アップルリュックを手にする唐沢さん。このリンゴジュースの搾りかすが、リュックの原料として使われている
日々の暮らしに欠かせない買い物。手にする商品の背景を知り、毎日使う「お金」の行き先を環境配慮型の商品に変えていくことで、社会課題の解決に少しずつ近づくことができるかもしれません。
「買えるSDGsプロジェクト」では、私たちが思わず「いいね」と唸った商品の背景や開発者のストーリーを紹介します。(通販事業部バイヤー・白木琢歩)
1,軽くて丈夫なアップルレザーのリュック
スタートアップ企業が集う東京都内の共同オフィス。その一角に拠点を置くのが、動物を利用しない植物由来のレザーファッションアイテムを企画開発するラヴィストトーキョーだ。
代表の唐沢海斗さんから、同社製品で最も人気が高いという「アップルリュックサック」を手渡された。日本最大級エシカルメディア「エシカルな暮らし」の店舗などでも、販売開始以来人気ナンバーワンの商品だ。
丸みを帯びたかわいらしい外観で、13㌅のノートパソコンが入る。見かけは革製品のようだが、わずか750㌘と非常に軽いのも大きな特徴だ。外側に、青森県産のリンゴジュースの搾りかすを樹脂と混合したアップルレザー「アプレナ」という新開発の合成皮革を使っている。
撥水性が高く、濡れてもさっと拭くだけで乾き、動物性のレザーに比べてカビが生えにくい。アプレナにはリンゴが25%程度含まれ、そこに加えるポリカーボネート系の樹脂は家具や乗用車にも使用される10年の耐久性があるものを使用している。「安い合皮だと使っているうちにポロポロとはがれてくることがある。捨てずに長く使ってもらい環境負荷を減らしたいので、雑貨ではあまり使わない高品質な樹脂を使っている」と話す。
なぜ、リュックサックの材料に動物由来の皮革ではなく、あえてリンゴを使っているのか。そのヒントは会社名にある。「LOVST TOKYO」(ラヴィストトーキョー)は、「愛(LOve)を持ってヴィーガン/多様性(Vegan/Variety)な考え方を、一番(1ST)に尊重できる文化をTOKYO(東京)から発信していく」という意味がある。
ヴィーガンは動物を搾取しないことを志し、食事においては動物性の製品を摂取しないという生き方だ。唐沢さんはアメリカでこの価値観に触れ、影響を受けた。畜産業が環境に与える負荷の多さを知り、畜産業に由来する革製品以外の選択肢を世の中に増やしたいと考えた。それがリンゴジュースの搾りかすなど、植物を使ったファッションアイテム開発につながっている。※同社はブドウやトウモロコシ由来のレザー商品も扱っている。

2,アメリカで出会った「ヴィーガン」というライフスタイル
唐沢さんは栃木県出身。アメリカの大学に留学し、アントレプレナーシップ(起業家精神)を学んだ。在学中にヴィーガンという考え方に初めて出会ったのだが、「最初は生活する上で不都合なことが多いな、と感じた」と振り返る。
卒業後にIT企業が集まるシリコンバレーの中心都市・サンノゼで働き始めた。そこでは人々が自然にヴィーガン的なライフスタイルを受け入れていた。「社会に良いことをするのがかっこいい」。そんな環境で暮らすうちに、当初抱いたヴィーガンに対する違和感も変わっていった。
ベジタリアンやヴィーガンには、動物愛護や環境保護、健康志向などさまざまな背景がある。観光庁がまとめた資料では、欧米諸国を中心に増加傾向で、世界中で約6・3億人(2018年)いるとされる。唐沢さん自身は、畜産業に由来する温室効果ガスや、森林伐採などに特に課題を感じていた。
ただ、日本ではまだまだ知られていない。「畜産業に依存しないライフスタイルの選択を、ファッションを通して届けていきたい」と帰国してヴィーガンファッションの輸入ビジネスを始めた。

3.リンゴが結んだ青森との縁
その後、「自分で作ったものを責任を持ってお客さんに売りたい」と2020年に現在の会社を設立した。2021年、イタリア製のアップルレザーを使ったリュック販売をスタート。クラウドファンディングに出したところ反響があり、その後リュック以外のファッションアイテムも順次増やしている。
ただ素材を遠く離れたイタリアから輸入しているため、調達プロセスでの二酸化炭素排出量の抑制が難しいのが課題だった。ちょうどその頃、日本一のリンゴ生産量をほこる青森県の職員から相談を持ちかけられた。「青森産リンゴジュースの搾りかすを使った製品を作れないか」。
青森県のJAアオレン(青森県農村工業農業協同組合連合会)では、リンゴジュースの搾りかす(皮や芯)など年間約6000トンの「残渣(ざんさ)」が排出されており、乾燥させて堆肥や飼料として利用されていた。新しい活用法を模索していた県が、アップルリュックを売り出していた唐沢さんに着目したのだ。
唐沢さんは付き合いのあった素材メーカー「共和ライフテクノ」に相談し、同社が青森リンゴを使った新しい素材「アプレナ」を開発。アップルリュックは2023年春、素材をアプレナに切り替えアップデートした。
唐沢さんの会社では、商品の原材料調達から加工、廃棄までの全過程で出るCO2排出量を示す「カーボンフットプリント」を試算し明示するようにしている。「実際にアップルリュックは、動物性のレザーに比べた時に58%も環境負荷を小さくできることができた」と話す。
ブランドでは動物性素材を一切用いていないが、「ヴィーガンを増やしたいという思いはとりわけなく、あくまで自分らしく輝ける世界観(ライフスタイルの選択)を届けていきたい」と口にする。唐沢さん自身、ヴィーガンの食生活を取り入れたこともあるが、厳しすぎて挫折した。今は、肉は口にしないが魚介類は食べる「ペスカタリアン」なのだという。
デザインや使い勝手が良く、なおかつ動物や環境に配慮した商品を世の中に届ける。そのことで「ユーザーさんが前向きな気持ちで地球の未来を考えていける、そんなきっかけになるとうれしい」。将来はレザーだけでなく、さまざまなジャンルの商品開発も手がけていくのが目標だ。
【買えるSDGsプロジェクト】
株式会社朝日新聞社、株式会社大広、株式会社Gabによる共同プロジェクト。日本最大級のエシカルメディア「エシカルな暮らし」を運営するGab社が扱う社会課題解決型の商品が、「朝日新聞モール」で購入できます。
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