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【対談2/2】横浜の課題解決に挑む意味【未来メディアキャンプvol.4】

更新日 2022.02.03

対談連載:前編はこちらへ

ニュートラルに発想することの大切さ、難しさ

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嶋 経験やバックグラウンドが異なる人が集まると、ファシリテーター的な人がしっかり機能しなかったりするとだめなチームになってしまいます。でも逆に、ニュートラルに多様なアイデアを出しあって、しっかり収斂できるチームになれば、すごく強い。また、答えはあさっての方向からやってくるとお話ししましたが、いいアイデアは、いちど既成概念をとっぱらったニュートラルな環境から生まれるのではないでしょうか。人は過去の成功体験を繰り返してしまいますが、既成概念にとらわれず、一番解決に適した手口を選ぶのが大事だと思います。
 
例えば、新幹線のパンタグラフから出る騒音の解決に、獲物に気づかれないよう高速で静かに飛ぶフクロウの羽根の形を取り入れたテクノロジーがあります。クールジャパンの代表である回転ずしも、考案者はビール工場の製造ラインを見て、ここにすしが流れてきたらおもしろいと思ったのが始まりです。一切関係のない、あさっての方向のナレッジが突然かみ合って課題が解決されている。
 
今回のキャンプも、いろんな経験を持っている人たちのバックグラウンドと資源がかみ合って何かのケミストリーが生まれそうです。でも、そのためにはチームマネジメントがすごく重要ですよね。そのあたりはどのように工夫されるのですか?

議論はフラットに。相乗効果も期待

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神武 一番目には、非常にベーシックに、マインドセットを変えてもらうことです。参加者の方が、自分の専門性で足跡を残さねばならぬという気負いを捨て、フラットに、今まで生きてきた経験をもとに議論してほしいと伝えています。
 
二番目は、チーム同士で比較し、交流し、その相乗効果で変化していくということです。同じ空間で、同じプロセスでやっていても、うまく進むチームとそうでないチームが出てくる。なぜ、楽しく議論できないのか、なぜうまく進まないのかを考えてもらうことも重要だと思います。
 
嶋 課題の前ではみんな平等。誰のアイデアが採用されるか、可能性は皆にあるというのはおもしろいですよね。もしかするとこの人の経験は役に立つのかな、と思える人の知恵のほうが実は耳を傾けるべきことだったりする。全然関係ない方向から課題解決の球が投げられることがあるから。逆に、「この分野、俺が得意だ」と思った人がいて他人の意見を聞かずに突っ走るとやばい。
 
僕、うちの社員には「名古屋人は最高」と言っています。小倉トーストとか、スプーンとフォークをくっつけたスガキヤのラーメンフォークとか、雑貨と本を一緒に売るビレッジバンガードとか、この組み合わせはあり得ないというクリエーティブを名古屋人は平気で組み合わせる。あれぐらいの覚悟を持ってアイデアとアイデアを組み合わせたほうがいい。

メディアのリソースを活用する

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神武 キャンプは2日間ですが、初日と最終日の間に1カ月あります。その間にフィールドワークをやってデータを集め、課題をより理解して読み解きます。そこでは、参加する記者の方が持っている普段の取材で培われたヒトやモノを観察するノウハウを提供いただけるとおもしろいなと思っています。また、横浜市の方々は、アイデアはもちろんのこと、いろんな横浜市の課題や未来メディアキャンプの取り組みが朝日新聞で報道されることによって、困っている人、頑張っている人をもっと可視化できるのではと期待されているようです。
 
嶋 課題解決チームにメディアが加わることに一つの可能性を感じます。アイデアを出す人たちは多様な視点を持っていて、いろいろなキャリアがある。そこに朝日新聞というメディアのリソースがあれば、解決問題に繰り出す技のバリエーションも増えます。
 
僕は一時期、朝日新聞に出向していたのでわかるのですが、新聞社は無駄にいろんなリソースを眠らせていると思うんです(笑)。いろんなことをすごく調べていて、使えるものが山ほどあるのに、記者さんたちは気づいていなくて、資産の活用方法がわかっていない。新聞記者の調査能力とか、複雑なものを分かりやすく説明する見せ方とか、世の中での新聞社の役立て方が見えてくるといいですね。
 
神武 記者のみなさんはメンタリングするのではなくて、チームメンバーの一人です。「メンターでお願いします」というわけではないんです。そうすると、記者さんも構えてしまうでしょう。普段の記者の経験を共有頂き、チームメンバーの一人として横浜市について調査し、考えるということを行なって頂く予定です。メンターには、システム思考やデザイン思考を学んだり、このキャンプを過去に経験したりしている大学院の学生や修了生に加わってもらいます。
 
嶋 チームのメンバーとしてのインタラクションはどうでしょうか。チームワークはできますか。
 
神武 これまで、記者の方によっては初日には「俺がやらねばならぬ」と思って来た人もいらっしゃいました。でも、参加者の方々はほかの分野でたくさん経験を積んでいる方々も多いので、だんだん気負いがなくなってくることが多いです。学生の参加者は知識や経験が少ない代わりに、ものすごく思いが強くて、行動力と突破力がある方が多いです。
 
嶋 昨年のキャンプの審査で印象に残っているのは、地震をインバウンド向けの観光資源にするとか、戦争の遺品を思い出グッズにするとか、きっとその問題にずっと関わってきた当事者では考えられない、ちょっとちゅうちょしてしまうようなアイデアが学生から出てきていたのが新鮮でした。
 
神武 今回は横浜市の課題解決という、より具体的な人のインサイト、つまり欲望にアクセスすることになります。
 
嶋 その欲望をどれだけ先回りできるか、企画力の肝ですね。キャンプでは、同じ課題に対して他人はこう考えていたという多様性に気付いたり、意外なアイデアと意外なアイデアを組み合わせた時にケミストリーが起こって企画がジャンプしたりといった、ある意味ドーパミンが出る瞬間を味わってもらいたいですね。普段は会うことのない、立場の違う人と多様なソリューションを生み出して、そのなかで効果的なものを選択するスキルを磨く。これはすごく得がたい経験になると思いますよ。
 
対談連載:前編はこちらへ

speaker:神武直彦

慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科准教授

大学卒業後、1998年に宇宙開発事業団入社。H-IIAロケットの研究開発と打ち上げおよび国際宇宙ステーションプログラムにおけるNASAや欧州宇宙機関(ESA)との国際連携に従事。ESA研究員、宇宙航空研究開発機構主任開発員を経て2009年より現職。専門は社会技術システムのデザインとマネジメントやイノベーティブなサービス創出のためのプロセス・環境構築。一般社団法人GESTISS(宇宙・地理空間技術による革新的ソーシャルサービス・コンソーシアム)理事。アジア工科大学大学院客員准教授。

speaker:嶋浩一郎

博報堂ケトル代表取締役社長 編集者・クリエイティブディレクター・書店経営者

93年博報堂入社。コーポレートコミュニケーション局で企業の情報戦略にたずさわる。01年朝日新聞社出向、スターバックスコーヒーで販売された若者向けタブロイド紙「seven」編集ディレクター。02~04年博報堂刊「広告」編集長。04年本屋大賞立ち上げに参画、現在本屋大賞実行委員会理事。06年既存の手法に縛られない課題解決を目指しクリエイティブエージェンシー博報堂ケトルを設立。主な仕事、資生堂、KDDI,J-WAVEなど。 太田出版のカルチャー誌「ケトル」編集長などコンテンツ制作にも注力。 2012年東京下北沢にブックコーディネーターの内沼慎太郎と本屋B&B開業。

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