【コラム】 from Kenya
みんな同じ空の下③
ケニアで障がい児とそのご家族を支援する「シロアムの園」の園長で小児科医の公文和子です。約10年間、この国でエイズの感染率の低下などに心を尽くしました。一方で、数字には表れない「命の質」の問題を考えるようになった時に、障がい児との出会いが与えられました。そのキラキラした笑顔の背後にあるたくさんの困難を知り、2015年、シロアムの園の開設に至りました。ちょうどSDGsが始まった年です。子どもたちの「持続可能な」笑顔を見たい、子どもたちと共に生きる社会をみんなで作っていきたい。そんな思いでケニアの障がいのある子どもたちとご家族と共に生きています。
「借家」に感じた限界
シロアムの園は2015年に7年契約の一軒家借家で事業を開始しましたが、「借家」には様々な問題があります。この7年間、驚くような数とニーズの違う子どもたちが押し寄せています。ただ、それにこたえるために必要な改築・増築は、借家では困難でした。
ケニアは高度経済成長期で、地価がうなぎ登りです。シロアムの園があるナイロビ郊外では開発がどんどん進み、開設当初とは風景も地価も大きく変化しています。それでも開設当初から、土地を購入して、自前の施設を建設することは目標の一つでした。
土地を購入するのは、困っている人たちに対して「私たちはあなたに助けが必要な時に、いつもここにいるあなたの友達です」ということを示す意味合いもあります。信頼できる友人とは、困っている時に一緒に考え、一緒にいてくれる人たちではないでしょうか。子どもたちやそのご家族にとって、借家を追い出され、資金がなくなったので友人やめました、では済まないのです。「ここにいる」ということを確実にすることで、地域に根差し、子どもたちやご家族が地域の一員として共に生きていくことを支える存在になれると思っています。

2019年に資金獲得のためのファンドレイジングを行い、多くの方々のご協力により土地を購入しましたが、施設建築には土地購入の何倍ものお金がかかることがわかりました。そして、建築資材もどんどん値上がりしていく……。そんな中で2021年7月から11月の4カ月、1500万円を目標に朝日新聞社が運営するクラウドファンディングサイト「A-port」でファンドレイジングを行いました。
日々ギリギリで頑張っている「零細団体」にとって1500万円という金額はとてつもなく大きな金額ですし、この1500万円に別の様々手段で集めた資金を合わせてできることは、草ぼうぼうの土地を整地し、塀を建て、電気や上下水を整え、母屋の半分を建てるところまでです。
達成あきらめかけた時期も
そのような「厳しいイバラの道」と思えるような歩みが始まったのですが、4カ月が終了して振り返ると「美しいバラの道」であったことを思います。途中、100%の達成はほぼあきらめかけていた時期もありましたが、最後の追い上げもあり、108%、延べ774人の方々に参加していただけたのみならず、その他のご寄付も含めると、なんとのべ1215人の個人や団体にご寄付をいただき、母屋全体の建築資金が集まりました。
成功の秘訣は? とよく聞かれます。これは、シロアムの子どもたちの力、その力をしっかりと受け取って他の人たちに伝えてくださった「応援団」の力、そしてそのような「心のバトン」が途切れることなく、次々と伝わっていったことにあると思います。
「零細団体」は広報部などなく、SNSも弱く、そのような私たちがこれだけ多くの方々につながることができたのは、インターネットの力だけではなく、ケニアの障がいのある子どもたちの「大きな強い力」、コミュニティーの中に生まれた愛の力を通して、「共生社会」が出来上がったことにあると思います。

日本人がケニアの障がい児を「支援」しても、きりがないのではないか、という声を時々聞きます。おっしゃる通りです。子どもたちが恒常的に幸せでいられるためには、ケニアの制度が変わらなければなりませんし、医療や教育のレベルが向上しなければなりませんし、人々の意識が変わらなければなりません。
しかし、これを達成するための長い道のりには、そこに達するまでに資金も含めて「伴走者」が必要です。私自身、20年以上「国際協力」という分野に従事してきて思うのは、ケニア人だからこそ見えることがたくさんあるのと同時に、外国人だからこそ見えることもたくさんあるということです。障がいのない人にしか見えないものがあり、障がいのある人にしか見えないものがあるのと同じように。
これからも、シロアムの園の子どもたちやご家族、そして彼らを取り巻く社会と伴走していくつもりです。そして、日本にいらっしゃる皆様には、私たちとこれからも伴走していただきたいと思っています。それが「共に生きる社会」の実現につながると信じて。
【コラム・みんな同じ空の下】
①なぜ今、ケニアの障がい児と共に生きているのか 私が恋に落ちた子どもたちの笑顔
②「アフリカだから医療が遅れてるんでしょ?」 命を救ってなんぼのケニアで私が向き合っているもの