解決策を探る

横浜の課題解決に挑む意味【対談1/2】

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speaker

神武直彦

慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科准教授

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嶋浩一郎

博報堂ケトル代表取締役社長 編集者・クリエイティブディレクター・書店経営者

横浜市を舞台に10月22日、11月19日に開かれる「未来メディアキャンプ2017」。モデレーターの神武直彦・慶應義塾大大学院SDM研究科准教授と、「本屋大賞」の仕掛け人として知られ、前回に続いて審査員を務める嶋浩一郎・博報堂ケトル代表取締役社長が対談した。今回のキャンプは横浜市と連携し、そこで直面する社会課題の解決に焦点を絞っているのが特徴だ。さまざまなバックグラウンドと経験を持つ参加者と、取材に基づく豊富なデータを持つ朝日新聞記者との議論がシステム思考とデザイン思考を取り入れたプロセスによってどんな化学反応を起こし、新たなアイデアを生むか。2人の期待は大きい。

横浜市に特定し課題解決のリアリティーが増す

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神武 4回目となる今回のキャンプは、場所を「横浜市」に特定して七つの課題に取り組みます。これまでは全国から参加者が集まって少子高齢化とかワーク・ライフ・バランスといった課題解決の方法を議論しても、「誰が、いつ、どうやってやるか」はお任せでした。それが横浜市と対象地域が明確になることで、より具体的に議論できるところが大きいですね。

 
嶋 横浜市の課題って何でしょう? たくさんあるんでしょうね。日本は課題大国ですから。

 
神武 例えば、横浜市の子どもの運動能力は全体的に見ると全国平均より低いんです。高そうですけど、実はスポーツする場所があんまりない。公園に行ってもボール遊び禁止、走っちゃだめとか書いてある。

 
嶋 それは意外ですね。

 
神武 待機児童問題もあるし、2019年ラグビーワールドカップは横浜で決勝戦が開かれ、オリンピック・パラリンピックもあります。市側からは、「横浜市にはこういう課題があります」と具体的に示して頂き、そこから議論を経て、今回取り組む7つの課題を設定しました。

 
嶋 審査に市の人も入るんですか。

 
神武 そうです。

 
嶋 リアリティー、本気度が増しますね。そもそも、どうしてこのプロジェクトを朝日新聞と組んでやることになったのですか?

 
神武 朝日新聞は報道だけでなく課題解決を支援するメディアになると標榜(ひょうぼう)していますよね。今年で開設10年目になる私たちの大学院も、システム思考とデザイン思考とマネジメントとを組み合わせていろんな社会課題を解決しようとしています。読者と共に自由にいろんな取り組みをしたいという相談を頂いて、一緒にやりたいと思ったのがきっかけです。キャンプの参加者は最近では7割くらいが社会人ですね。

 
嶋 世の中の課題解決を行政だけじゃなくて、企業や社会人、学生を集めてやろうという機運が高まってきていますが、これはどうしてでしょうか?

 
神武 二つの側面があると思います。一つはボトムアップ的な取り組みがしやすい条件が揃ってきたということ。もう一つは、行政だけですべてができなくなって、オープンガバメントとも言いますが、できるだけいろんな人にやってもらいたいという流れが出て、やりたいという人が増えたのではないかと思います。

 
嶋 得意な人や好きな人がやったほうがいいですもんね。興味があって、好きな人がその人のモチベーションで課題解決した方が世の中、よくなるんじゃないでしょうか。そのほうが、長続きできそうですしね。

答えはあさっての方向からやってくる

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嶋 まだ言語化されていないけれど、多くの人が「こうなったらいいな」と思う気持ちってあります。マーケティング用語で「インサイト」といいますが、このインサイトを先回りしてとらえると、いろんな企画や人が動いていく。僕も立ち上げメンバーのひとりである「本屋大賞」は、書店員のインサイトをとらえた出版不況の課題解決の一例と言えると思います。

 
「本屋大賞」は作ろうと思って作ったのではありません。どうやったら出版不況を解決できるのかを考えていた時、何人かの本屋さんが「なんで直木賞はこの本なんだ」と文句を言っているのを聞いたのがきっかけでした。

 
僕は、文句は欲望とニアリーイコールの感情だと思っています。つまり、本屋さんが言っている文句には「僕には直木賞以外にも売りたい本がある」という欲望が隠れている。それを最大限かなえてあげれば、人って気持ちよく動いてくれる。「やりたい」という気持ちを大事にして、みんなが得する状況を作り出すということを「本屋大賞」で体験しました。

 
課題解決の答えはあさっての方向からやってくると、僕はいつも思っています。一見関係のなさそうなところで得た情報が役立つ、ですから課題解決には多様な視点が必要だと思っています。

 
神武 システムデザインの観点で考えると、自分が売りたい本を売れるような仕組みを実現するシステムを実現することが目的だとすると、そのためのいろんな人が解きたくてワクワクする問いを設定することがとても大事だと思います。

 
嶋 その言葉、いただきって感じです(笑)。いろんな人が解きたくてワクワクする問いの設定っていいですね。それは、まさにインサイトの発見ですね。

「やりたいこと」の本質的な理解が必要

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神武 インサイトをとらえて、本屋大賞に至った経緯はどういうものでしたか?
 

嶋 すごくシンプルです。本屋さんが自分が売りたい本を売れる状況をつくっただけです。もちろん、そこには様々な障壁があるわけですが。インサイトさえ明確になれば、それを100%かなえることを素直にやればいい。でも、人が本当にどう思っているかは、グループインタビューやアンケートでは絶対出てこない。対象を観察して、深く掘って、本質的に人がどう思っているかを観察することが大事です。

 
神武 授業で話すたとえ話ですが、タイヤにひもがついて木にぶら下がっているブランコが欲しい人がいる。でも、何が欲しいかと聞かれると、その人はうまく言語化して他の人に伝えられなくて、木の板にひもがついて木にぶら下がっているものが欲しいと言ってしまう。それを聞いた別の人は、空想を膨らませて、ソファだと思ってしまう。そして、最後には、誰も欲しくないブランコのようなものが出来上がってしまいます。こういった思い違いをどのように解決すればいいのでしょうか。

 
嶋 同じような話で、ファミレスのドリンクバーについて思っていることがあります。ドリンクバーって、いろんな種類の飲み物をいくらでも飲める。合理的でとてもいいシステムだと思われるかもしれない。でも、いまシニア世代の人たちは大挙してコメダ珈琲に行く。僕が想像するにドリンクバーが面倒くさいからだと思うんですよね。シニアの人はいったん座ったら座ったままで、全部サービスしてほしいと思っている。その人たちが喫茶店に来るとき、本当にやりたいことは何なのかという本質的な気持ちを理解しないと、すれ違ってしまうのではないかと思います。
 
対談連載:後編はこちらへ

  • speaker神武直彦

    慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科准教授

    大学卒業後、1998年に宇宙開発事業団入社。H-IIAロケットの研究開発と打ち上げおよび国際宇宙ステーションプログラムにおけるNASAや欧州宇宙機関(ESA)との国際連携に従事。ESA研究員、宇宙航空研究開発機構主任開発員を経て2009年より現職。専門は社会技術システムのデザインとマネジメントやイノベーティブなサービス創出のためのプロセス・環境構築。一般社団法人GESTISS(宇宙・地理空間技術による革新的ソーシャルサービス・コンソーシアム)理事。アジア工科大学大学院客員准教授。

  • speaker嶋浩一郎

    博報堂ケトル代表取締役社長 編集者・クリエイティブディレクター・書店経営者

    93年博報堂入社。コーポレートコミュニケーション局で企業の情報戦略にたずさわる。01年朝日新聞社出向、スターバックスコーヒーで販売された若者向けタブロイド紙「seven」編集ディレクター。02~04年博報堂刊「広告」編集長。04年本屋大賞立ち上げに参画、現在本屋大賞実行委員会理事。06年既存の手法に縛られない課題解決を目指しクリエイティブエージェンシー博報堂ケトルを設立。主な仕事、資生堂、KDDI,J-WAVEなど。
    太田出版のカルチャー誌「ケトル」編集長などコンテンツ制作にも注力。
    2012年東京下北沢にブックコーディネーターの内沼慎太郎と本屋B&B開業。

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