―八ケ岳エコハウス「ほくほく」プロジェクト―① 節電記者、築40年の空き家を買う

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本業は新聞記者だけれど、ここ数年、むくむく膨らむ気持ちを抑えられないでいた。自分の手で、家を建ててみたい――。それも普通の家ではなく、自然エネルギーの恵みをめいっぱいに享受するエコハウスだ。そこで、憧れの八ケ岳南麓、山梨県北杜市の空き家をリフォームして環境に優しい持続可能な家に変身させるエコハウス「ほくほく」プロジェクトを立ち上げた。理想の住まいは果たしてできるのだろうか。試行錯誤の様子をこれからリポートします。

超節電生活でたどりついた答え

2011年に当時勤務していた福島で東日本大震災と東京電力の原発事故を体験したのをきっかけに「5アンペア生活」を始めた。

 
電力会社とのアンペア契約を最少にして、エアコンや電子レンジなど身の回りにあふれる電化製品と決別し、暮らしていこう。電気をじゃぶじゃぶと使うのをやめる代わりに知恵や技を使う省エネ暮らしは苦労も多かったが、1カ月の電気代を170円台にまで下げられたこともあった。

 
この7年の間、省エネ生活の様子を新聞で連載したり、『本気で5アンペア』(コモンズ)といった本に著したりして、節電の輪を広げてきたつもりだった。

 
しかし、この間も、原発は次々と再稼働していった。本来は地球環境のために歓迎されるべき太陽光発電も、森林を切り崩して拡張するメガソーラーの乱開発が進み、各地で嫌われ者になった。異常気象が、異常とはいえないほど相次いでぼくたちの生活を脅かし、地球環境が良くない方向へ進んでいることを教えてくれている。

 
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(山を切り崩して広がるメガソーラー=山梨県甲斐市)

 
どうすれば、国連が掲げるSDGsの目標を、目標のままで終わらせず、地球をいじめないで仲良く共存する道を足元にたぐり寄せることができるだろうか? その答えのひとつが「エコハウス」をつくることだった。

誰も見向きもしない空き家を手に入れる

2017年、八ケ岳南麓に、一軒の空き家を買った。

 
山梨県北杜市は小学校の林間学校で訪れて以来、広い空とさわやかな高原の空気に魅せられて、幾度となく通ってきた。東京から車や電車で約2時間で来られるリゾート地として、観光客だけでなく移住者にも人気の高いところ。憧れの地でのマイホーム購入は、長年の夢をかなえたかっこうだ。

 
しかし、手に入れたのは、築40年の中古住宅。誰もが一目見ただけで、この家がいかに凡庸で、つまらない建築物かがわかるだろう。古民家のように時が刻んだ風格もなければ、すぐれた意匠が凝らされているわけでもない。誰もが顧みなかった証拠に、この家は前の持ち主が売りに出してもなかなか買い手がつかず、ぼくが発見したときにはすでに空き家になって2年近くが経っていた。

  
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(初めて訪れた時の空き家。庭は草ぼうぼうだった)

 
地元の不動産屋さんは正直な人だった。連れてこられたのは、昭和風情たっぷりの瓦屋根の20坪の平屋。家の各所を案内しながら、何度もため息をついた。

 
「八ケ岳での田舎暮らしにあこがれる人が、買う家ではないんですよねえ……」

 
それはそうだ。室内はすべての部屋が畳敷きで、時代から取り残された民宿、もしくはさびれた海の家のような風情なのだから。これまで、何組かを案内したが、ちょっと見ただけで、帰っていったという。この家を見にきた久しぶりの客。ぼくを最後の好機と捉えた彼が、懸命に訴えたセールスポイントは以下のようなものだった。

「リフォームをしっかりしましたから、きれいですよ」「修繕なしで、明日からでも、すぐに住めます」

 
うそ偽りはなかった。板を張り直した廊下はピカピカでたわみもなかったし、ステンレスのキッチンもキズ一つなく輝いていた。風呂も新しい。

 
でも、がっかりだった。ひざを抱えて入る小さいサイズのバスタブに体をねじり混んで横を向けばすぐ脇に、便器がある。安いビジネスホテルによくあるサイズの小さなユニットバスはリゾート暮らしにはほど遠い。

 
ではなぜ、誰にも見向きもされないようなこの建物を手に入れたのか――。

 
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(不動産屋さんにつづいて室内へ。すぐ住める状態に改修されていたが、あこがれの田舎暮らしのイメージとは異なった)

ああ 太陽の恵み

正直な不動産屋さんのため息とセールストークを聞きながら、ぼくは窓の外の環境に目を奪われていた。標高600メートル、約70坪の敷地からは、胸のすくような眺めが広がっていた。

 
水をはった田んぼは青空を映してキラキラと輝き、その向こうで残雪を抱いた南アルプスの名だたる峰々が圧倒的な質量で迫ってくる。視線を北西にやれば、八ケ岳連峰が何もさえぎるものなく、緑の裾野をたおやかに広げているのが見える。

 
北杜市は日照時間が日本で一番長い場所として知られる。冬の間も降雪は少ない。西側に遮るものがなく大きく空に向かって開けたここならば、日本一の太陽の恵みをいっぱい受けることができるだろう。

 
なんの特徴も個性もなく、誰にも目もかけられず、住む人を失い、ただただそこに立っているだけの家が、光明の差す家に思えていた。

 
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(日本一の日照時間で知られる山梨県北杜市明野)

 
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(空き家からの眺め。田んぼの向こうに八ケ岳の山容がさえぎることなく見える)

むくむくとふくらむ夢

ふんだんに降り注ぐ太陽の力だけで電気をまかない、電力会社の送電網(グリッド)にはつながない、「オフグリッド」の電力自給ハウスにする。暖房は薪ストーブ、給湯は太陽熱や薪ボイラーを使う。エネルギーの地産地消だ。

 
エネルギーの消費を少なくするためには、家の断熱性能を高めることも大切だろう。家を新築する考えはもとからなかった。なにしろ空き家は日本全国の住宅総戸数の13パーセントに達している。いまある資産を生かし、未来へつながる持続可能な住宅にするには、どうすればいいのか。ぼく自身が改修工事に加わって体験することにしよう。大工さんに任せきりにせず、DIYのレベルを超えたプロの技に直接触れられる好機と捉えて、エコハウスができあがっていく一部始終を、体を動かしながら観察するのだ。

 
夢がむくむくふくらんでくる。「負動産」になるのを恐れ、家主さんは庭付き70坪の物件を、高級国産車くらいの価格にまで値引きしてくれた。こうしてぼくは生まれて初めてのマイホームを手に入れた。

 
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(手に入れた家は「ほくほく」と名付けた。エコハウスに改修できるのかは今後の展開次第)

 
なんの変哲もない、日本中にあふれた空き家の846万件の中の1軒。いかにして日本で最高レベルの住宅性能を持ち、自然エネルギーだけで暮らしが成り立つエコハウスに、身を持ち崩さない範囲の費用でリノベーションさせることができるのか。いや、できないのか。

 
八ケ岳エコハウス「ほくほく」プロジェクトが一歩を踏み出した。

 

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このシリーズは随時掲載します。次回は構想に集まった仲間たちの物語です。

 

現地だより
sdgs_hokuhoku07(ワークショップに参加した神奈川県厚木市の椎名修蔵さんの手袋には、アカボシゴマダラが来訪。しばらくたわむれて飛び立っていきました)

「ほくほく」で進むリフォームの様子を一足お先に紹介します。暑い夏の作業。大自然に囲まれた現地では朝夕は心地よい風が吹くものの、かんかん照りの日中は気温がぐんぐん上昇。「無理はしない」を合言葉にして定期的に休憩時間を設けました。ウォータージャグには氷をいっぱい入れた麦茶を用意し、熱中症対策用の塩タブレットも。おやつで一番人気だったのは森永製菓のキャンディー「ハイチュウ」でした。暑くてもベタついたり、溶けたりしないのが不思議。爽やかな果汁の風味が口いっぱいに広がって、疲れが吹き飛ぶおいしさ。噴き出る汗をぬぐい、時々、飛んでくるチョウチョや、手洗い場に現れる小さなカエルを眺めながら、日陰で過ごす休憩時間は至福のひとときでした。(小幡淳一)

  • writer斎藤 健一郎(さいとう・けんいちろう)

    朝日新聞be編集部記者

    1974年、東京都小金井市生まれ。テレビディレクターを経て、2004年に新聞記者に。福島県郡山市に赴任中、東日本大震災で被災。12年から始めた節電生活は8年目になり、「健康第一電力」の所長として東京で借りている団地のベランダで太陽光発電もしている。19年5月に第1子が産まれ、ただいま1年間の育休中。著書に『本気で5アンペア』(コモンズ)、『5アンペア生活をやってみた』(岩波書店)。
    ツイッター https://twitter.com/kenichiro_saito

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