ギンイソイワシの幼魚 山本洋嗣さん提供
東京湾に生息するギンイソイワシという魚が、高い水温の影響で大量に「オス化」していたとする調査結果を、東京海洋大学の研究チームがまとめました。地球温暖化で今後さらに海水温が上昇すると、オスとメスの数のバランスが崩れ、「種」としての存続が脅かされる恐れもあるといいます。
(編集委員・山本智之/朝日中高生新聞2022年7月3日)

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東京湾のギンイソイワシで確認
繁殖シーズンの高温でメス2割
ギンイソイワシは、体長が15センチほどの海産魚です。日本近海のほか、朝鮮半島南岸や台湾などに分布しています。
東京海洋大学准教授の山本洋嗣さんらの研究チームは、2014年から16年にかけて、千葉県館山市の海でギンイソイワシを多数捕獲し、その性別を調べました。
その結果、繁殖シーズンの海水温が高い年には、オスの比率が極端に高くなる現象が起きていることが確認されました。
繁殖シーズンの水温が平均で23・5度と平年並みだった14年の場合、その年に生まれたオスとメスの比率はそれぞれ50%に近い値でした。
ところが、シーズン中の平均水温が26度と平年より高めだった16年は、オスが8割を占め、メスはわずか2割しかいないことが判明しました(=棒グラフを参照)。

なぜこのような現象が起こるのでしょうか。
実はギンイソイワシは、遺伝的な性別がメスの個体でも、ふ化後2週間までの間に高い水温環境にさらされると、体内に精巣がつくられ、オスになる場合があるのです。
ギンイソイワシの親魚は、沿岸の海藻に卵を産み付けます。繁殖のシーズンは、主に6~9月。卵は9~14日ほどでふ化します。
通常の年でも、まだ水温が低い6月ごろにふ化した「早生まれ」の個体には、メスが多く含まれていて、それには理由があると考えられています。
早生まれの個体は、翌年の繁殖期までに大きく成長できます。メスが大きな体になれば、たくさん卵を産むことができるので、子孫を残す上で有利な戦略だとみられるのです。
一方、水温が高い8~9月にふ化する「遅生まれ」の個体は、ふだんの年もオスが多いことが知られています。オスは体の大小で生殖能力に大きな差が出ないため、たとえ遅生まれで体が小さくても、繁殖上は問題がないとみられます。
このようにギンイソイワシは、通常の年でも、繁殖シーズンの前半はメスが、後半はオスが多く生まれやすいという性質があるのですが、年間を通してみれば、その年に生まれたオスとメスの比率は、ほぼ1対1になっています。
しかし、繁殖シーズンの開始が遅れたり、温暖化の影響で高い水温の年が何年も続くと、オスの割合が高くなりすぎると心配されているのです。
温暖化でオスメスの数バランスが崩れる恐れ

ギンイソイワシの捕獲に使うたも網を持つ東京海洋大学准教授の山本洋嗣さん(右端)と学生たち
=2020年、千葉県館山市 山本洋嗣さん提供
山本さんは「もし、ギンイソイワシの適応能力を超えたスピードで温暖化が進めば、オスとメスの数のバランスが崩れ、集団としての繁殖能力が低下する。その結果、個体数が減ってしまうかもしれない」といいます。
魚は私たち人間と同じ脊椎動物ですが、生まれたあとの環境条件によって、性別が変わりやすいことが知られています。
世界では、これまでに60種以上の魚種について、水温条件によってオスとメスの数のバランスが変化するという実験結果が報告されています。
その中には、食用魚として広く流通しているヒラメやスズキなどの魚も含まれます。ヒラメとスズキはどちらも、遺伝的にメスの個体であっても、高水温の条件下では「オス化」しやすいといいます。
今回調査した東京湾のギンイソイワシについて、山本さんは「温暖化の影響を見極めるためには長期的な調査が必要」とした上で、「すでに温暖化の影響が出始めている可能性はある」と話しています。

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