社会課題を語り合う

2030年、“持続可能な働き方”をするためには? 「社畜だった」常見陽平と、朝日新聞記者が語る

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専門家と参加者、朝日新聞記者が社会課題についてともに語り合うイベント「未来メディアカフェ」が、2018年1月17日に東京・渋谷の朝日新聞社メディアラボで開催されました。

 
15回目となる今回のカフェのテーマは「未来の働き方」。未来メディアプロジェクト「2030 SDGsで変える」コーナーで働き方のコラムを連載している千葉商科大学専任講師で働き方評論家の常見陽平さんと、朝日新聞編集委員の秋山訓子が、“2030年、私たちはどんな働き方をしているのか”について語り合いました。

 

自分から仕事で無理をしてしまうのは、“強制された自発性”

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常見さんと秋山記者が、自身のこれまでの働き方を振り返るところからイベントはスタートしました。

 
秋山:私は1992年に朝日新聞社に入社したのですが、本社で最初に配属されたのが政治部だったんです。他紙の記者よりも早く、正確に“特ダネ”をとらなければいけないという思いの中で、いま振り返ると新人のときはかなり過酷な働き方をしていましたね。相対評価の世界なので、ライバルの記者を出し抜かなければいかないと思うと、ブラックな働き方を自ら選んでしまう。ヘトヘトになって思考力が落ちてくると、そういう働き方が当たり前だと刷り込まされてしまうというか。

 
常見:僕も、サラリーマンとしての仕事は何社か経験してきたんですが、正直に言って当時は社畜でしたね。人事部にいたこともあるのですが、メンタルヘルスの不調を訴えて休職していく人たちを当時は何人も見ました。

 
 
そのような環境の中で、常見さんは“自発的な労働”にも実は罠が潜んでいる、と警鐘を鳴らします。

 
 
常見:今日、このイベントに来てくださった方もそうですが、働くことに対して意識の高い方はたくさんいると思うんですよ。中には、「残業している俺、カッコいい」と心のどこかで思っていたりする方もいるんじゃないかと思います。そういった、慢性的に残業しているような人が「ちょっと疲れてるから出勤時間を遅らせようかな」と遅刻ぎみになってしまうとか、「電車に乗りたくないからタクシーを使おう」とタクシーを常用したりし始めるのは、あとから振り返ってみれば鬱の初期症状だった、というケースも少なくないんですよね。

 
さっき秋山さんがおっしゃったような“ブラックな働き方を自ら選んでしまう”というのを、“強制された自発性”と呼びます。要求されている目標が高いと、会社には強制されなくても「目標を達成するためには、こうするしかないよな」と自分で無理をしてしまう。そういったことが多くの人の中で起こっていると感じます。

 

持続可能な働き方のコツは、仕事に“裏テーマ”を持つこと

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自分の働き方を変えようと思った転換点について、常見さんと秋山記者はこう語ります。

 
秋山:そんな無茶な働き方をしていた中で、あるとき「仮に自分の体と心が壊れても、会社は責任をとってくれない」と気づきました。自分の身は自分で守らなければいけないし、働き方を根本的に変える必要があるなと。

 
自分の働き方を見直したときに、労働時間もそうですが、“特ダネをとる”だけではダメだと思ったんですよね。ちょうど20年前の1998年頃、男性記者があまり関心を抱かないような領域で、自分にしか書けないことはなんだろうと考えました。その結果、これからはNPOや女性の進出が政治や社会そのものを変えてゆくかもしれないと思い、その領域で書いていこう、と思って。

 
常見:それは本当に大事ですよね。サラリーマンの処世術と言ってもいいかもしれないですが、“裏テーマを持つ”というのは仕事において非常に重要で。よく「ライスワーク」と「ライフワーク」という言葉が使われますが、食べてゆくための仕事と人生を賭ける仕事、そのふたつがあるといいのかもしれないですね。

 
僕自身も、うつで休職したことがあって、そのときに「このまま頑張ってもダメだ、もう会社から逃げよう」と思ったんです。いま何よりも心がけているのは、人と競争しないことと“中空飛行”でいること。いまよりも仕事が増えて、いまよりも叩かれるようにはなりたくないなと思っています(笑)。

 

ただ仕事をこなすだけではなく、自分にしか持てない視点を持つ

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ワークライフバランスを見直し、持続可能な働き方について考える中で、改めて問い直されるのが“優秀な社会人とは?”という問題。
早さと正確さが同時に求められるジャーナリズムの世界で、秋山記者が思う“優秀な記者”には、ふたつの方向性があると言います。

 
秋山:もちろん、いわゆる“特ダネ”をより早く正確にとったり、自分が書かなければ世の中に出ないような情報を報道できる記者は優秀です。でもそれだけではなく、自分にしか持てない視点を持つというのも大事ですよね。それは、朝から晩までただ仕事をしているだけでは絶対にできないことです。

 
私が20年も記者を続けられているのは、ときどき無理することはあっても“無理しすぎない”と決めて働いているからです。普通に帰って普通に買い物して、という当たり前の生活をしながら政治報道をすることを、自分だけの視点を持つという意味でも心がけています。

 

現実味のない「働き方改革」に踊らされるのではなく、自分に合った働き方を

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国連の開発目標「SDGs」が2030年に向けて掲げている目標の中には、「働きがいも、経済成長も」というアジェンダも含まれています。

 
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SDGsのこの目標もふまえ、「2030年の働き方はどうなっているか」という未来予測を常見さんと秋山記者が行いました。

 
秋山:新聞社は12年後にもあるのか、と考えることはありますね(笑)。少なくとも、いまのような働き方では新入社員がいなくなってしまうと思います。

 
常見:新聞社の人事の方にお会いすると、皆さん共通して採用に苦労されている印象は受けますよね。新聞に就活で初めて触れる、という就活生も少なくありませんし、過酷なのに“マスゴミ”なんて呼ばれたりして、本来の役割を果たせていないメディアだと感じている学生もいると思います。12年後は、きっとメディアの役割もいまとは変わってくるはずですよね。

 
秋山:そうですね。ニュースメディアは速報に重きを置くところ、調査報道に重きを置くところ……などと役割がより細分化していくと思います。

 
常見:いまの採用市場は採用氷河期を迎えていると僕はよく表現するんですが、働かせ方を抜本的に変えなければ、働きたいと思う人は集まらないですよね。
たとえば、起きるのが早い高齢者の方に朝4時から9時という時間帯で働いてもらうとか、どうしても人気が集まりにくい介護職の賃金をその地域の相場より1.2倍上げるだとか、そういった工夫で人を集めている企業はいまもう、実際に出てきています。

 
「働き方改革」と銘打っている政策の中には、見栄えはいいし憧れはしても実現性の低いものも多いですよね。そうではなく、普通の人が普通にできることを見極め、少しずつ自分に合った働き方にシフトしてゆくことが重要ではないかと思います。

 

「そもそも、SDGsって偽善的じゃないですか?」

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常見さんと秋山記者のトークのあとには、会場からの質疑応答の時間が設けられました。

 
会場から投げかけられた「“働き方改革”のような社会的な取り組みはすぐに持てはやされるが、本来は人はそこまで変化を求めてないのに、変化しようとしていることに美徳を見出しているだけではないか。人は本当に変わりたいと思っているのか」という鋭い問いに、常見さんが「どんどん新しいコンセプトを打ち出して社会変革を促すのは、実は80年代の消費文化と本質的には同じなのではないかと思うこともある。“変わらない”ものを見続けることも大切で、そこにこそ本質があるのではないか」と答える一幕もあるなど、参加者を巻き込んだ議論は大いに盛り上がりました。

 
「そもそも、SDGsってちょっと偽善的じゃないですか」。イベント終盤にはそんな直球の質問も飛び出し、登壇者と参加者が一緒に考え込むシーンも。

 
「そういう視点はすごく大切だと思う。たとえば、SDGsを踏まえて環境に優しい、オーガニックなものとか素材にこだわったものを生活に取り入れようとすると、必然的にお金がかかるわけですよね。結局、お金のない人はファストフードやファストファッションに頼らざるをえなくて、一部の富裕層のみがそういった“いいもの”を享受できるという風になってしまっている。

 
これは結局、資本主義のプロレスに巻き込まれているだけではないかという批判はあると思います。いま言ってくださったような直球の疑問とか批判を受け止め、問い続けることこそ、SDGsの本質に迫ってゆくヒントなのではないか、と僕は思いますね」。

 
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(参加者に提供された、サスティナブルシーフードを扱うレストラン「BLUE」によるケータリング)

 
また、イベント後の懇親会では、サスティナブルシーフード(持続可能な漁業でとれた魚介類)を扱う東京都世田谷区のレストラン「BLUE」によるケータリングが参加者に振る舞われました。
「BLUE」オーナー兼シェフの松井大輔さんが「環境に優しく、しかもおいしいものがあるということを知って帰っていただけたら」と語ったとおり、参加者は皆「おいしい!」と口々に声を上げていました。

 
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イベント終了後、参加者のひとりに感想を聞いてみると、こんな答えが返ってきました。

 
「自分の会社も“働き方改革”という言葉を大きく掲げる一方で、社員は残業しないために朝早く出社するだとか、仕事を家に持ち帰るといったことが常態化していて、違和感を覚えていました。大きなムーブメントだからそれに乗るというわけではなく、“普通の人ができる普通の働き方”を改めて考え直すという意味で、非常にいい機会になりました」

 
言葉だけがひとり歩きしているような印象も受ける“働き方改革”。会場では、秋山記者の「自分の身は自分で守らなければいけない」という言葉が印象に残ったと語る参加者が多くいました。自分の働き方を自分で変えることが、ひいては会社全体、社会全体の働き方の変革にも繋がる――。今回の未来メディアカフェは、そんなことを考えさせられるイベントとなりました。
 
 
「SDGs」について、詳しくはこちら:SDGs(持続可能な開発目標)とは何か?17の目標をわかりやすく解説|日本の取り組み事例あり
 
 

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