日本橋から少し離れた場所、整然と並ぶビルの合間を抜けて路地を入ったところに、ぬくもりある木の壁をしつらえた小さなお店が佇んでいます。
そこから聞こえてくるのは、賑やかな笑い声。なかを覗いてみると、数人の女性たちが楽しそうに話をしていました。
ここは「人を思い、地域を思い、社会を思う人が繋がる場所」というコンセプトから始まった、『エシカルペイフォワード』というお店です。代表である沼田桜子さんやスタッフの皆さんのご縁で繋がったブランドの衣服や雑貨、食料品が、そこかしこに並んでいます。
突然ですが、お店の名前にも入っている「エシカル」という言葉を、みなさんはご存知でしょうか?
「エシカル」とは、直訳すると「倫理的な」という意味です。たとえば、オーガニックコットンや伝統工芸品など、地球や自然環境、生物、人間、さまざまな存在にとって幸せな関係性を築くことができるように作られたものを「エシカルな商品」と表します。
未来の社会に投資するという考えのもと、そういったエシカルなものを買うことが、ミレニアル世代を中心に世界中で流行しつつあるのです。
(お店に並ぶのは、どれも可愛らしく、手にとるだけで作り手のぬくもりが感じられる商品ばかり 引用元:「まち 日本橋」)
(国産の有機栽培の茶葉をハーバルセラピストがブレンドした和ハーブティー「今古今」 引用元:「今古今」HP)
“自分”が基軸ではない買いものをしてもらうために、お店を開いた
エシカルペイフォワードの代表、沼田さんがお店を立ち上げた理由。それは、“買いものからできる社会変革”を伝える場所をつくりたい、という思いからでした。
「私はもともとパルシステム生活協同組合(生協)のなかで働いていました。パルシステムは、消費者の人たちが欲しいものを共同購入するための仕組みをつくったことから始まりました。だから生協では、消費者のこだわりが反映されている商品ばかりを扱っています。
パルシステムは、“選ぶで変わる暮らしアクション”というテーマをずっとやってきました。そのなかで働いてきたこともあって、震災のときから、買いものの際にもう少しいろいろなことを考えて買う人を増やせないかな、という問題意識をずっと持っていたんです。
私はずっと青果の仕入れなどを担当していたので、フェアトレードやエシカルの世界を知っていたわけではなかったんですが、NPO法人 芸術家の村の方と知り合ったのをきっかけに、いろんな社会活動家と出会うようになりました。
もともとここは、農林水産省の役人だった方が自費で立ち上げたところで、行政の力だけでは社会問題解決ができないというので、NPO団体など、ひとつひとつの社会課題に寄り添うような活動をしている人たちを支援したいということから始まった場所なんです」
「本業の青果でも、食べていて身体にいいから、美味しいからという“自分”が基軸の理由からものを選ぶ人がほとんどな気がします。それは、ファッションでもそうだと思います。
そこで、いろいろな人の選択肢のなかにオーガニックやフェアトレードのものが入っていけるようにしたい、エシカルなものをつくっている人と出会うことで、そういうことを知らない人に手にとってもらえるようにしたい。そう思って、お店を始めることにしたんです」
お店に並ぶのは「人に優しいもの、地域の文化を守るもの、地球に優しいもの」
お店が入っているビルの2・3階には、NPOや社会起業家が手頃な値段で借りられるミーティング・イベントスペース、4・5階にはシェアハウスが入っています。スペースで行われたイベントの参加者が、帰りにお店に立ち寄ってくれることも多いのだとか。
お客さんには、近所の方やそういったイベント帰りの人のほかに、「エシカル」という言葉をインターネットで調べて来店する人も多いのだそう。また、地元のフリーペーパーに掲載された記事を見て足を運んでくれる人もいるそうです。
(月に1回ほど開催しているポップアップショップも好評だそう。このとき開催していたのは
インド刺繍のハンドメイドブランド「itobanashi」の展示販売会。最近では、大学のゼミで「エシカル消費」を学ぶ学生さんの来店も増えているそうです)
しかし、お店があるのは人通りがとても少ない場所。いまでこそ「エシカル」という言葉は少しずつ知られてきていますが、開店当初の2年前はまだまだ認知度が低かったこともあり、さまざまな苦労があったようです。
「地域の方にどれだけ認知していただけるか、というのを大事にやってきました。地元のフリーペーパーに出たり、このあたりはメーカーさんが多いので、商品のサンプルを少しお渡ししておすすめしてみたり、人通りが少しでもあるところに看板を出してみたりと、できることは地道にやってきましたね」
オーガニック食材を多く扱っている老舗の遠忠商店さんとお客様が重なりそうだということで、そこで開催されているマーケットに出店もしたそう。そこに来てくださった方が、いまではエシカルペイフォワードのお店に顔を出してくれるようにもなったそうです。
(マルシェはお店で扱っている日用品や雑貨などのメーカーさんが直接販売しています。不定期に開催)
「日本橋のあたりは、特にものを大事にしたり、伝統や義理と人情を大事にしている方が多いので、ものづくりの現場の話をすると喜んでくださる方が多いですね。ものを見る目が厳しい方もいらっしゃるので、商品を褒めてくださる方が多いのはありがたいことです」
そういった目の肥えたお客さんが多いことから、商品選びにはこだわっていると沼田さん。「フェアトレードのような人に優しいもの、地域の文化を守るもの、地球に優しいもの」というコンセプトに沿った商品を取り揃えています。また、「誰かに贈りたくなるようなクオリティかどうか」ということも重視するそうです。
お店の商品と出会うことで、“自分が本当に大切にしたいと思うもの”を見つけてほしい
(運営は沼田さん、店長の黒崎さん、交渉担当の稲葉さんを含めたコアスタッフ5人が中心となり、ボランティア登録をしている20名ほどのスタッフが、それぞれの興味や経験に応じて、接客、店舗のレイアウト、広報、マーケティングなどを行っています。お店は2018年4月から日・月休みに変更予定)
沼田さんは、お店を運営することで、“自分にとって本当に大切なことは何か” ということに気づくお手伝いがしたい、と言います。
「たとえば、子どもが好きな人の心には児童労働の話は響くかもしれないけれど、環境問題のことはそこまで響かないかもしれないですよね。自分の持っている価値観によって、心に響くものは違ってくると思っています。
だからこそ、ここに来て商品と出会うことで、自分が大切にしたいと思うものを見つけて帰ってもらいたい、と思います。それを大切にすることが、社会がよくなっていくことに繋がるんじゃないかなって思うんです」
誰かに送った思いが、めぐりめぐって社会をよくしていきますように
3月11日には、大震災から7年が経ちました。この震災をきっかけに、私たちは便利さや利益だけを追求した社会の弊害、脆さを改めて実感することとなりました。7年経ったいまでも、苦しみを抱えながら暮らしている人はたくさんいます。震災のことを風化させないこと、そして東京を地方に依存させないこと。福島にいなくても、できることはたくさんあります。
そして、日々の買いものから社会との繋がりを意識することも、私たちにできることのひとつです。
「それはどこからきているか?」
「それはどんな風に作られているか?」
「誰が作ってくれたものなのか?」
そのように自問することで、自分と社会との関係を見つめ直し、これからの社会のあり方について、自分のなかで改めて考えてみる機会を設ける必要があるのではないでしょうか。
『エシカルペイフォワード』の店名に含まれる「ペイフォワード」という言葉は、同じ名前の映画から取ったそう。誰かに送った思いが、めぐりめぐって社会をよくしていきますように。……そこには、そんな思いが込められています。
たったひとりの思いやちょっとした行動が、社会をもっともっとよくしていくための第一歩になるのです。みなさんも『エシカルペイフォワード』に、 “本当に自分にとって大切な何か” との出会いを探しにいってみませんか?
「SDGs」について、詳しくはこちら:SDGs(持続可能な開発目標)とは何か?17の目標をわかりやすく解説|日本の取り組み事例あり
<編集>サムライト <WRITER>松尾沙織