東京都東大和市といえば、都民の水がめ「多摩湖」を思い浮かべる人が多いでしょう。その自治体が、ペットボトルやプラスチック容器を再び同じ用途で使う「水平リサイクル」で全国初の取り組みを相次いで打ち出しています。人口8万5千人ほどの自治体がなぜ、この分野で存在感を示しているのでしょうか。朝日新聞社はそうした取り組みの背景と意義を、地元の子供にも知ってもらいたいと考えています。3月14日には東大和市立第一中学校に社員が出向いてSDGsの「出張授業」を2時間展開。身近なSDGsを生徒に考えてもらうワークショップを開きました。
セブン店舗を活用 ペットボトルの回収システム
「ペットボトルは資源です。燃やして処理するのではなく、SDGsの考えに沿って資源としてリサイクルすべきです」。東大和市の中山仁・ごみ対策課長は、そんな「信念」を口にします。
施策として実行した例を挙げましょう。

全てペットボトルに再生 完全循環型の社会を
市内のセブン-イレブン全店には使用済みペットボトルの自動回収機が置かれ、回収したものを全てペットボトルに再生しています。日本財団とセブン―イレブンが回収機代を半額ずつ出し、市清掃事業協同組合が収集と運搬を手がけ、リサイクル業者に引き渡します。2019年に始まった日本初の連携事業で、完全循環型の社会につなげるねらいがあります。

ペットボトルは、プラスチックと同じ石油由来の樹脂(ポリエチレンテレフタレート)を原料としています。軽くて丈夫ですし、加工しやすいのが特徴です。爆発的に普及し、PETボトルリサイクル推進協議会によると、国内で20年度に販売された飲料などのペットボトルは233億本に達します。リサイクル率は88.5%で世界最高水準ですが、ペットボトルへの再生は15.7%に過ぎません。コストが膨らむことに加え、繊維やシートなどに再利用されることが多いためです。

東大和市はペットボトルを月に2度、回収しています。しかし、多くは作業衣やフリースに再利用され、最終的に可燃ごみになります。中山さんは「それでは資源として再利用する水平リサイクルにならない」と考え、「ボトルtoボトル」の事業を始めたのです。セブン-イレブンの店頭回収を始めた効果もあって、市の回収するペットボトルは19年度、前年比20㌧減の144㌧でした(20年度は新型コロナの影響で微増)。

市の回収費用はざっと年間1千万円です。「本来は小売業者や飲料メーカーが負担するべきお金でしょう。店頭回収も進んでいるのに、自治体がなぜ、多額のお金を投じる必要があるのでしょうか。そのお金を教育や福祉にまわせるのでは」と、松本幹男環境部長は疑問を投げかけます。ペットボトル回収は行政から民間へ・・・。そうした潮流が生まれ、近隣自治体もペットボトルの回収頻度を下げるところが出てきました。
使用済みプラも 「東大和方式」に狛江も参加
一方、昨年6月からは、公民館など市内10カ所でシャンプーボトルなどの使い捨てプラスチック容器の回収も始めました。再びシャンプーボトル容器などにすることをめざしたもので、こちらも「水平リサイクル」です。ユニリーバ・ジャパン、花王と協力。日本で初めての官民連携の回収事業となっています。実証実験の段階で、茨城県内の工場へ運んでボトル容器に再生しています。回収量が少ないこともあり、製品化はこれからです。同じ都内の狛江市も参加し、連携の輪が広がりつつあります。

消費者も受益者も負担 水平リサイクルの輪を
なぜ、東大和市は水平リサイクルに力を入れてきたのでしょうか。環境部長の松本さんは「サーキュラーエコノミーと呼ばれる循環型の経済社会をめざしています」。消費者も事業者も回収費を一定程度負担し、持続可能な社会をつくっていこう、という考えです。「資源には限りがあるので、自分たちが守っていく必要があります」。今後は、水平リサイクルの輪を多摩地域に広げることが課題だと言います。
慶応義塾大大学院特任助教の高木超さんは、東大和市の取り組みを「SDGsのいくつもの目標達成に貢献する施策だ。自治体と企業が連携して回収することでリサイクルの新たな解決策につながり、他の地域に広がる可能性もある」と評価しています。その上で、「消費者が使い捨てプラスチックの使用量を削減し、環境負荷を減らすことも必要だろう」と指摘します。
地域のSDGsを考えよう 「出張授業」で紹介
こうした取り組みは、朝日新聞社のCSR推進部員が講師となって出向く「SDGsの出張授業」でも紹介しています。地域のSDGsを生徒に考えてもらう契機にして欲しいからです。3月14日、東大和市の市立第一中学校で開かれたワークショップには、1年生の4学級(計約140人)が2時間ほどの授業に参加しました。ペットボトル自動回収機の話しが持ち出されると、身を乗り出して話に聴き入る生徒が目立ちました。講師は東大和市の狙いや水平リサイクルの意義を説明し、生徒の理解を促しました。

生徒には前もって新聞を配り、家で記事を読んでもらいました。題材となったのは、3月8日付の朝刊です。国連の定めた「国際女性デー」の日で、ジェンダーに関する記事が幾つも掲載されていました。

授業では、冒頭で講師がSDGsの考え方や意義、世界の現状を説明しました。その後、17の目標(ゴール)があしらわれた朝日新聞のオリジナル副教材「ペタッとSDGs新聞学習ふせん」を使い、関連ある記事に生徒がコメントを書いて貼り付けました。ジェンダーの記事だけでなく、ウクライナの原発・核施設を狙ったロシア軍の記事や、原油高騰の記事を選んだ生徒も目立ちました。各自がコメントした理由を発表し、意見を交換。授業を締めくくりました。授業に参加した高橋大夢さんは「新聞にはSDGsに関する世界の現状が書かれていることに気づきました」と感想を話していました。
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SDGs授業の申し込み方法は、朝日新聞のサイトで承っています。

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