログ・メディア
「教育2014 格差を考える:1~5+データ編」
マララさんのノーベル平和賞受賞演説<要旨>
「いま子どもたちは 親の国、私の国:1 両親の店、私のルーツ」
e-Education Project|eラーニングで途上国に教育革命を!
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