解決策を探る

システム思考・デザイン思考×取材・フィールドワーク ― 記者と参加者が生み出す社会課題の解決法「未来メディアキャンプ」2日目

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「ともに考え、ともにつくる」朝日新聞の掲げるコンセプトのもと、記者が着目した社会課題について、記者と一般参加者とが議論しソリューションを探すワークショップ、『未来メディアキャンプ』(主催:朝日新聞社 特別協力:慶應義塾大学SDM研究科 協力:Think the Earth)の第2日目が慶應義塾大学・三田キャンパスで2016年12月17日、開催された。

 
第1日目(2016年10月30日)から第2日目(2016年12月17日)までの約1ヶ月半で、7つの社会課題に取り組む7チームは、それぞれ複数回のチームミーティングに加え、知見を深め、仮説を検証するためのフィールドワークを実施した。
フィールドワークの一つとして各チームが実施したインタビューの対象は、大学教授や学生、議員、お笑い芸人、NPO団体、ベンチャー企業などなど、バラエティに富んだ。

 
2日目は各チームがフィールドワークの実施内容を共有することからスタートした。1日目の最後に発表したアイデアと比較すると、どのチームのアイデアも顧客提供価値や具体性が高まっている。フィールドワークを経て、仮説がより洗練されている印象だ。設定していた仮説がフィールドワークの序盤で崩れたり、終盤まで順調に進み最後のインタビューで仮説がひっくり返ったりと、実地でしか得られない生きた情報には、多くの学びがあったようだ。
アイデアの最終発表に向けて、課題解決のアイデアを拡張し目的や価値を再確認するためのバリューグラフや、ステークホルダー分析、カスターマージャーニーマップといったツールを活用した議論が進められ、2日目も仮説検証は続く。参加者同士が初対面で、慶應義塾大学SDM研究科の学生が各チームのメンターとして議論をリードすることが多かった1日目からは打って変わり、フィールドワークや議論を重ねた2日目は、チームに一体感が感じられた。議論の進行役、議事録作成、最終発表に向けてのスライド作成などそれぞれが自然と役割を買って出る。

 
チーム代表によるくじ引きにより最終発表の順番を決定した後、3名の審査員(博報堂ケトル代表取締役社長・嶋 浩一郎氏、ハフィントンポスト 日本版編集長・竹下隆一郎氏、朝日新聞メディアラボプロデューサー・中西知子氏) を迎え、7チームの最終発表が行われた。

 
【目次】

審査のポイントは、「革新性」「実現・実効性」「メディア活用」の3点

主権者教育と学校を結ぶプラットフォーム

AIを体験し、AIへの理解を深める。さらには人工知能サポートロボットへ

がん患者と一緒に歩む第一歩。御見舞で持っていくカタログギフト

【クリエイティブ賞】外国人へのおもてなしで生み出す『防災ブーム』

【ソリューション賞】認知症の方が他者とつながり、活き活きと生活するプラットフォーム

【メディア賞】戦争情報を、「モノ」にすることで自分ごと化

【未来メディアキャンプ賞】AI×ホログラムでニュースを「自分ごと化」し身近なものに。

1ヶ月半以上の未来メディアキャンプを終えて

審査のポイントは、「革新性」「実現・実効性」「メディア活用」の3点

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最終発表の審査は、課題の本質に対して「革新性はあるか」「実現・実効性は高いか」「メディアを有効に活用できているか」の3つのポイントが重視される。別室で行われた審査会では、「もっと課題に対して切実に解決したい気持ちがあっても良かったのではないか」「プラットフォームなど仕組みを作って、そこからどうやって成長させるかの具体性が欲しかった」など、日頃から課題に向き合い解決している審査員3名だからこその発言もでた。

 
「クリエイティブはディテールに宿る。その意味ではアイデアの実現性に加えて、ディテールまで想像ができたアイデアは評価できた」と嶋氏。
「粗い部分もあるが“その手があったか!!”と思わせる革新的なアイデアが出てきたのは良かった」と竹下氏。
「今回の7テーマはそれぞれ難しいテーマだった。その難しいテーマを如何に人に広められるか?もっと詳細を詰める必要があるものもありましたが、面白さがありました」と中西氏。

 
審査は、メディアの概念をどう捉えるかの話まで及び、白熱する。

 
7チームのアイデアへの審査の結果、各賞が決まった。ここからは、各チームの最終発表の内容と【クリエイティブ賞】【ソリューション賞】【メディア賞】【未来メディアキャンプ賞】の各賞を紹介しよう。

主権者教育と学校を結ぶプラットフォーム
チーム:よせなべ

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19歳を政治参加させるにはどうアプローチすればよいか。フィールドワークでは国会議員、主権者教育に力をいれるお笑い芸人、たかまつななさんにもインタビューを実施したという。
政治参加=投票することと定義し、投票率が上がらない理由は2つに整理する。「主権者教育を実施する団体や機関と学校をつなぐパイプがないこと」、「主権者教育が整理されていないこと」だ。
こうした課題設定を踏まえ、「よせなべ」は支援者教育と学校を結ぶ、整理されたプラットフォ―ム『ポリケ』をつくり、教育関連の企業から協賛や広告でマネタイズすることを提案した。
審査員の嶋氏からは、「課題の見極めはよくできていたが、プラットフォームを作ったあとの人の流れ、人が集まる具体的なイメージがもっとあると良かった」とフィードバックをする。

AIを体験し、AIへの理解を深める。さらには人工知能サポートロボットへ
チーム:恋AIZAP

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第1日目で、AIの有効活用には「恋愛」と考えたチーム「恋AIZAP」。しかしフィールドワークの有識者と学生へのインタビューから、課題は「一般層の人工知能への理解が少ないこと」にあるという結論に至ったという。一般層は「AIが人間の代替となること」への漠然とした恐怖がある、と課題を定義した。解決のアイデアは、AIのEXPOを実施し、体験しながらAIを正しく知る機会をつくる、というものだ。さらに、多くの人がAIを体験することで膨大な『教師データ』と呼ばれるビッグデータが蓄積され、最終的にはパーソナライズ化された『人工知能サポートロボット』を作ること、と発表する。
審査員の中西氏からは、「飛んでるアイデア」と、その革新性が高く評価された。

がん患者と一緒に歩む第一歩。お見舞いで持っていくカタログギフト
チーム:with

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がんにはネガティブなイメージがある。自分の身近な人ががんになった場合を想像して欲しい。がんにかかってしまった人と、どう付き合って良いか分からないのでは。「with」では、これこそが課題だと考えた。がん患者と周囲の人の気持の乖離をなくすためのアイデアが、御見舞で持っていくカタログギフト『with you』がwithの考える課題解決手法だ。
例えば食道がんなどでは、食べることに時間がかかり、さらに食べられるものも限られる。こうした患者の状態にもフィットするメニューやレストランをカタログギフトとして掲載し、ギフトの送り手と患者がともに体験することで、がんと共に歩み、付き合い方を探して欲しいと願いを込めた。

 
他のキャンプ参加者からは、「なぜ紙のカタログなのか」という質問もあったが、冊子ならばお見舞いで持っていくことができ、年齢が高い人が多いので、紙の方が利便性が高いと回答する。
中西氏からは、これまでの取材経験から、患者さんによっては優しい言葉を嫌がる傾向もあるとアドバイスする。

【クリエイティブ賞】外国人へのおもてなしで生み出す『防災ブーム』
チーム:1点GO

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「ピーッ」と全員でホイッスルを吹くことから発表が始まったのが、チーム「1点GO」。フィールドワークでインタビューした、防災を広める団体『防災ガール』から贈られた、ホイッスル付きのパラコ―ドミサンガなのだそうだ。一般の人、特に若い世代は防災の意識は高くない。そこで『防災ブーム』を作ることを目指したのが「1点GO」だ。
サービスのターゲットをあえて外国人に設定。待ち時間の長いLCCで来日した外国人に空港で起震車によって地震を体験してもらうという、体験型イベントを提案した。
ポイントは、参加者用のコスプレアイテムなど、外国人が興味を持ちそうなものを起震車に設置し、SNSでの拡散を狙うこと。まずは海外で広げ、それを逆輸入しブームを起こすのが狙いだ。
審査員の竹下氏からの「怖いものをコンテンツにする発想はどこから生まれたのか」という質問に、災害コンテンツは溢れているが、総じて面白くない。「揺れながらラーメンを食べる」などあえてゲーム要素をいれることを考えたと答えた。
嶋氏は、「企画はリアリティが大切で、このアイデアは人が動きそうだと想像できた。」と評価。課題の解決手段がアイデアフルだったことを受けて、見事【クリエイティブ賞】を受賞した。

【ソリューション賞】認知症の方が他者とつながり、活き活きと生活するプラットフォーム
チーム:ワクワク

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フィールドワークで実際に認知症の方に話を聞くと、認知症になったことで外出の機会が減り引きこもる傾向があることがわかった。他の認知症になった方の情報が得られる場や、認知症でも参加できるコミュニティなど、認知症についての情報が、患者にとって重要であると課題を設定した。
そこで、認知症をサポートする団体や活動の場と、認知症の方をつなぐプラットフォームをつくり、他者とのつながりから引きこもり社会と断絶することを回避するというのが、「ワクワク」の生み出したアイデアだ。

 
「病気の人は同じ境遇の人と関わりたいと感じていることは、これまでの経験からもわかっている。ぜひ実現して欲しい。認知症は社会的にネガティブなイメージがあるので、人とつなげていくことが重要。年齢層的にwebへの親和性はネックとなる。」と中西氏は述べた。クラウドファンディング『A—PORT』などを活用することで、実現性も高いことから、【ソリューション賞】を受賞した。

【メディア賞】戦争情報を、「モノ」にすることで自分ごと化
チーム名:脱平和ボケ

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戦争体験の風化や戦争世代の高齢化、戦争体験情報の埋没によって、戦争が継承されない。その原因を「無関心」と定義する。
押し付けがましくては無関心層には届かない。そこで「脱平和ボケ」は、自分ごと化のために、「モノ」に置き換えるアイデアを生み出した。戦没者の形見など戦争資料をリデザインしてモノにし、戦争の資料や映像と一緒に届けるサービス『Re-Prayer』を提案する。戦争体験者の父の形見の時計と戦時中の写真資料から、リデザインされた時計と映像を作成。それを自身の子どもにお祝いなどで渡すことで戦争を継承する。その具体例をスキット(寸劇)を織り交ぜ発表を行った。

 
「家族の中で歴史を引き継ぐのは良い企画」と嶋氏。「戦争というダークサイドの部分をモノにすることで軽やかにしながらも、深く突っ込めるのは新しいメディアの形。あとスキットは面白かった。」と竹下氏。
従来の型にとらわれず、メディアを広義に解釈したアプローチが評価され【メディア賞】を受賞した。

【未来メディアキャンプ賞】ニュースを“体感”するカフェ
チーム:BUZZREACH

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ニュースを読んでいない、TVも見ない、アプリも入れていない。深掘りすると「ニュ―スが身近でないこと」が課題として浮き彫りになり、ニュースの自分ごと化が解決の鍵と「BUZZREACH」は考えた。カフェでAIとホログラムを利用して、人型のホログラムが専属ウエイターとして自分の行動に対してニュースを教えてくれる、というのが、解決として生み出されたアイデアだ。ハイテクニュースカフェによって、ニュースを身近にし、自分ごと化するのが狙い。例えばコーヒーを飲んでいる時に、「そのコーヒーはアメリカ産だけど、円安の影響でコーヒーが値上がりするかもしれない」とホログラムが教えてくれて、ニュースに接する機会が増える、という展開だ。
嶋氏は、「確かに、“どんな”ニュースかもさることながら、“誰が”ニュースを伝えるかも大事」と、チームの着眼点を評価する。もしこれが機能するなら、自身が運営に関わる書店にも置きたいともコメントした。
このアイデアは、会場アンケートで最多投票を獲得し、見事【未来メディアキャンプ賞】を受賞した。

1ヶ月半以上の未来メディアキャンプで得られたもの

 
長期にわたる未来メディアキャンプを経て、参加者は一体どのような学びを得たのだろうか。【クリエイティブ賞】を受賞した、チーム「1点GO」の3名に聞いた。

 
「防災ブームをつくるには」の課題を設定した、朝日新聞の黒沢記者はこう振り返る。

 
camp2_image10「防災は熱心な人はいますが、半面、全く無関心な人もいます。そんな人の心を動かすのはブームしかないと思っています。キャンプは異業種の意見や考えが聞ける場と考えていたので、できる限り“誘導しない”ことを心がけました。チームメンバーはホテルで働いている方、メーカー勤務、学生といったバラエティに富んだ面々です。LCCのトランジットで待ち時間が長い外国人が多いとか、若い人のブームは海外から来るといった、その人ならではのアイデアが議論できたことは実りがあったと思います」。

 
チームリーダーを務め、みんなを引っ張った浅井さんは良いアイデアが生まれた秘訣を語った。

 
camp2_image11「フィールドワークはどうしても時間が合わない人も出てしまいます。ですから、リーダーとしてはメンバーのモチベーションを低下させないことが重要でした。毎週webミーティングを実施して、フィールドワークの結果の共有や議論を継続することを徹底したんです。

 
最初は日本人向けのアイデアを考えていたのですが、最後のミーティングでチームメイトの学生からハロウィンなどの話が出てきて、外国人をターゲットにするアイデアが生まれました。今日の発表前の議論で、詳細が固まっていきました。ステークホルダー分析で新たな発見もありました」。

 
大学で河川の歴史を研究する肥田野さんは、フィールドワークに学びが多かったと振り返る。

 
camp2_image12「私は被災の経験もなく、このチームで一番防災への問題意識が低いメンバーだったと思います。議論に参加できないときもあり、自身に課題を感じながら参加していましたが、フィールドワークのために自身で考え動いたことで多くの学びがありました。あとは、浅井さんのリーダー能力の高さに支えられた面もあるので、リーダーシップの重要性も感じました。今後は自分で考え動くことを実践していきたいと思っています」。

 
3名それぞれが得るものがあったと、キャンプを振り返る。
昨年は参加者として賞を受賞し、今年は審査員を務めた竹下氏は、このキャンプでの学びは、今の仕事の中でも活用できることばかりだと強調する。今回の参加者も経験を活かし、社会課題の解決、業務や学業にキャンプの経験をどう活かしていくのか今後に期待したい。

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