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いまこそ「まっとうな仕事」の議論をしよう(寄稿:常見陽平)

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常見陽平

千葉商科大学国際教養学部専任講師/働き方評論家/いしかわUIターン応援団長

働き方改革の上滑り感、しらけ感の正体

流行語大賞写真
(流行語大賞の受賞者たち=1日午後、東京都千代田区、長島一浩撮影 出典:朝日新聞)

 
12月1日、都内のホテルで開かれた「ユーキャン新語・流行語大賞」の授賞式に、今年もお呼ばれしました。自由国民社の『現代用語の基礎知識』で1コーナーを担当しているご縁からです。

 
今年の流行語大賞は「インスタ映え」と「忖度(そんたく)」でした。会場に着いて唖然(あぜん)としたのは、「プレミアムフライデー」がトップテンに入っていたことです。今回、私が担当したページからはこの言葉の他、「働き方改革」「人生100年時代」がノミネートされていました。

 
その中のひとつが受賞したわけですが、私は戸惑ってしまい、ちっともうれしくありませんでした。というのも、私は同誌の中でこれらの言葉を好意的に捉えて紹介したわけではないからです。
しかし、授賞式が始まり、選考委員の漫画家やくみつるさんや、司会の方のコメントを聞いて安心しました。別に「プレミアムフライデー」を好意的な文脈で取り上げたわけでも、この取り組みが成功したと認めたわけでもないことが分かったからです。

 
そう、「ユーキャン新語・流行語大賞」は別にその言葉をたたえる賞というわけでもなく、あくまでその年に“はやった”言葉を取り上げる賞なのです。言ってみれば褒め殺しのようなもので、受賞者の中には授賞式の参加を辞退する方もいる中、授賞式にやってきた経団連副会長はなかなかあっぱれでした。

 
プレミアムフライデーは、もともと無理筋でした。忙しい月末の金曜日に午後3時で仕事を切り上げるのは、難易度が高いというのは言うまでもありません。サービス残業を誘発したり、他の日の労働時間を増やしたりしてしまう可能性だってあります。消費喚起施策だとしても、週末の消費が前倒しになってトータルでは減ってしまうことも懸念されますし、サービス業はますます忙しくなります。

 
うがった見方をすると、「プレミアム」というのは、この日に早く帰って消費できる経団連企業のような大手企業とその従業員を指しているのではないか、とすら思えてしまいました。

 
もともとこの施策は、消費喚起が目的です。もっとも、これをすすめる経団連も経済産業省も途中からこの施策に、「働き方改革」の色を強めていったのは間違いないでしょう。しかし、結果としてプレミアムフライデーは、この取り組みの上滑り感を象徴する施策になってしまいました。

労働の“定額使い放題”を実現させようとしているかのよう

「働き方改革」は、安倍晋三首相の言葉を借りるならば「国をあげた最大のチャレンジ」であったはずでした。しかし、当初は「ワーク・ライフ・バランス」について考えるという場であったのにもかかわらず、いつの間にか生きるか死ぬかという意味での「ライフ」の意味にすり替わっていきました。

 
最終的に長時間労働を規制する動きになりましたが、繁忙期の労働時間は過労死ラインを超える線で議論されました。仕事の量や難易度が変わらないのに早く仕事を終わらせろと言うのは、単なる労働強化です。これでは、サービス残業も誘発してしまいます。

 
働き方改革の実現会議も、集められた有識者で労働者の代表は15人中1人だけ。一見、意見を聞く場のようでありながら、実際には経営側の論理を押し付ける場に思えました。
しかも、肝心の労働関連の法案は、審議する前に解散。長時間労働の規制は、裁量労働制や、労働時間と賃金を切り離す高度プロフェッショナル制度と抱き合わせで提出されようとしています。労働の“定額使い放題”を実現させようとしているかのようで、むしろ、こちらが本丸だったのではないかとさえ思えてきます。

 
このような「働き方改革」の上滑り感に、皆さんも白けてしまっていませんか。ワーク・ライフ・バランスの議論が命という意味でのライフの議論にすり替わっていったのも、そもそも我が国の仕事がまともではない、ということを象徴しているようではないでしょうか。

学生が企業をえり好みして何が悪い

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その点、若者の感覚はたいへんに正直です。教員として学生と向き合っていると、彼ら彼女らが「この企業はまともなのか」という点を気にしているのを感じます。

 
たとえば、就活生や若手社会人の間では、「自分ファースト」の若者が増えています。三菱UFJリサーチ&コンサルティングの「2017(平成29)年度 新入社員意識調査アンケート結果」によると、「一定時間は仕事から離れてオフを過ごしたい」という志向が高まっていることが明らかになりました。

 
新入社員は企業に、「給料が増える」ことよりも「残業がない・休日が増える」ことを求めています。「私生活に干渉されない」ことの重要度は高まっており、就業後や休日などは、仕事から離れた自分の時間を充実させたいと考えているのです。

 
この手の話をすると、「最近の若者は……。もっと仕事に燃えるべきだ」と言う人がいます。単なる老害芸はやめて欲しいものです。若者が、よりよい職場を選ぶのは当然です。

 
彼らは大学に入学した頃からブラック企業が社会問題化しており、選挙でもそれが争点となった世代です。ブラック企業関連の書籍はベストセラーにもなりましたし、それこそ2013年の流行語大賞でもトップテンに入りました。
さらには、自分自身がブラックバイトの被害にあっている世代でもあります。実際、前出の調査でも、8割を超える人が就職活動の際にブラック企業かどうかを「気にした」、もしくは「少しは気にした」と回答しています。

 
先日、2018年卒予定の6割の学生が内定を辞退したというデータが話題となり、例によって「若者がえり好みをして」というような批判の声がネットでは散見されました。笑止千万の妄言です。内定というシステムは、企業が取り消すのは問題ですが、学生の側が辞退するのはほぼ自由なのです。
何より、労働者がよりまともな仕事を選ぶのは当然の権利ですし、内定を辞退するというのは、言い換えれば労働市場が機能しているということでもあります。

 
アベノミクスにより求人は回復したと言われていますが、それは若者にとって本当にやりたい仕事なのか、何よりも“まともな”仕事なのか、ということが問われています。産業構造の変化もあり、サービス業の求人が伸びているわけですが、残念ながらサービス業はあまり人気の高い業種ではありません。えり好みして、という批判がまた起こりそうですが、事実、厚生労働省の調べによると、サービス業は離職率も高いのです。若者が避けるのも、言ってしまえば当然です。

 
今後は若者が減少していくこともあり、採用の氷河期化が予想されます。この若手の人手不足が、労働市場をポジティブに変え、よりまともな仕事を選ぶ動機になればと祈っています。

まっとうな仕事の議論を始めよう

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先日の衆院選で野党第1党に躍進したのは、立憲民主党でした。その選挙のスローガンは「まっとうな政治」。秀逸なコピーだと思います。そして、いま、私たちが議論するべきは「まっとうな仕事」ではないでしょうか。
その仕事は、人間らしい働き方ができるのか。それは、社会的に正しいことなのか。これが問われているのではないでしょうか。

 
働きがいのある人間らしい仕事を指す、「ディーセント・ワーク」という考え方があります。労働環境・労働時間が整っている中で、適切な賃金を得た上で、労働者の尊厳や権利を保つような仕事をしよう、という考え方です。

 
これは「雇用の促進」、「社会的保護の方策の展開及び強化」、「社会対話の促進」、「労働における基本的原則及び権利の尊重・促進及び実現」という4つの戦略的目標を通じて実現されると位置づけられ、男女平等の達成、男女双方にとっての働きやすい仕事や家庭の環境を生み出すことが重要なテーマとなっています。
ディーセント・ワークの推進は、国連で2015年9月に採択された持続可能な開発目標(SDGs)の中でも掲げられています(「目標8 働きがいも経済成長も」)。これは、働き方改革を論じる上での大前提となりそうなことです。

 
(SDGsとは何かはこちらの記事で!SDGs(持続可能な開発目標)とは何か?17の目標をわかりやすく解説|日本の取り組み事例あり)

 
この考えをもとに、労働に関する議論をする上では「その仕事はまともなのか」「まっとうな仕事なのか」ということを視点に入れて考えるべきなのです。

 
「働き方改革」が決着する前に「生産性革命」「人作り革命」なるスローガンがまた飛び出していますが、いずれの議論においてもそれは「まっとうな仕事」なのかという問いをたてるべきなのではないでしょうか。

 
さて、あなたは「まっとうな仕事」をしていますか。していないとしたら何が問題なのでしょうか。声をあげていきましょう。

  • writer常見陽平

    千葉商科大学国際教養学部専任講師/働き方評論家/いしかわUIターン応援団長

    北海道札幌市出身。一橋大学商学部卒業、同大学大学院社会学研究科修士課程修了(社会学修士)。
    リクルート、バンダイ、ベンチャー企業、フリーランス活動を経て2015年より千葉商科大学国際教養学部専任講師。専攻は労働社会学。大学生の就職活動、労使関係、労働問題を中心に、執筆・講演など幅広く活動中。

     
    『「働き方改革」の不都合な真実』(共著 イースト・プレス)『なぜ、残業はなくならないのか』(祥伝社新書)『僕たちはガンダムのジムである』(日本経済新聞社)『「就活」と日本社会』(NHK出版)『「意識高い系」という病』(ベストセラーズ)など著書多数。 公式サイト…http://www.yo-hey.com

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