2030 SDGsで変える

ベテラン記者が伝える取材のコツとはーー途上国でのフィールドワークで初めて見えてきたこと

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藤谷 健

朝日新聞社コンテンツ戦略ディレクター

新聞記者がSDGs取材についてコラムで綴る「2030 SDGsで変える」。今回は、記者と一般参加者がともに社会課題の解決アイデアを探る朝日新聞社のイベント「未来メディアキャンプ」にこれまで参加してきた藤谷健記者(=コンテンツ戦略ディレクター)による「フィールドワーク」への熱い思いをお届けします。

 

2017年の未来メディアキャンプでは、横浜市を舞台に、同市が直面する具体的な社会課題の解決がテーマに。国連の開発目標である「SDGs」の視座に立ちつつ、ソリューションを探る活動が繰り広げられました。キャンプ1日目のワークショップでは、社会課題のインプットからその分析まで、限られた時間の中で参加者たちが盛んに議論を展開。その後、次の2日目のワークショップまでの約1カ月間は、アイデアづくりに向けたフィールドワーク期間に移りました。

 

そのフィールドワーク期間中の10月31日、慶應義塾大学日吉キャンパス協生館で開かれたフォローアップミーティングで藤谷記者が、取材記者として長年培ってきたノウハウを生かし、取材のコツやフィールドワークを通してSDGsの事象をどう掴むか、参加者に語りかけました。

 

未来メディアキャンプを楽しむための5つのヒント

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藤谷:私は過去に2回、記者として未来メディアキャンプに参加しています。その際に提示した社会課題は、「途上国の開発問題を私ごとに感じるには」。チームでの議論は楽しく、非常に色々なアイディアが出ました。
今回は、私がこれまでのキャンプへの参加を通して感じた、取材やフィールドワークを楽しむための5つの“ヒント”をお伝えできればと思います。

 
まず1つ目は、「頭で考えず、ハートで考える」。
たとえば、途上国の開発問題を身近にするという課題に対し、最初は「新しいお金の流れを探る」というアイディアが出ました。でも、最終的なアウトプットは「つながるキッチン」という、まったく違うアイディアになりました。
それはなぜかと言うと、お金の流れよりも“食”のほうがずっと身近なテーマなんですよね。日本では食べ物が有り余っている一方で、途上国では食料が足りていないというギャップがある。それを埋めるためにお金を使おうよ、とアイディアの転換を行ったんです。

 
2つ目と3つ目は、「記者のアイディアに大したものはない」、「身近なテーマ、関心に引きつける」です。
記者は大したアイディアを出さない、これは本当です(笑)。取材経験が豊富なので色々な情報を知ってはいるんですが、革新的なアイディアを創出するのは、過去のキャンプではむしろ大学生など若い人でした。
実際の例で言うと、3年前のキャンプで「顔認証機能を使って、自分に顔が似た人を途上国に見つける」というユニークなアイディアが出たことがあります。
そういった、自分にとって身近なテーマや関心のあるテーマに引きつけて考える、ということが大事なのかなと思います。

 
4つ目は「テクノロジーの活用」。キャンプの審査員の方から、「あまりに突飛なアイディア、空想めいたアイディアはだめだ」というフィードバックをもらったことがあります。革新的であることはもちろん素晴らしいですが、もっと大切なのは、アイディアにちょっとした気づきや新しい切り口が含まれているかどうか、という点です。

 
そして最後、5つ目のヒントは、「フィールドワーク取材に人生を賭ける」。
こう言うと言いすぎかもしれませんが、このくらいの“つもり”で(笑)。フィールドワークというのは非常に面白いです。私も30年間、取材を続けていますが、常に新しい学びがある。みなさんの場合、グループで行く取材では得るものが大きいと思います。

 

取材をしてみて、初めて得られる気づきがある

 
藤谷:フィールドワーク取材の話が出たので、私が大切にしている、取材する際の座右の銘をお伝えしますね。
まずは、「明日できることは今日するな」(笑)。私は腰が非常に重いんですが、取材ってやっぱりすごく重要だなといつも思います。なぜなら、「犬も歩けば棒に当たる」からです。重い腰を上げて話を聞きに行けば、必ず何かしら新たな気づきを得ることができるんです。私は、「取材の神様は必ずどこかで見守ってくれている」と信じています。

 
自分がかつて行った、タリバーン政権崩壊後のアフガニスタンでの取材の中から、その一例をお伝えできればと思います。
その取材のテーマは、アフガニスタンの人たちの識字教育についてでした。アフガニスタンというのは女性がなかなか表に出られない国ですから、SDGsで言うと4番目の「質の高い教育」、5番目の「ジェンダー平等の実現」に関わってくる話です。

 
実際に取材をしてみて分かったのは、「字を学ぶということは、単に読み書きができるようになるということではない」。つまり、文字が読めないというのは、新聞や本が読めないというだけの話ではないんです。病院に行って薬をもらっても、その説明が読めない。地域の回覧板が回ってきても、読めないまま、情報が得られないままで次の人に回す。文字が読めないアフガニスタンの人たち、とりわけ女性は、社会生活においてそういった不利益を被っているだけでなく、自分自身もそのことに強い劣等感を感じている、というのが分かりました。

 
だから、識字教育によって文字が読めるようになった人たちは、「自分も尊厳を持った人間だ」という実感がようやく持てた、と言うんです。文字が読めるようになるというのは、人間の尊厳を取り戻す行為だと。これはSDGsで言うと、4,5だけでなく、「健康と福祉」や「平和と公正」にまで当てはまってきますよね。
このようにひとつの課題を突き詰めていき、話を聞いていくといろんなことが分かる。これが、取材の醍醐味です。

 

入念な“準備”は、“先入観”にもなりうる

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(熱心に耳を傾ける参加者たち)

 
藤谷:取材の具体的なコツはまず、周到な準備をすること。いざ取材に行って何を聞いていいか分からない、というのは一番困るわけですから、事前に想定される質問を十分に用意しておくことです。一方で、取材やフィールドワークというのは、仮説が正しいことを立証するためのものではない、という点も重要だと思います。

 
取材というのは、最初から「たぶんこうだろう」という結論を決めておいて、その結論を導くためのファクトの積み上げではありません。もしかすると想像したとおりの結論になるかもしれませんが、まったく違う結論になるかもしれない。入念な準備と“先入観”は、時に紙一重です。思い込みは排除する、というのが大切です。

 
そしてもうひとつ、「統計や数字」には注意すること。
たとえば、以前駐在していたタイという国。タイは途上国の中では非常に優等生で、MDGs(SDGsの前進となる開発目標)もほぼすべての項目で基準をクリアしていたわけです。しかし、実際にタイに取材に行くと、少数民族の人たちというのはみんな、きちんとした教育を受けていない。
 
なぜそういうギャップが生まれるかというと、統計というのは“平均値”をとるものだからです。統計だけを見ていても、その平均値の中に入らない人たちのことは見えない。だからこそ、取材を重ねて、見えないところを見ようとする努力が必要なのだと思います。

 
ひとつのことを取材すると、事前に想定していた課題だけでなく、必ず何か新たな課題が見えてきます。SDGsに関してもそれは同じで、事前に想定していた目標だけでない、新たな目標が関わっていることが分かるはずです。

 
ぜひこの機会に、記者と一緒にさまざまな取材をしてみてください。キャンプ最終日の発表を、いまから楽しみにしています。

  • speaker藤谷 健

    朝日新聞社コンテンツ戦略ディレクター

    1987年、国際基督教大学(ICU)卒業後、朝日新聞社入社。在学中、フィリピンの大学に留学。宇都宮、札幌を経て、ロンドン大学東洋アフリカ研究学院(SOAS)で開発学修士。ローマ、ジャカルタ、バンコクに駐在するなど、主に国際報道畑を歩む。途上国の開発問題や日本の国際協力、アジアやアフリカがテーマ。英語のほか、インドネシア語やタイ語を話す。

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