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きれいごとで「いい会社」に投資する投資信託を運用・販売する鎌倉投信ってなにがスゴいの?【ソーシャル数珠つなぎ】

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秋山訓子

朝日新聞編集委員

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ずうっと前に、新聞記者として株式市場を担当し、投資信託というものを知り、驚いたことがありました。日本の投資信託の会社って、大手金融会社の傘下にあるものばっかりだったのです。

 
で、そういうところって、派手に宣伝をうって、次から次へと新しい投資信託をつくりだして、お客さんに売るけれど、しばらくたつと新しい投資信託へ「のりかえ」を進める。その繰り返し。そうやって、販売手数料を稼ぐ。結局得をしているのは、会社だけのような気が。

 
そうではない、独立系と言われる会社があります。小規模な会社で、ごく少数の投資信託を掲げて、お客さんには長くもってもらう。少数派です。
鎌倉投信も、そんな会社です。しかも、「社会課題の解決をしている会社への投資」を掲げています。そんなことで、もうかるのか?

 
ソーシャルなことをしている人に、何をしているのか、なぜしているのかを聞きにいく本連載。ある人が「面白い!」と思う人を紹介してもらい、次に会いに行く数珠つなぎです。一人目の面白法人カヤック・柳澤大輔さんに「きれいごとを本気で実現しようとしている」と、紹介してもらったのが鎌倉投信の鎌田恭幸さんです。

 
お話しを聞いた人
鎌田恭幸(かまた やすゆき)さん

1965年生まれ。島根県大田市出身。父は農業、母はよろずやを営んでいた。東京の大学卒業後、日系信託銀行に入社。11年勤めて、外資系運用会社に転職。2008年鎌倉投信設立。2010年運用開始。

好待遇。でも、社会の役に立っているという実感がなかった大手信託銀行時代

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▲鎌田さん。オフィスの床の間にて。

 
就職したのはバブルの絶頂期でした。金融を選んだのに、特に理由があったわけではありません。大学の部活の先輩に誘われて。信託銀行は、普通銀行ほど忙しくないけれど給与はいいよと(笑)。業界全体の雰囲気としては、今年は国際業務、次の年は不動産だ、などと、いかに会社の利益を上げるかに注力していたように感じます。次に勤めた外資系運用会社は、投資哲学も明確で学ぶことがとても多い会社でした。しかし、2000年に入ると徐々に派生型の金融商品が増え、短期的な利益に対する指向性が強まってきました。

 
確かにやりがいがあり、待遇もよかったけれど、世の中の役に立っているという実感が持てなくて。思い切って国際貢献系のNGOに転職しようか、なんて思った時期もありました。でも子供も小さかったりして踏ん切りがつかなかったんです。

 
外資系金融を辞めたのは2008年の1月です。その半年後にリーマンショックが起きます。次に何をやるかはまだ決めていませんでした。漠然と社会貢献に近いことをやりたいなあ、と思っていたくらいです。妻も働いていましたし、この時はもう、子供も手がかからなくなっていましたしね。

遅咲きの起業家が生み出した、100年続く投信会社

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▲こんなところに住んでみたい!と思ってしまう日本家屋が本社。

 
国際貢献NGOの話も聞きに行ったりしましたが、当時43歳。これまでと全く畑の違うことをやるのは無理だなあ、と。金融を通じてそういうことができないかと思い、会社で同僚だった3人に声をかけました。3人とも専門が違います。一人が運用、二人目がコンプライアンスを含めた経営全般、三人目がオペレーション、そして私は営業。半年くらいかけて議論をし、自分たちの目指す金融についてビジョンをつくっていきました。

 
そこで出た結論が、多くの人が参加できる公募型投信をつくり、直接販売する仕組みで、投資家の資産形成と社会の持続的な発展に貢献すること。これまで私たちは機関投資家向けの商品をつくってきました。でも、普通の人たちに投資について広く知ってもらう場づくりをしたいと思ったのです。短期的な利益だけを追うのではなく、100年続く投信をめざしたいと考えました。

 
会社の場所、そして名前は「鎌倉」を選びました。場づくりをしたいと考えた以上、会社をどこに置くかには、とことんこだわりました。鎌倉は自然が豊富で、伝統文化があり、革新性がある。鎌倉を拠点にすることで、古くからあるものを大事にしながら新しいものをつくっていきたいという私たちの考えや、業界での立ち位置を示したいと思ったのです。いわばシンボリックな場所です。

 
本社は日本家屋にしたいと思って探し、築85年の物件を手に入れました。駅から歩いて20分ほどかかります。敷地250坪、裏山を入れると750坪あります。最初はお化け屋敷みたいな感じで(笑)、床は腐っているし、雨漏りもする。徐々に手をいれていきました。桃、桜、藤、つつじ、椿……、庭には四季の花が植わっていて、春には裏山で、タケノコが採れます。社員が家庭菜園を始め、なすやトマト、ミョウガやピーマンなどを作っています。バーベキューをすることもありますよ。
トイレ掃除は主に私の役割で、社員と一緒に取り組みます。自分で掃除をするといろいろなことに気づくんですよ、ああこんなところにまでホコリってたまるんだなとか。視座が低くなります。

「きれいごと」を支持してくれる人たちが集まってくる

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▲裏山には家庭菜園も。

 
本社の畳敷きの部屋では月に数回ほど、投信の説明会を開いています。オフィスが東京にないことでの不便はまったく感じません。
2010年3月「結い 2101」の運用を開始しました。投資する会社は、本業を通じて社会課題を解決する「これからの日本に本当に必要とされる会社」「社員とその家族、取引先、地域・自然環境、顧客・消費者、株主を大切にして持続的で豊かな社会を醸成できる会社」です。

 
投信を立ち上げてしばらくは、そんな甘いことを言ったって利益なんか出ないよと同業者からもお客さんからも言われましたよ。正しいと思うことをやっても成り立つかどうかわからなかったですし。でも、手探りではあっても、腹は据わっていました。そもそも自分が何のために会社をつくったのかを常に思い出し、短期的な数字を気にするのではなく、仕事に向かう姿勢を大事にしよう、集中しよう、と自分に言い聞かせていました。

 
2017年3月中旬時点で、基準価額(編注:投資信託1万口あたりの価格)は1万7000円あまり。お客様の数は約1万7000名、純資産の総額は約265億円です。時間はかかりましたがだいたい想定していた状態です。100億円になるまでに4年以上かかりましたが、そこからのスピードは速く、お客様が2倍に増えて1万人を超え、その結果の純資産総額が100億から200億になる時間は2年ほどでした。

震災を通じて見えた、お金に託された祈り

 
いま運用する投信では、60社に投資をしています。社会性と事業性の両立を目指している会社ばかりです。たとえば、タムロンというレンズメーカーがあります。日本の匠な技術を提供している会社です。よく知られている会社では食品メーカーのカゴメ。トマトケチャップが主力製品なだけあって、トマトの研究開発に力を入れているんですね。それから、個人投資家をすごく大切にしている。そういう姿勢も評価しています。それから小林製薬。独創性の高い商品を次々と生み出していて、社員の着想力がすばらしい。

 
限られたリスクの範囲内ですが、非上場の会社への投資も特徴の一つです。たとえば、途上国から世界に通用するブランドをつくりたいとバングラデシュに拠点を置き、バッグをつくっているマザーハウス。環境や社会、人権に配慮したジュエリーをつくっているハスナ。本来いい会社とは上場しているかどうかは関係ないのです。

 
ベンチャー企業や社会性の強い事業に取り組む会社の場合、事業が軌道に乗るまで時間がかかる場合があります。そうした会社にだけ投資した場合、投資家からみればリスクが高い割にリターンが得られない時期が続くこともあります。しかし、「結い 2101」では有価証券部分の9割以上は上場している会社に投資する等、様々な発展段階にある会社をうまく組み合わせていますので、全体として投資家のリスクを抑えることができると考えています。

 
基準価額が一番下がったのは2011年の東日本大震災の直後です。9000円近くまで下げました。ところが、鎌倉投信ではこの時の解約はほとんどなく、圧倒的に入金が多かったのです。お客様は「こういう時だからこそいい会社を応援したい」といってくださったのです。心が震えました。祈りともいえるお金だと思いました。金融を通じて平和への祈りをささげているのだと。

黒字化が、見えた!

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▲窓の向こうにはすてきなお庭が。住んでいたら、性格が良くなりそうなおうちです。

 
この3月で黒字転換する見込みです。当初の予定から2期後ろにずれました。金融分野の様々な制度対応が主な原因です。
ウェブサイト以外で広告・宣伝は一切しません。鎌倉や主要都市で説明会を開き、あとは口コミです。テレビ番組にも何度か取り上げていただきましたが。

 
私の収入ですか?前職の時とは比べものにならないほど減りましたよ(笑)。でもね、世の中の役に立っているという実感、手触り感があります。お客さまに喜んでもらえるのもうれしいですね。やりたくない仕事をやっているというストレスはありません。

 
これからの課題は組織づくりです。ようやく財務的に安定してきたので、100年続けるためには、企業理念が継承されなければ。100年後には、私は間違いなくこの世にいませんからね(笑)。ここには「百年カレンダー」が貼ってあります。説明会に来てくださった方には言うんです。このカレンダーのどこかにはみなさんの命日がありますよ、と。

「きれいごと」に人が投資する時代

 
アキヤマの感想…「きれいごと」で利益を追求することを支持する人がこんなにいるんですね。しかも、もうかっている!!!きれいごとでもうけることが可能なんだ!!!何よりも、震災の時に入金額が多かったという話が感動的でした。

 
鎌田さんが紹介します>>NEXT>>日本環境設計・岩元美智彦会長
地上資源の循環で世界平和を実現しようとしているすごい人物です。

  • writer秋山訓子

    朝日新聞編集委員

    92年入社。政治部、経済部、アエラ編集部、政治部次長などを経て現職。政治を中心に、NPOや社会企業など幅広く取材。かわいい好き。後輩の加地ゆうき記者が描いてくれたこの似顔絵、めがねが私です。

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