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ママ友の言葉で始まった「良い素材」を知るための「旅」 自分の目で見て考え続けた10年  

更新日 2022.02.02
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コラム】 from Canada

エシカルのその先へ

国産ニット帽子ブランド「ami-tsumuli (アミツムリ)」デザイナーの寺本恭子です。28歳の時に、祖父から老舗の帽子メーカーを引き継ぎました。2004年にはブランドを立ち上げ、ファッション小物の国際展示会であるパリのプルミエールクラスでデビュー。エレガントで高品質なニット帽子と国内外で評価されましたが、その後、アパレル素材の背景に隠れたストーリーを知り、「良いモノづくり」の定義を見直しました。「真のラグジュアリーとは何か?」をカナダに移住した今も追究中です。

知らないことだらけだった

10年ほど前、息子の幼稚園のママ友の1人の言葉に驚いたことがありました。自分は「ウールを着ない」と言うのです。動物愛護の観点から動物繊維を一切身につけないという考え方があることを、私はその時初めて知りました。

仕事柄ウールは身近な存在だったのですが、羊の毛を刈るだけなのに、どうして不快感を持つ人がいるのだろう。それが、素材の背景にあるストーリーに関心を持ち始めた、最初のきっかけでした。

ウールの背景を掘り下げてみると、知らないことだらけでした。全部を説明すると長くなってしまうのですが、羊は1万年以上もかけて人間がヤギから改良したものであること、またコスト削減を進めた結果、現在の生産体制では、羊に負担がかかるケースが多いことが分かりました。

羊は不自然に改良されたため、羊の毛は生えなくても良いところにも生えてしまいます。例えば、お尻周りです。放っておくと虫が湧き、病気になってしまいます。コスト削減のため、仔羊の時にお尻の皮を剝いでしまう場合もあります。その部分はやけどの痕のようになり、二度と毛が生えなくなるそうです。

そして、ウールに限らず、他の動物繊維にも、植物繊維にも、化学繊維にも、皮革にも、その背景には、今まで知らなかったストーリーがあることを知りました。アミツムリが手がけてきた製品は、「良い素材」を使った「ラグジュアリー」で「高品質」なニット帽子だと自負していたのに、その「良い素材」への配慮が抜けていたのです。

そこで私は、「本当の」良い素材を求めて、素材の背景にあるストーリーも意識したエシカルな視点で、改めて情報を集め始めました。

ところが、これが難しいのです。例えば、動物の命が犠牲になるリアルファーと、生分解性がない化学繊維のフェイクファーでは、どちらがエシカルなのでしょうか? 本を読んだり、業界の方のお話を伺ったりする度に、「なるほど」と思うのですが、逆の意見を聞いても、同じように「なるほど」と思ってしまいます。

自分の目で現場を見る

悩んだ末、「この素材は、エシカル的に、良い素材なのか悪い素材なのか」の答えを安易に求めることをやめました。まずは、現場で何が起きているのかを自分の目で見てみることにしたのです。

2012年の秋、テキサス州のオーガニックコットン畑に視察に行きました。農薬を使う従来の畑では、葉を枯らしてから収穫するために枯れ葉剤まで使われているのが一般的でした。無農薬栽培をしている農場の方とも意見交換し、肉体的な苦労や、農場経営の苦労を考えると、いくら倍の値段で売れても、コストに見合わないという話も聞きました。

数年後には、インド南部のコットン畑に行きました。小規模な畑が集まっており、児童労働が大きな問題となっていました。なぜ、我が子を学校に通わせないのか?そんな疑問を持っていましたが、親も教育を受けておらず、学校の役割をよく理解していないケースが多いと知りました。

この他にも、羊の牧場、紡績工場や皮なめし工場などにも、時間を見つけて足を運びました。自分の足で現場に行き、自分の五感で感じると、そう簡単に「これは良い」「これは悪い」と判断できなくなります。そして、絶対的なエシカルな答えなど、存在しないことに気づかされます。時代、地域、社会状況などによって、価値観は変わります。それらを考慮した上で、「自分にとってのエシカル」を選び取っていくしかないのです。

いつか誰かの心に響くため

玉石混交の情報にあふれた現代ですが、自分ができる範囲で構わないので、一次情報を取ることが大事だと、私は思っています。そして、一人一人が「自分にとってのエシカル」を追求していった時、それらの価値観が重なり合い、共鳴し合うのではないでしょうか。

私は、8年前にエシカルコレクションのコンセプトを作りましたが、SDGsへの関心が高まるにつれて、多くの方に評価していただけるようになりました。受け売りではない、本当に自分で考えたことは、大勢の人に響かなくても、時間がかかっても、いつか必ず誰かの心に響くことを、実感しています。

こうした取り組みの先に、誰にとっても良い社会が作られていくのだと、私は信じています。

(次のコラム)

②「ハッピーホリデーズ」が教えてくれた多様性 勘違いだった「日本人VSカナダ人」のバトル

writer:寺本 恭子

国産ニット帽子ブランド「アミツムリ」デザイナー

東京生まれ。慶應義塾大学商学部卒業後、新卒で入社した銀行を2年で退職し、大好きだった洋裁を学ぶために、東京田中千代服飾専門学校デザイン専攻科へ。卒業後は、オートクチュール・ウエディングドレスデザイナー・松居エリ氏に師事。28歳のとき父が急逝したため、母方の祖父が経営する老舗ニット帽子メーカー吉川帽子株式会社を受け継ぐ。2004年にニット帽子ブランド「ami-tsumuli(アミツムリ)」を立ち上げ、同年にパリの展示会でデビュー。2014年からカナダ・モントリオールへ移住し、サステナブルな視点を生かしながら創作を続けている。

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