【コラム】 from Kenya
みんな同じ空の下④
ケニアで障がい児とそのご家族を支援する「シロアムの園」の園長で小児科医の公文和子です。約10年間、この国でエイズの感染率の低下などに心を尽くしました。一方で、数字には表れない「命の質」の問題を考えるようになった時に、障がい児との出会いが与えられました。そのキラキラした笑顔の背後にあるたくさんの困難を知り、2015年、シロアムの園の開設に至りました。ちょうどSDGsが始まった年です。子どもたちの「持続可能な」笑顔を見たい、子どもたちと共に生きる社会をみんなで作っていきたい。そんな思いでケニアの障がいのある子どもたちとご家族と共に生きています。
目標への長い時間と忍耐
医者という仕事では、治療の効果を評価するのは、数時間から数日以内、長くても数週間もしくは数か月単位です。もちろん副作用や効果をもっと長い目で見ていかなければならない場合もありますが、例えば、教育のように数年という長い期間で成長を見ていくことは、私にとって未知の経験でした。
「○○ができるようになる、わかるようになる」という目標であれば、一回の授業で達成されることもあるでしょうが、教育の本来の目的が「人間作り」ということを考えると、何十年も経ってから初めてその効果が発揮されることもあるわけです。そして、障がいのある子どもたちにとっての教育は、更に長い時間と忍耐が必要になるものです。

「しゃべれるようになってから来て」
シロアムの園に通ってくる子どもたちにとっての教育の目標は様々です。
読み書きができるようになることによって、将来職につけるようになるかもしれない、という子もいれば、できるだけ自分のことを自分でできるようになる、という子もいます。そして、あと何年生きられるかわからないからこそ、生きる喜びを感じることができるようにする、という教育目標の子どもたちもたくさんいます。どのような目標でも、これから何年生きられるかわからなくても、子どもたちにとって教育は大切な権利です。
しかし、多くのシロアムの子どもたちは学校に行くことができていません。歩けるようになってから、しゃべれるようになってから来てください、と学校から拒否されますが、多くの子どもたちが歩いたり、しゃべったりできるようになる日はなかなか来ません。また、学校に通えたとしても適切な教育が受けられるとは限りません。

未舗装の小学校への道
ジョセフ君は11歳の男の子で、二分脊椎(せきつい)と水頭症という病気をもっており、下半身を動かすことも、感じることもできません。お母さんは亡くなり、お父さんも病気のため、小さい頃からおばあちゃんに育てられています。
ジョセフ君は友達と遊んだり、勉強したりするのが大好きで、将来の夢はパイロットになることです。5歳の時からシロアムの園に週一回通っていますが、普段は自宅から数百メートルの幼稚園に通っています。公立小学校が1kmほど離れた場所にあり、特別支援学級もあるのですが、歩けないジョセフ君の受け入れは難しいそうです。
そもそも、小学校までの道は未舗装道路で車いすを使うことができませんし、39㎏もあるジョセフ君をおばあちゃんがおぶって歩けるのはせいぜい数百メートルです。スクールバスのある私立学校もありますが、ジョセフ君の面倒をみながら一日数時間の仕事をしているおばあちゃんの収入だけでは、その日の食べ物を得ることだけで精いっぱいです。以上のような理由でジョセフ君は近所の幼稚園で、3-7歳の子どもたちと共に学んでいるのです。

SDGsの目標4「質の高い教育をみんなに」。ジョセフ君が必要としている教育を受けることができるようになるためには気が遠くなるような長く厳しい道のりが必要です。学校へのアクセス、教育の質、インフラ、収入…教育セクターだけではなく、多くの関係者が1人の若者の人生のためにできる一歩を踏み出すことにより、小さな一つひとつのことが解決していくのかもしれません。
もしジョセフ君がパイロットになれなかったとしても、人生は素晴らしいと感じられるように、私も応援し、祈り続けていきます。
【コラム・みんな同じ空の下】
①なぜ今、ケニアの障がい児と共に生きているのか 私が恋に落ちた子どもたちの笑顔
②「アフリカだから医療が遅れてるんでしょ?」 命を救ってなんぼのケニアで私が向き合っているもの
③「厳しいイバラの道」4カ月で「美しいバラの道」 目標1500万円、つないだ心のバトン