社会課題を語り合う

段ボールはダイヤモンドの原石だ! 世界を旅する段ボールアーティストに学ぶ「アップサイクル」【未来メディアカフェVol.20】

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皆さんは、「アップサイクル」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。

 
アップサイクルとは、ある素材を、もとの製品よりも価値の高いものに生まれ変わらせること。その考え方を、一見「ゴミ」とも思われがちな段ボールという素材を使って体現している、島津冬樹さんというアーティストがいます。

 
島津さんは「段ボールアーティスト」として、世界中に捨てられた段ボールを集め、そこから財布をつくるという活動を2009年から続けてきました。

 
その島津さんをゲストに招き、2018年11月21日に朝日新聞社メディアラボ 渋谷分室で開催された未来メディアカフェ vol.20では、『「旅するダンボール」でSDGsをもっと知る』をテーマに、参加者が実際に段ボールを使って名刺入れを手づくりするワークショップを実施しました。

 
島津さんがなぜ段ボールという素材の魅力にとりつかれているのか。そして、彼の活動はなぜ世界中の人たちから支持を受けているのか──。島津さんの活動には、アップサイクル、そして、SDGsについて考える上でのヒントがたくさん詰まっていました。カフェ当日のレポートをお届けします。

段ボールから、名刺入れをつくってみよう!

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(今回の未来メディアカフェのゲスト兼ワークショップ講師を勤めた段ボールアーティストの島津冬樹さん)

 
プログラムの最初は、島津さんの指導のもと、参加者が段ボールを素材にした名刺入れづくりを体験することのできるワークショップ。子どもから大人まで15名が参加しました。

 
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名刺入れづくりはまず、好きな段ボールを選ぶところから始まります。島津さんが用意したものや、参加者が持参したものから好きな柄の段ボールをひとつ選択し、名刺の型よりも少し大きめに切り取っていきます。

 
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そして、段ボールに水を吹きかけて柔らかくしたあと、片面を剥がして薄くします。型通りに切り、折って形を組み立て、プレッシャーでボタンをつけると完成です。

 
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作業中、会場はほぼ無言。参加者の皆さんが熱心に段ボールを切り貼りする様子はまるで、図工の授業のようです。それぞれ、「この角度でいいかな」「もっと柔らかいほうがいいですか?」と島津さんにアドバイスを求めながらも、真剣に段ボールと向き合っていました。

 
名刺入れの完成までは、ざっと1時間。参加者は、ひとつの工程ごとに柄の位置を何度も確認し、段ボールの感触を慎重に確かめながらつくりました。

「これって本当にゴミ?」と、疑問を持つきっかけに

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(できあがった参加者の名刺入れを、興味津々に眺める島津さん)

 
ワークショップ終了後、ビールメーカーの段ボールで名刺入れをつくった参加者に感想を聞くと、「ほかの参加者の方がこれを見て『ビール好きなんですか?』と声をかけてくれました。名刺入れがコミュニケーションツールになって、人と人との繋がりが生まれるのがすごく素敵だなと思いました」とのこと。段ボールが、使うことで出会いが生まれる素敵な雑貨に変身しました。

 
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(ワークショップ参加者の絹川さんと鵜飼花さん)

 
また、演劇を制作しているという参加者の絹川友梨さんは、「普段は工作のようなことはあまりしないのですが、新しいインスピレーションが欲しくて今回のワークショップに参加しました。すでにあるものから、まったく別のアイデンティティーが生まれるところにおもしろさがありました」と語ってくれました。

 
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(ワークショップの感想を模造紙に書き込む参加者。「“ごみ”は資源と紙一重だと感じた」「段ボールがダイヤモンドの原石なんだと教えてもらった」といったさまざまな感想が飛び出した)

 
島津さんはワークショップについて、「僕がつくった財布を『いい雑貨だな』と見てもらえるのも嬉しいけれど、それ以上に、皆さんが自分でつくることを通じて新しく“段ボールの価値”を発見してもらえていたら嬉しいです」と語ります。

 
「また、疑問が見えてくることもワークショップのねらいのひとつです。段ボールに限らずビニール袋でもなんでもよいのですが、『これって本当にゴミなのかな』『素敵な使い方ができるんじゃないかな』という、新たな疑問を持つきっかけになればいいですね」(島津さん)

島津さん主演映画『旅するダンボール』ができるまで

 
ワークショップが終わり、トークセッションの最初に映像が流されました。これは、島津さんを追ったドキュメンタリー映画『旅するダンボール』の予告編。2018年12月7日から、全国で順次公開されています。

 
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(トークセッションに登壇した皆さん。左から、亀松太郎さん、島津さん、岡島龍介さん、汐巻裕子さん)

 
トークセッションには、この映画に関わったメンバーが集まりました。島津さんのほかに、監督の岡島龍介さん、プロデューサーの汐巻裕子さん、Webメディア『DANRO』編集長の亀松太郎さんが登壇しました。

 
予告編のスクリーンに映るのは、生活の中にあるいくつもの段ボール。トラックで運ばれる段ボール、頭に乗せて運ばれる段ボールなど、実にさまざまな場所で、さまざまな使われ方をしています。島津さんはその様子を、「これは僕が世界中で出会った、生きている段ボールです」と紹介します。

 
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島津さんはこれまで9年間をかけて約30ヶ国をまわり、世界各国の段ボールを集めてきたと言います。

 
「最終的に拾った場所は日本でも、段ボールはコロンビア、フランス、ガーナなど、世界中を旅してきているんです。本当にお気に入りの段ボールは、好きすぎて財布にできないこともある。まるで段ボールコレクターですよ」(島津さん)

 
島津さんが段ボールを集め始めたのは、多摩美術大学2年生のとき。空間デザインの課題のために素材として段ボールを集めていたのですが、当時お金がなかった島津さんはボロボロだった財布を買い替えるお金が貯まるまで、その段ボールで試しに財布を手づくりしてみたそう。

 
しかし思いのほか段ボールが丈夫で、気づいたら1年も使っていた、と島津さんは言います。それをきっかけに、「段ボールは丈夫だしオシャレだし、有効活用できるかもしれない」と考え、「不要なものから大切なものへ」をコンセプトに、路上や店先で放置されている段ボールから財布をつくる『Carton(カルトン)』と名づけた活動を2009年からスタートしました。

 
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島津さんが映画に出ることになったのは、実は、島津さん自身の売り込みだったと汐巻さんが振り返ります。

 
「もともとは電通のアートディレクターをしていた島津さんが、ある日突然、『電通を辞めて段ボールを拾う』と言い出したんです。さらに私に『映画をつくりましょう!』と言う。最初は本当に、意味がわからないと思いました(笑)」(汐巻さん)

 
突然の映画化の打診について、島津さんは「段ボールの物語は映画じゃないと伝わらないと思った」と笑います。島津さんはその情熱で少しずつ周りを巻き込んでいき、撮影は岡島監督が担当することに。こうして、本格的に『旅するダンボール』の映画づくりが始まったのでした。

映画制作を通して「これはアップサイクルだ」と気づいた

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岡島監督はカメラを手に、島津さんが世界中で段ボールを集める様子、各国でワークショップを開催する様子、そして、段ボールでつくった製品をその段ボールのデザイナーに届けに行く様子などを撮影しました。

 
しかし岡島監督は最初、島津さんがなぜ段ボールを集めているのか、さっぱりわからなかったと言います。

 
「とにかく、疑問だらけですよね。『なんで段ボールを拾ってるの?』『なんで海外まで行くの?』……と。疑問を解消するために、半年間は質問攻めでした。どうして? と聞き倒し、ようやく理解を深められた頃に、撮影に行き詰まってしまったんです。島津さんが段ボールを大好きなことは伝わってくるのですが、それがほかの人たちにとってどういう意味を持つのかを、みんなで話し合いました。撮影がストップしたとき、汐巻さんから出てきたのが『アップサイクル』という言葉でした」(岡島監督)

 
その言葉について考えを整理する中で、不要なものに新たな価値を見出す──そんな島津さんの活動は、まさに『アップサイクル』のど真ん中なんじゃないか。岡島監督がそう気づいたのは、島津さんが中国やアメリカでおこなったワークショップがきっかけだったそう。

 
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(今回のワークショップのために集められたさまざまな段ボール)

 
「中国やアメリカは人口が多く、比例してゴミも多い。廃棄物の処理や環境汚染が大きな問題となっているなか、島津さんの活動は本当に意味のあるものだと感じました。『アップサイクル』という概念は島津さんがもともと持っていたわけではなく、彼は無意識にそれを実践していたんです」(汐巻さん)

「今ある視点を変える」SDGsと段ボールアート

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(トークセッションに耳を傾ける参加者の皆さん)

 
島津さんの活動をSDGsに照らし合わせると、「住み続けられるまちづくりを」(目標11)、「つくる責任 つかう責任」(目標12)などに当てはまることがわかります。

 
「僕は段ボールの魅力に吸い込まれています。僕にとっては、海外のゴミ箱に入っている汚れたピザの段ボールにも大きな価値がある。なにかを見つけたとき、『もしかしたら使い道があるかもしれないから、大切にとっておこう』と思うことが、アップサイクルにとって大事なことなのかもしれません」(島津さん)

 
島津さんは、海外に行くと必ずホームセンターに行き、ほうきやクリップといった日本でも買えるものをあえて購入すると言います。

 
「海外でものを買うと、日本で使うときに、その国のことを思い出しますよね。思い出が宿ると、どんなものでも大切なものになるんです」と島津さん。

 
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映画では、ある段ボールのデザイナーの家に、島津さんが段ボールでつくった財布を届ける様子が紹介されます。その財布を受け取ったデザイナーの妻が、20年前に夫がイラストを描いていたことを思い出し、涙する、という印象的なシーンです。

 
同じものを見ても、人によって見出す価値はさまざまです。島津さんの活動は、視点の変化や発見を届ける活動でもあり、それは、世界を今とは違う視点で捉えて改善していこうとするSDGsにもつながります。

 
SDGsと聞くと「難しそう」と思う方もいるでしょう。しかし、島津さんのように、「好き!」から始まる逆のアプローチもあります。

 
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イベントが終わると、参加者の皆さんは自分でつくった名刺入れを大切そうに鞄にしまい、笑顔で会場を後にしていきました。

 
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<WRITER>河野桃子 <編集>サムライト <写真>鈴木智哉

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