里山は生物多様性の宝庫だ! 学びで未来を耕す麻布大学のSDGs

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神奈川県相模原市にある麻布大学では、過疎集落の休耕地を復活させた水田を拠点に、生物多様性の把握やまちづくりをおこなう“あざおね社中”などを通して、SDGsに先進的に取り組んでいます。

 
その取り組みの中心にいるのは、さまざまな環境問題にまつわる研究・教育をおこなう生命・環境科学部 環境科学科。「水と衛生やまちづくり、パートナーシップは、SDGsが採択された2015年以前から取り組みはじめ、のちのSDGsのアジェンダに当てはまるさまざまな活動に結びついてきました」と同学科の村山 史世講師(冒頭写真右端)は言います。

 
活動の最大のポイントは、学生が中心となり、自分たちで主体的に学びを広げていること。村山さんと3名の学生に、SDGsにまつわるさまざまな活動について、話を聞きました。

麻布大学がSDGsに取り組み始めたきっかけ

環境科学科がSDGsを意識し始めたのは、SDGsが2015年に採択された直後だったと村山さんは言います。

 
「そもそも私は法律が専門なのですが、環境政策に関することは広く学生とともに取り組んできました。2003年から相模川で、市内の親子を対象にESD(持続可能な開発のための教育)を実践する自然環境セミナーを実施したり、2011年からは『あざおね社中』をはじめたりと、さまざまな活動をおこなっていました。

 
そんな中、2015年にSDGsが採択され、ゴールやターゲットを読んでみると、特にゴール6の『水と衛生』などは私たちの学科の学びにぴったりだ、と思いました。そこからは活動をSDGsにも紐づけつつ、まずは学科内でSDGsを広めようと注力するようになりました」

 
4年生の相場史寛さん(冒頭写真左から2人目)は、麻布大学に入学したばかりの2016年4月、自治体の総合計画とSDGsを関連づけて考えるという村山さんの授業に関心を持ち、SDGsについての理解を深めていったと言います。

 
「国連で採択されたというニュースを聞いたときからSDGsに関心はあったのですが、『SDGsはこれからの時代のトレンドにもなる』と村山先生が授業でおっしゃっていたのをきっかけに、より興味を持つようになりました。当時僕は1年生で、村山先生の授業は4年生向けのものだったので受けても単位が取得できないとわかっていたのですが、あの授業を受けてよかったといまでも思っています」(相場さん)

 
SDGsの重要性を早くからアピールしていた環境科学科を中心に、SDGsへの取り組みは学内でしだいに広がっていきました。いまでは全学必修科目の「地球共生論」や環境科学科の必修科目「地球環境科学」といった授業の中でも、SDGsが取り上げられています。

過疎集落の耕作放棄地を舞台にした「あざおね社中」

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(あざおね社中のメンバー)

 
麻布大学のSDGsへの取り組みの中心となっているのが、相模原市の山懐にある小さな集落、青根(あおね)を舞台にした「あざおね社中」の学生たちです。「あざおね社中」では、麻布大学の学生が市民や地元住民と一体になって活動しています。

 
「青根は、相模原市緑区の南西部に位置する少子高齢・過疎の集落です。2010年、ちょっとしたきっかけでこの青根に足を運ぶことがあり、『ここで環境教育をやってみたい』と考えたんです。地元のコーディネーターの協力もあり、放置されていた田んぼを復活させることになりました。そこで、継続的に青根に関わるために学生や市民に呼びかけて『あざおね社中』を結成しました。麻布大学の『あざ』と青根の『おね』に、仲間たちを意味する『社中』で『あざおね社中』です」(村山さん)

 
当初、あざおね社中の活動の大きな目的は、田んぼで“生物多様性”の調査をすることだったといいます。

 
「あざおね社中の活動を始めるにあたり、相模原市立博物館の学芸員の方に、『学生や市民が復活させた田んぼで生物多様性の把握をしたい』と相談したんです。すると学芸員の方が、『青根に棚田があるのは以前から気になっていたけれど、なかなか調査ができていなかったのでぜひ応援したい。水田を復活させるということは、カエルや水生昆虫が生息する生態系の多様性を増やす、非常に意義のある活動です』と言ってくださって。活動する意義について、自信を与えていただきました」(村山さん)

生物多様性は、地域の生業や生活と深く結びついている

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(青根のフィールドワークの中で見つけたカヤネズミの巣<左>と、民家から見つかった糸車(管巻き)<右>)

 
実際に活動を進めていくと、青根では実にさまざまな生物が見つかりました。

 
「僕はもともと生き物が好きで麻布大学に入ったのですが、村山先生の話を聞いて青根での生物多様性の調査に興味を持ち、授業の合間に話を聞きに行ったのが“あざおね社中”の活動に加わったきっかけです。青根は行くたびに田んぼの中でイモリやアカガエルが見つかるだけでなく、その周辺のカヤ原ではカヤネズミが、山の中にはサンショウウオが見つかるなど、とにかく生物多様性の宝庫なんです」

 
そう語るのは、現在“あざおね社中”内の学生サークル、“あおねの森”の部長を務めている3年生の西岡良晃さん(冒頭写真左端)。当初は「さまざまな生物を見つけたい」というのがあざおね社中の活動での大きなモチベーションでしたが、活動を続けるうちに、「どうして青根が過疎集落になったのか」という問題意識も芽生えていったと言います。

 
「大きなきっかけになったのは、昨年の2月から4月にかけての麻布大学いのちの博物館での企画展示、『あざおねって何?』です。この展示の準備にあたり、あらためて青根という集落にどのような仕事や暮らしがあったかを調べていきました。

 
その一環として青根に住むお年寄りの家の蔵を見せていただくと、機織りの道具などがたくさん見つかったんです。見つかった道具や青根の方のお話から、かつて青根では養蚕と炭焼き(木炭の生産)が盛んだったということがわかり、多様な土地利用があったからこそ青根には多様な生物が生きていられる生態系があったのだ、ということに気づきました」(西岡さん)

 
西岡さんたちは、生物が生息する環境と産業(経済と社会)には密接な関係があるということを、その展示の準備の際に改めて実感したといいます。

 
「もちろん、養蚕や炭焼きといった産業が盛んだった時代に戻ることはできません。しかし、かつて青根にそういった生業と生活、文化があり、だからこそ自然が豊かだったということを知った上で、今後の青根を考えることができるようになりました。ある現象はひとつの原因だけではなく複雑な事象が相互に絡み合った結果でできている、という見方は、まさにSDGsの17のゴールがそれぞれ密接に関連していることと同じですよね」(村山さん)

ユニークツール活用「SDGsレンズ」「SDGsおでん」

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(環境科学科の学生が手作りした「SDGsレンズ」)

 
また、「あざおね社中」などの活動だけでなく、環境科学科では、ユニークな“ツール”の開発・活用を通してSDGsを身近なものにしようとしています。

 
「ルーペをSDGsアイコンが囲んでいるこのレンズが、『SDGsレンズ』というツールです。このレンズには特別な機能があるわけではありません。ある現象を見るときにSDGsのゴールを意識してもらうためのツールです。

 
たとえば、川にごみが散乱していたとして、普段なら『ごみがあるな』『汚いな』と思うだけですよね。でも、『SDGsレンズ』を通して見てみると、『ごみが、川の水質に影響するかもしれない』『川に生息する生き物に影響があるかもしれない』『ごみとなる製品のメーカーや消費者の責任は?』……などと、ひとつの課題をSDGsの複数のゴールに関連づけて考えることができます。

 
しかも、レンズを通して世界を覗き込むということは、逆に自分自身が見られている、ということでもあります。『SDGsレンズ』を通して、自分自身の行動が身近な社会や環境に関わってくるということも実感してもらえたらと思っています」(2年生の山林亮太さん/冒頭写真右から2人目)

 
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(SDGsを自分ごと化するためのワークシート「SDGsおでん」。お皿に載ったちくわ・大根・こんにゃくなどのおでん種に見立てた)

 
「また、SDGsを自分ごととして考えるためのワークシートも制作しました。たくさんの人にとって身近に感じてもらえるモチーフを考え、“おでん”の形にしたことから『SDGsおでん』と名づけました。

 
まずいちばん左のおでん種に『自分の関心のある課題や現状』を書き込んでもらい、次に真ん中のおでん種のSDGsのアイコンの中から、関心ある課題や現状に関連する複数のアイコンに○をつけてもらいます。そして、○をつけたアイコン同士で関連性があるものを線で結びます。そして下の皿に『課題解決のための手段やパートナー、戦略』を書き入れ、最後に『目指す将来のビジョン』を考えて書き入れるという形です。

 
『目指す将来のビジョン』は、一時的にとりあえず書いてみるだけで構いません。というのは、ビジョンは常に問い直すものであり、他者との対話を通じて変化するものからです。ただ、あとから検証できるよう、その時々のビジョンを書き留めることには大きな意味があると考えています。

 
このツールによって、自らの課題の相互関連性が可視化されるともに、SDGsを“自分ごと化”することができるようになります」(相場さん)

 
この「SDGsおでん」は、学内外でのワークショップや、他大学でのSDGsを学ぶ授業などでも活用されているといいます。

環境科学科の学生が、相模原市緑区の区民会議員に

麻布大学のSDGsにまつわる活動は、さまざまな広がりを見せています。昨年には、環境科学科の学生が、相模原市緑区役所からの依頼で緑区区民会議(区の課題やまちづくりの方向性について協議をおこなう場として設置する、附属機関)の委員にもなりました。

 
この会議では、2020年度から施行される次期相模原市総合計画の一部になる緑区基本計画を策定します。麻布大学の学生によって、次期総合計画にSDGsの視点を入れるという提案もできるかもしれません。

 
SDGsが目指す2030年の未来に向け、どんな社会を作っていきたいかと尋ねると、山林さんはこう答えてくれました。

 
「僕はいま神奈川県の海老名市に住んでいるのですが、市を『ずっと住み続けたい』と思える地域にしていく活動に、自分自身も関わっていきたいと思っています。でも、ある地域や町を発展させていこうとすると、どうしても『自分の地域だけが発展できればいい』という考え方にもなりがちです。だからこそ、SDGsのゴールでもある“地域間の公平”や“パートナーシップ”も意識し続けたいと思っています」

 
麻布大学生命・環境科学部 環境科学科の学生たちは、それぞれの研究対象や興味のある分野に目を向けるだけでなく、その対象が身近な社会課題にどう関わり合っているか──という点にまで視野を広げているのが印象的でした。
彼らの活動や考え方の中には、SDGsを学校の授業で活かしたいと考えている教育機関の方にとっても、ヒントになる部分が多くあるのではないでしょうか。

 
 
<編集・WRITER>サムライト

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