2030 SDGsで変える

フリーターや自営業者、子育て中の主婦にも健診を! 「ワンコイン健診」の創設者が語る、社会課題解決の想い【ビジネスができること】

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

writer

石井徹

朝日新聞編集委員

sdgs_bnr_kiji

 
健康、格差、教育、温暖化……。途上国だけでなく、私たちの住む先進国でも、直面する社会課題は目白押しだ。それを解決する手段として、いま「ビジネス」が主役になりつつある。
国連で決まった「持続可能な開発目標(SDGs)」も、企業の役割を掲げている。企業の果たすべき責任は重いが、その一方で、社会課題の解決はイノベーションや新たな市場を生む機会にもなる。

 
今年2月、社会課題×ビジネスをテーマにしたシンポジウムで、ある企業の社長に出会った。なんでも、500円玉ひとつから受けられる「ワンコイン健診」(※現在の名称は「セルフ健康チェック」)というヘルスケアサービスを提供しているという。
その企業とは、「ケアプロ」。川添高志社長(34)はシンポジウムの中で、「行政の役割として、邪魔しないこと、後押しすること、マッチングの3つがあって、特に私はマッチングが大切だと思う」と語った。

 
社会課題の解決に取り組む企業の現場を訪ねてゆく本連載、「ビジネスにできること」。社長の言葉が印象に残っていた私は、1回目に訪れる企業として、ケアプロを選ばせてもらった。


ケアプロ株式会社

本社・東京都中野区。川添高志社長。従業員約50人。2007年12月に設立、翌年11月セルフ健康チェック中野店オープン、2012年5月には訪問看護ステーション東京をスタートさせる。セルフ健康チェック事業、訪問看護事業、健康データ管理事業を展開している。
企業理念は「革新的なヘルスケアサービスをプロデュースし、健康的な社会づくりに貢献する」
http://carepro.co.jp/

ワンコインでできる「セルフ健康チェック」

中野駅北口のアーケード商店街の突き当たりにある複合ビル「中野ブロードウェイ」。入り組んだ店舗の一角にケアプロ中野店がある。カウンターの前に数席あるだけ。川添社長が2008年11月に開いた第1号店だ。
椅子に座ると、看護師から検査メニューを説明される。血液検査は血糖値500円、貧血などを判別するヘモグロビン量検査3000円、脂質セット3000円、肝機能セット3500円などとなっている。血液以外では、骨密度1000円、血管年齢500円、肺年齢500円……という具合。

 
実際に中野店を訪れた私は、血糖値と血管年齢を調べてもらうことにした。
(記事トップ写真)
測定以外は自分でやるのが基本。血糖値は、針が飛び出す使い捨てタイプの器具で皮膚を刺して、たまごっちのような装置で測定する。血管年齢は指先に光を当てることで測定できる。

 
この間、数分。針を刺すボタンを押すときに一瞬緊張するが、会社で年に2回受ける健康診断とは違って、本当に手軽だ。こういうセルフチェックがあれば、会社の健診以外で頻繁に受けてもいいかもしれない、と思う。私の診断結果は、血糖値は基準値以内、血管年齢は年相応だった。
定年後など、会社の健診がなくなってからは、病院で健診を受けるのを面倒に感じる人も多いはず。これは、とても画期的なサービスだと思った。

健診さえ受けていれば、重症になっていなかったかもしれない患者たちの存在

(住宅展示場でのセルフ健康チェック=2016年10月、ケアプロ提供)

(住宅展示場でのセルフ健康チェック=2016年10月、ケアプロ提供)

 
川添社長の起業のきっかけは、慶応大学看護医療学部時代にアメリカに視察に行ったことだった。
たまたま立ち寄ったスーパーマーケットで、「ミニッツ・クリニック」という簡易的な健診サービスと治療を目にした。アメリカでは保険に入っていない人が多く、医療費も高い。その人たちが健康でいるために、最低限の医療サービスを受けられるビジネスだ。

 
日本でも同じようなビジネスをできないかと思いながら、東京大学病院に勤務した。そこで会った糖尿病の患者のほとんどは、早く病気が見つかっていれば重症になっていない人たちだった。なぜ健康診断を受けなかったのか? そう聞くと、「機会がなかった」「仕事が休めなかった」「お金がかかる」という答えが返ってきた。
日本の医療費は現在、40兆円以上。2025年には54兆円にふくらむという試算もある。その一方で、1年間に1回も健康診断を受けていない人たちは、3600万人にも上る。対症療法から予防医療にシフトすることができれば、国も国民もハッピーになるのでは、と思った。

フリーターや自営業者、子育て中の主婦にも健診を

川添社長が「ワンコイン健診」という名前で会社を立ち上げたのは、2007年12月。約1年後には中野店を開店した。利用者の多くは、子育て中の主婦や病院に行く時間がない自営業者、フリーター、保険証のない外国人など、1年以上健診を受けていない人たちだった。検査をして異常がわかり、そのまま病院に行く人もいた。

 
客も増え、店舗を拡大していった一方で、2店舗の閉鎖も経験した。「訪れる人が思ったよりも少なかったんです」と、落合拓史・予防医療事業部長(29)は言う。赤字では店舗の存続は難しい。しかし、定期的に数日~数週間ずつ臨時に店を出せば、需要もあるし、客の健康管理にも役立つと判断した。常設店舗は現在、中野店と小田急登戸店の2か所だが、首都圏などでは定期的に臨時店をオープンしている。

 
さらに最近では、パチンコ店や競艇・競輪場、住宅展示場、ショッピングセンター、製薬・食品メーカーのイベントなどに出張店を出すことも増えた。中には、喫煙者や生活習慣病予備軍の多いところもある。
出張店の検査料金は、個人ではなく施設側が払う。これまでに全国1500カ所以上で開催し、利用者は約40万人にも上る。

震災をきっかけに、訪問看護事業もスタート

名称未設定3.001

(訪問看護は24時間、365日で対応している=ケアプロ提供)

 
東日本大震災の被災地支援をきっかけに、2012年には訪問看護事業も始めた。
避難所では、体調が悪くても医療機関に通えない人が多かった。仮設住宅では孤独死もあった。
やがて、人生の最期を家でも病院でも迎えられない「看取り難民」という課題は、被災地のみならず、日本全体で起きつつあることを知った。2020年に死亡する140万人のうち、30万人は「看取り難民」になるという予想もある。

 
訪問看護の現在の利用者は約40万人で、訪問看護師は約3万人。利用者は年々増えているのに、訪問看護師は少ないままだ。
訪問看護ステーションの絶対数が足りないだけでなく、夜間や土日祝日に対応できるところがほとんどないことも分かった。そこで、2012年に中野区、翌年に足立区でスタートしたステーションは、24時間、365日対応にした。

 
「夜勤が多い病院に比べれば、ずっと余裕があります」。以前は病院の集中治療室(ICU)で看護師として働いていた前田和哉・在宅医療事業部長(30)は言う。学生時代から訪問看護に関心があったが、ベテラン看護師からは「よほど経験を積まないと無理。新卒に訪看はできない」と言われ続けた。
ケアプロでは、新卒を積極的に採用している。全国の訪問看護師の平均年齢は約50歳なのに、ここでは29歳だ。ふたつのステーションに25人が所属、約300人を訪問看護し、年に約80人を看取っている。昨年亡くなったタレント、作家の永六輔さんもそのひとりだった。

 
2015年には、経済発展とともに生活習慣病が急増しているインドでも、セルフ健康チェックを始めた。10年前にたったひとりで始めたソーシャルビジネスは、国境を越えて広がっている。

 
ビジネスが社会課題の解決に果たすべき役割とは? そう川添社長に聞くと、こんな答えが返ってきた。「社会課題の解決において、ビジネスは『社会課題解決から経済的利益を出す役割』を担っています。私にとってビジネスとは、『倫理かつ合理』です」
                     

社会課題は、ビジネスチャンスだ

ケアプロを取材して、社会課題は「ビジネスチャンス」だと改めて実感した。考えてみれば、家電製品も、あらゆるサービスも、個人や社会の課題を解消するのが目的で市場に投入されるのだから、当たり前と言えば当たり前だけれど。
私も、定年後は病院より、まずケアプロにお世話になりそうだ。

  • writer石井徹

    朝日新聞編集委員

    東京都出身。1985年入社。成田支局員、社会部員、青森総局長などを歴任。97年のCOP3以降、地球温暖化や自然エネルギーを中心に、国内外の環境問題全般について取材・執筆活動を続けている。現在の関心事は、気候変動と経済・金融の関係。

2030 SDGsで変える