社会課題を語り合う

“捨てたくない1着”を生み出すために。ファクトリエ代表が語る、ファッションブランドができること 未来メディアカフェ vol.17

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日本ではいま、年間20億着にも及ぶ衣服が新品のまま捨てられているというショッキングなデータがあります。それは、ファストファッションの流行に伴い需要以上の過剰な生産がなされたり、衣服をいつでも気軽に購入し気軽に捨ててしまう消費者が増えた結果。もちろん、低価格で安定した品質のものが手に入るファストファッションブランドのすべてが悪者ではありませんが、いま私たちの暮らしの中に、そういった大量消費のスタイルが定着していることは事実です。
 
そんなファッションの消費の仕方に警鐘を鳴らし、“愛着”を持てる衣服を日本から発信していこうと奮闘している、ファクトリエというブランドがあります。
 
第17回目となる未来メディアカフェでは、ファクトリエ代表・ライフスタイルアクセント株式会社代表取締役の山田敏夫さんをお招きし、「ファッションブランドができること」というテーマでお話をお聞きしました。2018年5月22日に朝日新聞社メディアラボ渋谷分室で行われたイベントの様子をレポートします。

 

私たちは洋服を選ぶときに、デザイン・価格・ロゴしか見ていない

まずイベント冒頭で、朝日新聞社マーケティング部・田中志織部長が、今回、ファクトリエを招いたきっかけやSDGsとの関連性について説明しました。
 
「今年の1月、なぜファクトリエを立ち上げたのか、というお話を山田代表に聞く勉強会があり、そこで初めて『日本では20億着以上の服が新品のまま捨てられている』という事実を知り、こういった状況に対してなんらかのアクションを起こしたいと思いました。
 
いま、私たちは国連が提唱する世界目標、SDGsを啓蒙することに力を入れています。ファクトリエは、その中にもある『つくる責任 つかう責任』というアジェンダを体現されているブランドです。ぜひ、山田さんの考え方をみなさんにもご紹介したいと思い、この場を設けました」
 
田中部長の挨拶を受けて、登壇したファクトリエ代表の山田さんは、こう切り出しました。
 
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ファクトリエ代表・山田敏夫さん
 
「いまお話があったように、ファッション業界の僕たちも、SDGsというのは非常に重要なキーワードだと思っています。……ところで今日、みなさんの中で、日本製の服を着ている方ってどのくらいいらっしゃいますか?」
 
山田さんの問いかけを受け、会場の参加者の何名がまばらに手を挙げます。しかし、中には手を挙げずに自分の洋服のタグを確認したり、首を傾げる人もいるようです。
 
「もしかすると、自分がメイドインジャパンの服を着ていても気づいていない、という方もいらっしゃるかもしれません。つまりいま、消費者が洋服を選ぶときの基準は“どの国で作られているか”ではなく、デザインと価格、(ブランドの)ロゴなんです。だから、僕たちが日本製にこだわって洋服を作っているというのは、多くの消費者にとってはある意味どうでもいいことです。でも、だからこそそれをどうでもいいことにしないという活動をしています」

 

日本ブランドの洋服がどこで作られているか知らない自分がいた

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ファクトリエ ホームページには、水、油、汚れをすべて弾くコットンパンツといったユニークな商品や、ベーシックかつ質の高いアイテムが並ぶ。これらの製品はすべて、日本各地の工場で作られている)

 
山田さんは、20歳でファッションの道に飛び込んでから自分でブランドを立ち上げるまでの経緯を、こう語ります。
 
「僕の実家は熊本県の婦人服屋で、僕は、部活のない日は店番をして育ちました。小さなころから日本製の仕立てのよい服に囲まれていたというのは、いま思うととても幸福なことだったと思います。
 
20歳でフランスに留学し、サントノレ通りという華やかなブランドが立ち並ぶ大通りのGUCCIで、ストック整理の仕事に就きました。夜、ファッション業界の仲間と飲んでいると、“なんで日本には本物のブランドがないんだ?”って聞かれるんです。僕が“いや、有名なブランド名をコムデギャルソンもあるし、ヨウジヤマモトもある”と答えると、“それは日本製か?”と。そう聞かれたときに、そのブランドの洋服がどこの国で作られているのか、知らない自分がいたんですね」
 
山田さんはそのとき、自分がブランドの名前しか見ていなかったことに初めて気づかされたと言います。
 
「その後、パリでHERMESの工房見学にこっそり行かせてもらったんですが、ひとりの職人がひとつのバッグを20時間かけて作っているという光景に感銘を受けました。日本のブランドは表層的な、マーケティングやブランディングといったことばかり考えがちです。だから僕はこのとき、日本のものづくりから世界に羽ばたくブランドを作りたい、と思いました」

 

この20年間で日本は800万人の職人を失った

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(29歳でファクトリエを立ち上げた山田さん。ブランド立ち上げから2年半のあいだは社員もひとりだけで、服もまったく売れない状態が続いたそう)

 
「ファッション業界では異端児と呼ばれるようなことをしたので、同業の人たちからは顰蹙を買うこともありました。ファクトリエは店舗を持たないオンラインショップ方式のブランドですが、新しいことを2つしたんです。まず、セールをしない、広告をほぼ打たないというスタイルで商品の値段を安くすること。そしてもうひとつは、実際に洋服を作っている工場の人たちの顔や名前を出すことです」
 
“生産者の顔を出す”という野菜や果物の世界では当たり前のことが、ファッション業界ではタブーだったと山田さんは語ります。それは、ブランドのイメージや工場の守秘義務契約に関わるため。同業者から事業をやめろと言われたこともあるという山田さんは、それでも「お客さんの支持さえあれば生きていける」と、ファクトリエ流のやり方を決して曲げません。
 
「ファッション業界というのは、泣いている人が多い世界です。たとえば、伝統工芸品として世界から高い評価を受ける大島紬を作っている職人ですら、月給が大体わずか5万円なんです。重要無形文化財と呼ばれるものを作っているほとんどの人たちは、その技術1本では生活できていません。
 
ファッション業界における日本製の製品の比率って、1990年にはおよそ50%だったんですよ。それがいま、なんと3%を切ってるんです。それに、職人と呼ばれる人たち(※アパレル以外も含む)は、この20年間で約800万人が廃業してしまったというデータもあります。800万人というと、大阪府の人口と同じくらい。でも、それだけの人たちが泣いているということに、誰も気づかなかったんです。だから僕らは、ブランド、洋服を作る工場、お客さん。みんなが幸せになるようなサイクルを作りたいと思っています」

 

日本各地の工場が誇りを持ってものづくりに取り組むために

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(ファクトリエ ホームページより:ホームページ上には「工場紹介」のページがあり、ファクトリエの製品が全国のどの工場で生産されているかが丁寧に紹介されている)

 
“日本のよさが活きるものは地方にある”。全国各地を巡ってそう確信したと話す山田さんは、1年に100以上の工場を訪れ、その中からファクトリエの提携先を探していると言います。
 
「ファクトリエは、非常に当たり前だけれど、これまでどこもしていなかったことをしました。それは、工場の名前をすべての製品に明記したことと、製品を工場の言い値で買い取るようにしたことです。
 
工場の名前が前面に出たことによって、そこで働いている人たちが誇りを持ってものづくりできるようになりました。そして、誇りを持って作っていただいているからこそ、“いちばんいい素材を使っていいですよ”と伝えているんです。だから、ファクトリエの製品には「希望小売価格」ではなく、「希望工場価格」がついています」
 
誇りとこだわりを持ち、堂々とブランド名を名乗って製品を作れる。――ファクトリエのものづくりをする工場には、全国から就労希望者が集まると言います。
 
「地方の過疎化に伴って就労人口が減るというのは、言ってしまえば当然のことです。けれど、そこがどれほど地方だろうと、魅力的な仕事さえあれば人は集まると思っています。僕たちは日本のものづくりを世界へ発信することを目標にしている、とお話ししましたが、いま、就労人口は40万人まで落ち込んでいます。この人口を100万人まで増やしたいと考えています」
 
ファクトリエはいま、世界各国の熱狂的なファンに支えられていると言います。山田さんは「日本でフェアトレードが浸透しないのは、それがほぼボランティアによってしか行われていないからです。フォロワーがたくさん生まれるブランドになるには、ビジネスとしてもっと成長しなければいけない」と力強い言葉で語りました。
 
「今日はファクトリエがこれまでしてきたことをお話ししましたが、僕がいちばん言いたいことは、ファクトリエの製品を買ってほしいということではありません。みなさんに知っていただきたいのは、日本で1年に20億着の洋服が捨てられている一方で、ジーンズをたった1本作るのに、人ひとりが飲む約10年分の水が必要だということです。ものを作るのに必要な資源の量を、廃棄量がはるかに上回っているんです。
 
いつかこのツケを払わされるのは僕たちではなく、間違いなく僕らの子どもたちの世代です。だからみなさん、いま着ている服をどうか、1日でも大切に着てください」

 

大切なのは「半径1メートルにいる人を熱狂させる」こと

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山田さんからのお話の後、会場の参加者との交流会が開かれました。山田さんは小さな子どもを持つ参加者からの「(よいもの、一流のものを見分けるための)感性の磨き方は?」という質問に、
 
「僕は子どもの頃、スポーツも勉強もまったくできない劣等生でした。もし僕にいま小さな子どもがいたら、海外に行かせたり、本を読ませると思います。海外に行くといま自分がいる場所のことを客観的に見つめ直せて視点が上がりますし、本を読むことは深く考える力を養うので。僕らのようなファッションブランドは特にそうですが、これからはもう“感性を磨く”ことでしか生き残れない時代だと思います。一流の美術、芸術に触れることもとても大事ですよね」
 
と答え、企業や個人にとってこれから重要になってくるのはブランディングやマーケティングだけではない、と強調しました。
 
山田さんは締めくくりとして、「僕はとにかく、半径1メートルにいる人を熱狂させるということに命をかけています。遠くの人たちではなく今日ここにいる人たちが、家に帰ったあとイベントのことを家族に話してくれるか? と常に考えているんです」、そう語ってくれました。
 
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(今回のイベントでは、「グラレコ」=グラフィック・レコーディング=と呼ばれる、トークセッションの内容をイラストや文字で描き出すアトラクションも披露されました。イベントの最後になると、色鮮やかなグラレコが会場に大きく展開されました)
 
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(グラレコを実演してくれたのは、学習院大学を中心とした学生イノベーションチームdotのデザイン部「チームイーゼル」のみなさん)
 
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社会課題の解決への第1歩は、“半径1メートルにいる人”たちが連携し、協力することによってしか踏み出せません。
 
今回ご紹介した山田さんがたったひとりで始めたファクトリエというブランドが、いまや世界を熱狂させているように、SDGsという一見途方もなく思える目標も、小さな努力の積み重ねによって達成できる日が来るはず。
 
その日のため、いまみなさんが持っている“1着”の洋服に愛着を持つことからまず始めてみませんか。
 
<編集・WRITER>サムライト

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