2030 SDGsで変える

30年後にもおいしい海の幸を食べるために、東京の小さなレストランが伝えたいこと

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

writer

神田明美

朝日新聞
科学医療部記者

 
「日本にも、とうとうこんなお店ができたね」。そんな風に言われるシーフードレストランが今年5月、東京都世田谷区にオープンしました。

 
そのレストランでは、20代のオーナー兼シェフが、“持続可能性”のお墨付きを受けた漁業や養殖の魚介類を中心にした料理に腕を振るっています。魚介類はわたしたちの食生活に欠かせないものですが、水産資源の枯渇はいまや、世界的な問題になっているのです。果たして、30年後はどうなってしまうのか。そんな不安も感じます。店名の「BLUE(ブルー) 」には、海の恵みをいつまでも食べられるように、という願いが込められています。

メニューには、「持続可能」な漁業でとれた魚介類が並ぶ

④カツオのたたき20170728
▲「BLUE」のカツオのたたき

 
京王線千歳烏山駅の北側に歩いて8分ほど。国道20号線沿いに、「BLUE」はあります。
この夏、5月の開店時以来、久しぶりに友人と訪れました。北海道産ホタテとアスパラガスをグレープフルーツで漬けたマリネ、バルサミコとヨーグルトで味付けしたサラダ風の宮城県産カツオのたたき、タルタルソースが添えられたフィッシュ&チップス、オーストタイガーとマッシュルームのアヒージョ……。オーナー兼シェフの松井大輔さん(27)が考えた料理が並びます。「どれもおいしい!」と友人。こぢんまりとした落ち着いた店内で、しばし料理を楽しみました。

 
この店の特徴は、メニューを見ると一目瞭然。持続可能な漁業、養殖業の魚介類であることを表す、非営利国際団体の「海洋管理協議会(MSC)」(本部・英国)と「水産養殖管理協議会(ASC)」(本部・オランダ)のラベルがついているのです。

 
この認証は、過度な漁獲をしないことや、養殖のエサを持続的な形で生産したものを使うこと、健全な生態系を保つことなどの基準を元に、第三者機関の審査によって得られます。認証魚介類を中心にした個人経営のレストランは、「BLUE」が全国初です。

幼い頃の地引き網体験が、“つくりもの”だった衝撃

①松井さん(右)20170728_
▲右がオーナー兼シェフの松井大輔さん

 
松井さんが店を開こうとしたきっかけは、ふるさと、福井県敦賀市でのとある会話でした。

 
東京の大学を卒業後、そのまま東京でファッション関係の会社に就職。起業しようと2年前に戻った敦賀市で、幼い頃から知る漁師の方に再会した松井さんは、小学生のときの地引き網体験の楽しい思い出を話しました。松井さんの小学校では、地元の漁師が協力して地引き網をするのが恒例だったのです。

 
しかし、返ってきた言葉は衝撃的なものでした。「昔は魚がたくさんいたけれど、松井くんが子どものころはもう地引き網ではとれなくて。明け方に沖でとった魚を、漁師が網に入れていたんだよ」。

 
「え……? どういうこと?」ショックを受けた松井さんは、猛烈に調べました。乱獲などの影響で魚が減っていること。とれないから、卵を産む前の小さな魚をとって、ますますとれなくなっていること……。MSC認証とASC認証の水産物を知り、それらを食材にした店を開きたい、と考えました。

 
さっそくMSC日本事務所に電話すると、事務所の石井幸造さんがすぐに敦賀市にやってきて、認証水産物を仕入れる相談に乗ってくれることに。認証カニやエビ、ホタテのサンドイッチ店を15年末に敦賀市に開いたものの、取扱量が少ない個人経営の店に納入する業者がなかなか見つからず、どうしても魚種ごとに仕入れ先がバラバラになってしまいました。輸送量がかさみ、結局、サンドイッチ店は1年で閉店しました。

「持続可能な水産物を消費者に伝えたい」

⑤アクアパッツァ20170728
▲「BLUE」のアクアパッツァ

 
東京でレストランに衣替えして再スタートすることを決めた松井さん。課題の仕入れ先は、水産大手のマルハニチロ(東京)がさまざまな魚種をそろえてくれることになりました。同社の高野陽介さんは「持続可能な水産物を消費者に伝えたい。レストランは消費者との距離が近いので、伝えられる場になると思います」と期待を寄せます。

 
「BLUE」のメニューの中で、MSC認証とASC認証のラベルがついたものは8種類。認証魚介類が8割を占めています。そのほかの魚介類も、珍しいため食べられないまま捨てられていた魚を飲食店に卸している「食一」(京都市)から仕入れるなど、できる限り持続可能性に配慮しています。

 
たとえば、そのときどきの材料で作ってくれるアクアパッツァ。中には認証魚介類以外も入っているためメニューにラベルはついていませんが、訪れた日のアクアパッツァは、アサリ以外のタラとオマールエビはMSC認証を受けたものでした。

海の恵みを、未来まで枯渇させないために

 
環境NGO「WWFジャパン」の助言で、「持続可能な調達方針」作りもしています。
世界の漁獲量は、1950年代には年間2千万トン未満でしたが、増えていき80年代に8千万~9千万トン前後に。90年代に頭打ちとなり、2014年には9340万トンになっています。

 
国連食糧農業機関(FAO)の白書で、「乱獲」の状態にある海の漁業資源も、1974年は約10%だったのに、14年には31.4%に。「違法・無報告・無規制」の英語の頭文字をとった「IUU漁業」も問題化しています。

 
SDGsでは、乱獲や無規制な漁業をやめることを目標に掲げています。
枯渇が進めば、海の恵みもいまのようには食べられなくなってしまう未来が来るかもしれません。松井さんが開いた1軒のレストランが発信するメッセージを、しっかりと受け止めたいと思います。

  • writer神田明美

    朝日新聞
    科学医療部記者

    1992年、朝日新聞社入社。社会部、文化くらし報道部などを経て、2014年から科学医療部。約10年にわたり、生物多様性、森林、気候変動、廃棄物など、環境分野を幅広く取材。

2030 SDGsで変える