解決策を探る

「社会課題なんて解決できないと思っていたけど、そうじゃないと気づいた」。イノベーション・キャンプの参加者が語る

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「社会課題」について、参加者と記者がともに本質を探り、解決アイデア創出を目指すワークショップ「未来メディア塾 イノベーション・キャンプ」が14日、東京・秋葉原のイベントホールで開かれた。

 
参加したのは、金融やメーカー、IT、コンサル、NPO、自治体など業界も職種も異なる20~40歳代の社会人や学生約50人。慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科の神武直彦准教授をモデレーターに迎え、システム思考やデザイン思考を用いて議論した。多様なスキルと知恵がぶつかりあった丸2日間のワークショップと3週間のフィールドワーク。「社会課題の解決、自分もできるかも」「アイデア創出の手法、仕事に生かしたい」。参加者たちはそれぞれ、身近な社会課題の解決に向けた手応えを感じていた。

課題の本質議論、素朴な問いかけと記者の知識が突破口に

ワークショップは、記者を含む6人1チームに分かれて進んだ。IT企業でニュース・サイトの運営に携わっている田中勝利さん(26)は、世論調査部の山下剛記者が提示した「低投票率と若者の政治参加」のチームを選んだ。選挙に一度も行ったことがない友人が多く、一番リアリティを感じられる課題だったからだ。

 
もともと、キャンプに参加した理由は「日々の仕事では運営に追われ、本来は解決したい課題が置き去りになっている。そこを突破する方法を探していた」。社会課題に大きな興味があったわけではなかった。

 
1日目は、神武先生が次々と議論の手法を示すのに沿って、課題の本質や20年後にどうなるとよいかを話した。「海外では投票を義務にしている国もある」「若い人の票の価値を2倍にしてはどうか」。アイデアや実例が続く。そこへ、チームで唯一人、選挙に行かないというメンバーが「楽しめる方法はないのかな?」と素朴な問いを投げた。山下記者は、2年前の参院選で歌や踊りを交えた「選挙フェス」を開いた候補者がいたことを思い出して紹介した。メンバーの発想が切り替わった。「投票日に同窓会やるのはどう?」「SNSでアイコンが変化するとか?」。法律や義務化が解決策になると考えていた田中さんは、それらの意見にハッとした。「説得ではない方法もあると気付いた」。とらえ方の幅が広がった。

半信半疑のアイデア、取材とアンケートで議論が活発に

一方で、「選挙同窓会」というアイデアは、自ら選挙に足を運び政治にも関心があるメンバーにとっては、半信半疑だった。投票率を上げるための取り組みは、実際にはどんな対策が行われているのか、同窓会のニーズはあるのか――。キャンプ2日目までの3週間、メンバーは、総務省や選挙関連NPOに取材に行ったり、周りの人たちにアンケートをしたり、記事データベースや官公庁のサイトなどを調べた。

 
「投票日に同窓会があるなら行く」と答えた人は、予想外に多かった。「最初は疑問に思っていた解決策だったが、アンケート結果で裏付けられ考え方が変わった」。田中さんは、いろいろな職種の人と解決策を探る魅力を感じた。

 
アンケート作成や取材の場面で、記者のノウハウからも学びがあったという。「僕は取材相手の話に納得してしまいがちでしたが、山下記者は、角度を変えた質問や反論をぶつけて、相手の意見をより深く引き出していた」。NPOの代表に自分たちのアイデアをぶつけると、「ともかく1回投票所に足を運んでもらうのは大事」と言ってくれた。チームは、フィールドワーク期間中も議論を重ね、2日目に臨んだ。

 
最終のアイデア発表を終えた田中さんは「思っていた以上のものが得られた。問題を発見して、様々な観点から深掘りし、解決策の検証もする。それを多様なメンバーで行うプロセス全体が学びだった。ぜひ、自分の仕事に活かしたい」と語った。

社会課題なんて自分たちに解決できないと思っていたけど「できるかも」

求人関連サイトで求人広告作成に携わっている30歳代の東出りささんは「ワークライフ・アンバランスを超える」をテーマにした岡林佐和記者のグループに参加した。

 
応募のきっかけは、たまたま告知記事を見たことだった。「新聞がどうやって社会課題を解決するんだろう?」という疑問と同時に、新聞社のアーカイブをどう使うのかに興味がわいた。見学気分で参加申し込みをした。

 
ワークショップは、数十分単位で細かく区切られた時間割の中、追い立てられるように議論・整理・検証等のプロセスをこなすことが求められた。2日目の最後にプレゼンテーションも行うハードスケジュールだったが、短時間で活発な議論が可能になる洗練された方法論に加え、「他者への共感力が高い人ばかりで学ぶことが多かった」と話す。

 
チームは、課題を解決するソリューションとして、「仕事や家事の見える化」をする「ミエールめがね」というウエアラブルツールを提案した。フィールドワーク期間中には、記者と一緒に先進的な企業を取材したり、記事データベースを使って課題を調べたりした。「同じことを調べるのに、インターネットより新聞社の記事データベースを使う方がはるかに効率的で速いと感じた。新聞社の記事は『情報の濃度』が違う。取材に裏打ちされた密度に改めて気付かされた」という。終了後、他のチームのメンバーと「社会課題なんて自分たちには解決できないって思っていたけど、自分たちでもできるかもって思えるようになった」と互いに話したという。

 
2日目のワークショップを終えた東出さんの口からは「楽しかった」「元気をもらった」「ストレス発散になった」といった言葉が飛び出した。職場では、言いたいことがなかなか言えないこともある。でも、「こういう場を作って上手くストレスを解消できれば、会社も社会も少しずつ良くしていけるのかなと思えるようになりました。明日からすぐに何ができるかと言われると実際には難しいですが…」。言葉を選びながら答えた。

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