お金に対する「不安」を「幸福」に-フィンテックはMONEYの未来を変えるか?【未来メディアカフェVol.7】(1/2)

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各回テーマの専門家を招き、参加者の皆さんと朝日新聞記者がともに社会課題について考え、何ができるかを模索する「朝日新聞・未来メディア塾 未来メディアカフェ」が2016年5月18日、朝日新聞メディアラボ渋谷分室(東京・渋谷区)で開催された。


 
7回目となる今回のテーマは「フィンテックはMONEYの未来を変えるか?」。様々なメディアで目にする機会が多くなってきている「フィンテック」は、ITを活用した新しい金融サービスのこと。今後日本でも確実に普及していくものとして、早い段階から行政が動き、環境を整えていく議論が進められている。そこで日本の決済制度・インフラの高度化を中心とする調査、政策企画に従事する金融庁総務企画局企画課信用制度参事官室企画官の神田潤一さんと、フィンテックの第一人者であり、自動家計簿・資産管理ツールを提供する株式会社マネーフォワード取締役の瀧俊雄さんをゲストに迎え、「フィンテックによって私たちの生活はどう変わるか」や「今後どのように付き合っていけばいいか」など、フィンテックを取り巻く現状と未来について考える。

 
当日は20〜40代を中心に、30人を超える参加者が集まった。ファイナンシャルプランナーや、すでにフィンテックのベンチャー企業を立ち上げている人も参加しており、イベント後半の「ディスカッション&ワークショップ」では、金融庁の方針に鋭く切り込む質問も飛び交った。活発な意見交換の場となったイベントの模様を2回に分けてレポートする。

金融業界に対する「フィンテック」のインパクト


 
そもそも「フィンテック(Fintech)」とは、「金融(Finance)」と「テクノロジー(Technology)」を組み合わせた造語である。ここ1年半ほどの間に一気に普及し始め、世界的に見ても比較的新しい概念である。今回コーディネーターを務める朝日新聞経済部の藤崎麻里記者は、代表的な事例として、クレジットカード決済を挙げた。従来であれば、中小の商店がクレジットカード決済を導入するのに、端末費として約10万円がかかり、決済手数料も7、8%程度かかったといわれている。ところが、フィンテックによる新サービスでは、専用のカードリーダーを接続するだけでスマホやタブレットが決済端末になり、カードリーダーのコストは約数千円。決済手数料も3%強程度に抑えられる。

 
フィンテックは、利便性の高いサービスを安く、スピーディーに提供してくれる。とはいえ、金融業界はシステム産業でもあるため、テクノロジーとの関わりは深い。これまでもネットバンクやネット生保、ネット証券などが生まれ、ネット技術を活用したありとあらゆるサービスが提供されてきたが、なぜ今フィンテックが話題になっているのだろうか。
 
「一つは、クラウドやブロックチェーンといった新たなITの進展が深く関わっていると考えられる」と、藤崎記者。2010年ごろからスマートフォンが爆発的に普及し、利用者もスマートフォンを活用した新たなサービスを求めるという流れが生まれた。SNSやカーナビ、ゲーム、学習ツールなど、多種多様なアプリが次々と開発されていく中で、新たな技術がこれまでにはなかった金融サービスを生んだり、普及させたりしているという。
 

 
もう一つの観点として藤崎記者が挙げたのが、民泊の新たなビジネスモデルである「Airbnb」や、配車サービスアプリ「Uber」など、これまで国が法規制をしてきた領域に、ITを活用した利便性の高いサービスを提供する企業が参入してきている点。フィンテックもその一つで、海外で先行していたものが、日本でも活発な動きを見せている現状がある。金融は各国とつながるインフラでもあるため、将来性が見込まれるフィンテックに関して日本だけが遅れをとるわけにはいかない。2014年秋ごろから規制緩和に向けた議論が始まり、この春、法律の改正が成立した。

 
フィンテックには、既存の金融機関の顧客を奪うサービスを提供するものも少なくない。ところが、「競合する可能性のある金融機関やシステム会社は、今は積極的にフィンテック企業とのコンテストを開催し、むしろ連携していこうとする流れが活発になっている」と、藤崎記者は言う。フィンテックにおける変革を自らの勝機につなげようとする動きが目立っているようだ。

フィンテックで私たちの暮らしはこう変わる


 
藤崎記者によりフィンテックの現状が整理されたところで、株式会社マネーフォワード取締役の瀧さんからは、フィンテックによってどのようなことが可能になるかが紹介された。指紋認証技術を用いて、スマートフォンを決済端末として活用するサービスや、宿泊場所あるいはお金を貸したい人と借りたい人のマッチングを行うサービスなど、「サービスレイヤー」と呼ばれるソフト面の金融サービスのほか、その裏側で手続きをより確実に、安心して行うことができるようにするための「インフラレイヤー」と呼ばれるハード面のサービスなど、フィンテックが提供するサービスは多岐に渡る。

 
フィンテックの成功例として、瀧さんが紹介したのがアメリカの家計簿アプリ「Acorns」だ。買い物をした際に、1ドル未満の端数のおつりを自動的に貯金し、それを投資信託などに投資してくれる。おつりとして返ってくる端数の金額に関しては、元々捨て金に近く、なくなってもしょうがないと思えるもの。それでも貯め続ければ、個人差もあるが、日本円で毎月およそ1万円、年間12万円ほどにもなる。
「さらにそれを投資の専門機関が推奨するリスクの少ない商品に自動で投資してくれるので、まったく努力をせず、知らないうちにお金が増えるというお得感が満載」だと、貯金は不得手と自ら語る瀧さんはその仕組みを称賛。Acornsの根底にあるのは、「ユーザーのお金に対する不安を少しでも減らしたい」という理念だ。それをおつりの端数という身近なものに着目し、実現した点が素晴らしい。

お金の不安を減らし、幸福を追求するためのサービスとして


 
「一番重要なのは、現状のサービスを改善し、利便性を向上させること。ユーザーに、より大きな安心や幸福感を与えることができるかどうかという視点を忘れてはいけないと思う」と、瀧さんはフィンテックの意義を明確にする。
現在アメリカでは、大手のフィンテック企業はおよそ1400社あるが、日本では40社程度。まだまだ少ないのが現状だ。瀧さんが取締役を務めるマネーフォワードでは、自動家計簿・資産管理ツールの提供といった自社事業とは別に、フィンテックベンチャーをもっと増やしていきたいという思いから、起業を志す人やビジネスマンたちを応援する活動にも取り組む。

 
さらに瀧さんから「キャッシュレス化」というテーマが提示された。2020年に向けて、海外から来た人でもクレジットカードを利用できるように、キャッシュレス化がさらに浸透していくと予想されている。今後、デビットカードを使えばコンビニやスーパーのレジでもお金を引き出せる「キャッシュアウト」というシステムも導入される見込みだ。これまではATMが近くにあるか否かで銀行を選んでいた人が数多くいたなか、ATMの存在感がどんどん小さくなっていく。
「そうしたなかで、どのような世界観のサービスが求められるのか」。フィンテックにおいて重要なのは、こうした視点だと瀧さんは語る。

 
ネットショッピングが浸透していくにしたがって、消費者は自分が欲しいと思うものをピンポイントで購入したり、より分かりやすいサービスを求める傾向にあり、金融も例外ではない。そして人工知能の発達により、フィンテックが提供するサービスは一層広がりを見せるだろう。お金に関する不安は、少しずつ小さくなっていくのではないかと瀧さんは予測する。様々な選択肢が可能になってくるなかで、不安を可視化したり、予見性を高めることで、人生をより楽しむことが可能なはずだ。そう語る瀧さんの言葉には、フィンテックの未来に横たわる大きな可能性を確信する力強さがあった。

 
(後編)につづく

  • speaker神田 潤一

    金融庁総務企画局企画課信用制度参事官室企画官

    1994年東京大学経済学部卒業、同年日本銀行入行。2000年に米イェール大学より修士号取得。2004年より日本銀行金融機構局で、主要行や外国金融機関等のモニタリング・考査を担当。2011年に日本生命に出向し、運用リスク管理を担当(2012年まで)。2014年より日本銀行考査運営課市場・流動性リスク考査グループ長。2015年より現職で、日本の決済制度・インフラの高度化を中心とする調査・政策企画に従事。

  • speaker瀧 俊雄

    株式会社マネーフォワード 取締役 兼 Fintech研究所長

    2004年 慶應義塾大学経済学部卒業後、野村證券入社。野村資本市場研究所にて、家計行動、年金制度、金融機関ビジネスモデル等の研究に従事。2011年にスタンフォード大学経営大学院卒業。同年に野村ホールディングスCEOオフィスに所属。2012年10月より株式会社マネーフォワード設立に参画、取締役兼Fintech研究所長として経営全般を担当。経済産業省「産業・金融・IT融合に関する研究会」に参加中。

  • coordinator藤崎 麻里

    朝日新聞東京本社経済部記者

    2003年に一橋大学を卒業後、ロンドン・スクール・オブ・エコノミックス(LSE)の国際関係学などで修士。2006年に朝日新聞に入社し、仙台、津総局、東京本社編集センターを経て、東京本社経済部。経済産業省、エネルギー、金融を担当し、現在はIT・ベンチャーを取材している。

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