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「アフリカだから医療が遅れてるんでしょ?」 命を救ってなんぼのケニアで私が向き合っているもの

2021.10.21
目標1:貧困をなくそう
目標3:すべての人に健康と福祉を
目標10:人や国の不平等をなくそう

コラム】 from Kenya
みんな同じ空の下

ケニアで障がい児とそのご家族を支援する「シロアムの園」の園長で小児科医の公文和子です。約10年間、この国でエイズの感染率の低下などに心を尽くしました。一方で、数字には表れない「命の質」の問題を考えるようになった時に、障がい児との出会いが与えられました。そのキラキラした笑顔の背後にあるたくさんの困難を知り、2015年、シロアムの園の開設に至りました。ちょうどSDGsが始まった年です。子どもたちの「持続可能な」笑顔を見たい、子どもたちと共に生きる社会をみんなで作っていきたい。そんな思いでケニアの障がいのある子どもたちとご家族と共に生きています。

思わず「まじ?!」

SDGsの目標3に「すべての人々に健康な生活と福祉を」があります。この目標を達成するためには様々な要素がありますが、まず思いつくのは「医療の質」ということでしょう。

アフリカだから医療が遅れているんでしょ? とよく聞かれます。すべての分野がそうではないのですが、確かに時々、アフリカで20年働いてきて、そんじょそこらのことでは動揺もしなくなってきた私でも、目が点になるような事もあります。例えば、日本では考えられない高用量の薬の処方、子どもの風邪による発熱や咳対する安易なステロイド内服処方などは、思わず「まじ?!」と言いたくなります。また、金持ちたちが通う首都の私立病院には、最新式のCT、MRIなどの医療機器が入ってきていますが、その画像を正しく読み取って、よい治療に結び付けていく技術をもった人材が限られているため、ありえないような誤診があったりします。薬が足りない、設備が整っていない、人手が足りない、貧富の差によって、受けることができる医療が全く違うなど、問題点や欠けているものを挙げたらきりがありません。

権威の象徴である白衣を着た療法士が関節をぎゅうぎゅう押すケニアのリハビリ風景

では、障がい児の場合にはどうでしょうか?

私が初めて7歳のサイラス君と出会った時、目の前でけいれんの大発作を起こしており、お母さんは困った顔をしつつも、「いつものこと」と言っていました。サイラス君は2歳の時にてんかんを発症しました。シングルマザーのお母さんは経済的に困難で、道端で野菜を売る仕事をしていましたので、サイラス君がけいれんを起こしていても、彼を家において仕事をするしかありません。また、てんかんの治療には薬を毎日継続することが大切ですが、お金が入った時だけ薬を飲ませていたので、繰り返し大きな発作を起こしていたのです。

「子どもが大泣きするほど効果がある」

そんなサイラス君に対して、病院の医者はサイラス君が薬を継続して飲んでいるかを確認することもなく「いつもの薬」の処方箋を書いてお母さんに渡すだけ。医者が患者の様々な背景にしっかりと目を向けて治療を行わないのであれば、医療の意味とはいったい何なんだろう、と深く考えさせられました。医療制度が整わず、患者さん側の知識や社会背景の多様性が大きいケニアでは、そうした弊害はますます顕著になります。

「シロアムの園」では療法士が笑顔で子どもたちに接している

ケニアでは命を救ってなんぼのもの。その後の命の質に目を向ける余裕がまだまだないため、障がい児へのリハビリはさらに遅れた分野と言えます。ケニアの病院のリハビリ室でよく見るのは、幅が狭くて高い診察台の上に障がいのある子どもたちが横たわり、権威の象徴である白衣を仰々しく着た療法士たちが関節を強引に曲げ伸ばししたり、ぎゅうぎゅう押したりして、子どもたちが大泣きする風景です。まだ首もすわっていない障がいのある子どもたちが、立位訓練台に縛り付けられ、大泣きしながら独りぼっちで長時間立たされている、そんな姿です。このようなリハビリは科学的根拠もなければ、子どもたちにとって苦痛でしかありません。

子どもたちの笑顔のために始めた「シロアムの園」では、学校や先輩たちからそのように習ってきた作業療法士に対して、最初に、かわいいエプロンと床で一緒に遊べるようにマットレスとおもちゃを渡しました。そして、「まず、子どもとお友達になってください」と伝えました。それから2年後、その作業療法士が「告白」してくれたのは、彼女は先輩から、子どもたちが大泣きするほど療法は効き目があるし、実際に親御さんたちはそれを期待していた、だから、その時私から渡されたものの意味は全く見当がつかなかった、ということでした。今は床の上で子どもたちと遊びながらリハビリを行うと、自分も子どもたちも楽しいし、子どもたちもずっと成長している、とも言っていました。

目標へのとてつもなく長い旅

サイラス君と笑顔で馬に乗る公文医師

医療の質だけをとっても、SDGsの目標にたどり着くのは、とてつもなく長い旅です。でも、私は医者として目の前の愛する命のために、できることを一つ一つ積み重ねるだけ。小さな一歩だとしても、それが「すべての人に健康を」というゴールに向かう歩みにつながることを祈っているのです。

【コラム・みんな同じ空の下】

①なぜ今、ケニアの障がい児と共に生きているのか 私が恋に落ちた子どもたちの笑顔

【朝日新聞掲載記事】

ケニアで障害児に寄り添う小児科医 彼らに生きる喜びを

脳障害の子がある日突然…日本人がケニアに施設作ったら

writer:公文 和子

小児科医、「シロアムの園」園長

ケニアの障がい児とその家族の支援事業「シロアムの園」の創設者・園長であり、クリスチャン小児科医。1994年から日本で小児科医として働いた後、2000年に日本を離れ、2002年よりケニア在住。「シロアムの園」は、ケニアの首都ナイロビ郊外に2015年開設。子どもたちやそのご家族にとって必要なこと、大切なことを、その人まるごと受け入れて、医療・教育・リハビリ、社会面などの包括的なケアを提供し、子どもたちやご家族と共に共生社会を目指す。

著書紹介「グッド・モーニング・トゥ・ユー!」

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