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人はロボットを愛せるか? 参加者が、石黒教授・新聞記者と 「人型ロボットと未来社会」について、ともに考える【未来メディアカフェVol.11】後編リポート

更新日 2020.10.22
目標9:産業と技術革新の基盤をつくろう
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現役新聞記者とゲストが一般参加者と「ともに考え、ともにつくる」を実践する未来メディアカフェ。ロボット・アンドロイド研究者の石黒浩教授をゲストに迎え、ロボット関連取材に関して深い経験を持つ、朝日新聞社の嘉幡記者がスピーカーとして参加した。テーマとなるのは「人型ロボットと人間社会」だ。今はなき夏目漱石に、テクノロジーを使い、再度実存を与えた「漱石アンドロイド」とともに、ロボットやアンドロイドがいかに我々の社会に影響を与えるのかを考える。
 
前編では、嘉幡記者がロボット史を、そして石黒教授がロボット・アンドロイド研究の深淵を語った。そして、後編の今回は、一般参加者の質問に、両スピーカーが回答していくディスカッションタイムの様子をお伝えする。なお、漱石アンドロイド創造にまつわるエピソードはこちらの記事に詳しい。
 

人とロボットは結婚できる?参加者が感じるロボット時代の疑問

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会場からは、たくさんの質問が両スピーカーに投げかけられる。まず、ピックアップされたのは「人間とロボットは結婚できるのか?」という問いだ。石黒教授はこの問いかけに、「結婚の定義の問題」と答える。
 
「まず、結婚に子供を作る、という前提があれば、それは言うまでもなく生物学的に不可能です。ただ、同性でも結婚できるようになりつつある社会で、子供を作るという条件は変化してきていますよね。どんな対象を愛するか、という観点で考えれば、アンドロイドしか愛せない、という人がいても全く不自然ではない。自閉症の子供などは、ロボットでなければコミュニケーションできない、という事例も見られます。ここで重要なのは、同性愛、アンドロイド愛といった多様性を受け入れるということです。そして、そのために技術があります。差別や偏見を越えるための技術として、象徴としてアンドロイド婚があってもいいと思いますよ」
 
嘉幡記者は自身のスピーチで紹介した「ロボットを愛する」フランス人女性の例を引き合いに出し、「ロボットと結婚する必要はなく、ともに暮らすだけでいいのでは」と答える。一方で様々な差別をなくすための問題提起として、フランス人女性の発言はいいニュースであると言う。
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続いて飛び出したのは「アンドロイドのどこに、人は愛着を感じるのでしょうか?」という、非常に根源的な質問だ。石黒教授は「まさに、そういうことを知るための研究です」と答えを切り出す。
 
「人間らしい形をしているだけで、となりにいるとドキドキします。存在を感じます。匂いを感じます。人間が反射的に人間存在を感じる要素が、アンドロイドにはあります。ただ、アンドロイドに限りません。長く使っていれば、人はお椀にだって愛着を持ちますよね。人を含む動物であれば、フェロモンのような化学物質で愛や愛着を感じるかも知れませんが、特に人の場合、もう少し高度で、長く関わる、という要素があると愛着がわくのではないでしょうか」
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嘉幡記者は愛の状態いかんによって、人とアンドロイドの友愛が作られるのでは、と言う。
 
「価値観の異なる人同士が、共有できる要素を見出し、相手の価値観を尊重し、それに従って振る舞うことに喜びを感じる、というのが愛の1つの定義だと仮定します。前提である価値観の共有は人とロボットの間では成立しないと思います。が、一方で、人はペットを愛することからも分かるように、人がロボットの価値を受け入れることは可能です。その意味で、人はロボットを愛せると考えています」
 
様々な疑問が行き交う中、最後にピックアップされた質問は「漱石を人工知能で再現できるか」というものだ。この問いに対し、やはり知能、創作の定義の問題だ、と石黒教授は言う。
 
「漱石研究のデータを組み合わせ、それに乱数を加えれば、漱石らしい発言や、もしかしたら新作の小説を生成できるかもしれません。しかし、新作とはなんでしょうか?音楽においては、歴史上、すでにアイデアは出尽くしていて、いま世に出てきている新作は古い作品の再構成にすぎない、という見方もあります。それは小説でも同じかも知れません。すでにストーリーは出尽くしていて、仮に漱石の新作をテクノロジーで生み出したとしても、それは新作と呼べないかも知れない」
 
嘉幡記者も、この問いかけには創作物の完成度が問題である、と考えを語る。
 
「やはり、問題は独創性や作品の完成度です。仮に人工知能が作品を生み出したとして、その作品はどのような価値を持ち得るのか。50年後、100年後も人の研究や鑑賞に堪えられるものか、という視点で見たときに、今の人工知能ではそういった創作物を編み出すのは難しいのではないかと感じます」
 

アンドロイドの印象は、新しい人と話しをする感覚

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▲イベントに参加した平野琢巳さん(写真左)と中村美咲さん(写真右)
 
「当初、漱石には厳しいイメージを持っていました。文学部で行った、漱石の研究旅行により優しい部分に気付き、接しやすさを感じるようになりました。漱石アンドロイドからは、まだ未熟さのようなものを感じましたが、アンドロイドが知の集積によって大人になっていく過程に期待したいです」と未来メディアカフェの参加者で、二松学舎大学の3年生の平野琢巳さんは、漱石アンドロイドの印象を話してくれた。
 
一方では、同じく二松学舎大学の学生の中村美咲さんは、アンドロイドを“人”として認識したという。「これまで漱石について授業で習った程度の知識しかなく、強いイメージは持っていませんでした。今日初めて石黒教授を見たのですが、漱石アンドロイドにも石黒教授と同じように『初めて合う人』の認識を持ちました」。
イメージの強さや人によって、まだまだ『漱石アンドロイド』から受ける印象は違うようだ。
 
「今後、ロボットやアンドロイドはますます社会に浸透してくる。そのとき、逆にロボット・アンドロイドの存在から“人とはなにか?”という議論に発展して欲しい」
 
石黒教授はイベントをそう締めくくった。より人間を理解するためのアンドロイド。そして、イメージでしか存在しないものを具現化し、社会に影響を与えるためのアンドロイド。そのためにもここから、石黒教授と二松学舎大学が進める漱石アンドロイドを活用した研究に期待したい。

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speaker:石黒 浩

ロボット学者/大阪大学教授

1963年生まれ。大阪大学基礎工学研究科博士課程修了。工学博士。京都大学情報学研究科助教授、大阪大学工学研究科教授を経て、2009年より大阪大学基礎工学研究科教授。ATR石黒浩特別研究所客員所長(ATRフェロー)。社会で活動するロボットの実現を目指し、知的システムの基礎的な研究を行う。ロボット研究においては、従来、ナビゲーションやマニピュレーションという産業用ロボットにおける課題が研究の中心であったが、インタラクションという日常活動型ロボットにおける課題を世界に先駆けて提案し、研究に取り組んできた。そして、これまでに人と関わるヒューマノイドやアンドロイド、自身のコピーロボットであるジェミノイドなど多数のロボットや、それらの活動を支援し人間を見守るためのセンサネットワークを開発してきた。2011年に大阪文化賞を受賞。また、2015年には、文部科学大臣表彰受賞およびシェイク・ムハンマド・ビン・ラーシド・アール・マクトゥーム知識賞を受賞。主な著書に「ロボットとは何か」(講談社現代新書)、「どうすれば「人」を創れるか」(新潮社)、「アンドロイドは人間になれるか」(文春新書)などがある。

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speaker:嘉幡久敬

朝日新聞東京本社科学医療部専門記者

1965年生まれ。1989年、東京工業大学大学院修士課程修了、朝日新聞社入社。仙台支局などを経て、主に東京・大阪本社の科学医療部で地震災害、医療、原子力、科学技術行政の報道にかかわる。福島第一原発事故はデスクとして担当。2014年4月より本紙テクノロジー取材班で人工知能やバイオ技術、ロボティクスなどを取材、現在は基礎科学や軍事研究なども担当している。趣味は絵と器。

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