社会課題を語り合う

長野において、山は1つの経営資源でもある。登山家、モデル、知事とみんなで国民の祝日、「山の日」を盛り上げる(2/2)

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野口 健

登山家

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山口 孝

㈱涸沢ヒュッテ代表取締役、北アルプス南部地区山岳遭難防止対策協会救助隊長

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仲川 希良

モデル、フィールドナビゲーター

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阿部 守一

長野県知事

7月3日、長野県松本市のキッセイ文化ホールで「信州山岳サミット」(長野県主催)が開催された。今年から8月11日が国民の祝日「山の日」に制定されたことを記念して開かれたもので、朝日新聞のメディアカフェvol.9「『山の日』を語ろう」の関連イベントとして同じ日の午後に開かれた。会場には地元の高校・大学の山岳部の学生をはじめ、多くの県民が集まった。

 
登山家・野口健さんの講演や、山の専門家や山を愛するモデルに阿部守一長野県知事などを交えたパネルディスカッションを通し、信州の山々の魅力や登山を安全に楽しむ方法などについて話し合ったほか、午前の未来メディアカフェで学生たちが考えた山に関する課題解決アイデアも提言として発表された。

 
※ 前編からつづく。

 

山をキレイにしたいなら、北陸の名山、白山に学べ

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鈴木教授:山の恵みに感謝する日でもある「山の日」。山の恵みである自然環境をどう守りながら、次の世代へ残していくかということについてご意見をお聞かせいただければと!

 
野口健:信州の山ではありませんが、以前、白山(日本の北陸地方、白山国立公園内の石川県白山市と岐阜県大野郡白川村にまたがる山)へ登った時にこんな経験をしました。

ゴミ一つ落ちていないなぁと感心しながら私が登っていくと、下りてくるほとんどの人が「ようこそ〜」と声を掛けてくるんです(笑)。他の山では「こんにちは〜」「どうも〜」ですよね?

 
不思議に思って、山小屋の親父さんに聞いたところ、白山の登山者は県内の人が多いため、ゴミが落ちていると皆さん、自然に拾うらしいんです。「ようこそ」という言葉には「私たちの白山やようこそ」という思いが込められていた。地元の人に愛されている山はゴミも落ちていないし、きれいな山が多いのだなぁ、と感銘を受けましたね。

 
ヒュッテ山口:白山、すごいですね!ちなみに上高地にも山小屋や宿泊関係者らで作る「上高地を美しくする会」があり、みんなでゴミ拾い登山を続けています。

設立から50年以上たった今では、上高地から穂高にかけてはもうほとんどゴミはありません。山小屋のゴミ焼却施設やトイレも環境に優しいものに整備されているため、北アルプスでは問題がなくなってきていると思います。

私自身、山の自然環境を守るためには登山道の整備が一番大事ではないかと思っています。登山道が綺麗に整備されていれば、そこから踏み出してまで高山植物を盗ろうとする人はいない。なので、今の私の主な仕事は登山道の修理です。

 
阿部知事:長野県の登山安全条例の中でも、山岳環境の保全をしっかりやっていくという方針を立てています。県内には現在、整備を必要とする場所が300箇所あり、これについては去年から計画的に整備を進めています。

 
同時に「山の日」関連イベントとして「みんなで信州の山岳を守ろう」キャンペーンを実施します。これは、一般の登山者の皆さんの協力を得ながら山の保全や登山道の整備を進めようというものです。

 
仲川希良:山に登ることの良さの一つに、その土地との繋がりが感じられるようになることがあると私は思っています。中秋の名月に合わせて槍ヶ岳に登って以来、東京で月を見るたびに槍ヶ岳を思い出していますね。

登山はもちろんですが、これからも信州の山を楽しみたい私としては、カヤックやサイクリングなど登山以外のアクティビティをもっとアピールしていただきたいと思います!

 

山好きな地元学生による公開討議は白熱!

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鈴木教授:ここからは、本日午前中に行われた朝日新聞社主催「未来メディアカフェ」で、地元の高校生と大学生53名がワークショップを通じて考えた、山をめぐる課題解決のためのアイデアを県への提言として発表していただきます。

 
【学生からの提案①】
若者が山へ行きたくなる仕掛けとして、テント場での学割制度を提案します。最近テント場の料金が値上げされ、若者の負担が大きくなっています。一人1テントで宿泊する“マイテント”が増え、テント場のスペースがなくなり困っているという話も耳にするので、マイテントを除くという条件で県から補助金を出していただくなどして、学割制度を作っていただけないでしょうか。

 
ヒュッテ山口:若者の負担を軽くしたいとは思いますが、人が増えるとトイレ使用量や水の利用料などの負担が大きくなり、正直なところ、テント場の料金を上げざるを得ないという状況があります。

 
阿部知事:県としても対策を考えたいが、税金には限りがあります。補助金の前に他に何かできることはないか、私たちと一緒に考えていきましょう。

 
【学生からの提案②】
私たちは安全登山のための啓蒙活動において私たちに何ができるか、というテーマで話し合いました。そこで出たのが登山アプリの開発です。登山計画書を簡単に警察などに提出するサイトはすでにあるようなので、遭難事故や危険箇所の情報、実際に登った私たち学生の登山計画や現場の声などを一覧できるアプリを作るという意見が出ました。

 
仲川希良:私も登山計画を立てる際、ネットで情報を得ることが多いので、そういう情報が一覧できるアプリがあったら便利だと思います。

 
阿部知事:今、山に関するいろんなサイトがあります。そういったサイトを県から紹介することも可能なので、さすが信州大学と言われるようなアイデアを提案してみてください。

 
【学生からの提案③】
自分の登山技術のレベルに合った山が選べる「ステップアップ百名山」を提案します。組織に所属せず、単独で登山をする人が登山技術を学ぶ場所をどう作っていけばよいか、という議論の中で出てきたアイデアです。ステップ毎に身につけるべき技術や装備がひと目でわかるものを県のホームページなどに掲載してはどうでしょうか?

 
野口健:組織に所属していると山の先輩が無謀な計画のストッパーになってくれますが、個人で登山をする人にはそういうストッパーがないため遭難するケースもあるようなので、それを防止するためにも、これはすごくいいアイデアだと思います。

 
阿部知事:百名山だと他の県の山に行ってしまわれる方も出てくるので、できれば「ステップアップ信州百名山」にしてほしい(笑)。アイデアとしてはとてもいいと思うので、ぜひ検討させていただきます!

 
【学生からの提案④】
山岳地帯の自然を守るためには、やはりエコツアーが有効だという意見が多く出ました。たとえば県が主催し、私たちのような学生や一般の山岳会の人が協力するという形でゴミ拾いなどのエコツアーを開催できないでしょうか?

 
野口健:関心のない人たちにどうやって活動を広げていくか、が課題だと思います。ゴミ拾いをきっかけにして、どうすれば自分たちの山を守っていけるかという仕組みづくりにまで踏み込んで話し合ってみてほしい。 阿部 山を守るという観点ではゴミ拾いだけでなく、他にも多くの課題があります。今後はぜひ信州大学と包括的提携をさせてもらって、学生の皆さんと一緒に信州の山について考えていきたいと思います。

 

長野において、山は地元活性化の“キーファクター”。

この後、会場の参加者からも、
「学校登山は地元の子どもたちに信州の山の素晴らしさを広めるにはいい機会。もっと活用してはどうか」
「日本登山会の認定山岳医制度を有効活用する方法はないか」
「大町にある長野県山岳総合センターを全国てきにPRした方が良いのでは」
「飯盒(はんごう)でご飯を炊いたり、テントを張ったり、アウトドアを学ぶ機会を中学や高校で作るのはどうか」

 
など、積極的に意見が投げかけられた。会の最後には阿部知事が、以下のように結び、サミットは閉会した。

 
「山は環境、教育、健康、地域産業の活性化、震災対策などにも大きく影響してくる。これからも山をキーワードとして、切り口にして長野県として様々な取り組みを進めていきたいと考えています。

 
今日は皆さんから教えられることがたくさんあり、同時にやるべきことがたくさんあるこということを実感することができました。学生からの提案の具体化を含め、これから積極的に取り組みたいと思います。皆さん、ありがとうございました!」

  • speaker野口 健

    登山家

    1973年、アメリカ・ボストン生まれ。99年3度目の挑戦でエベレストの登頂に成功し、7大陸最高峰世界最年少記録を25歳で樹立。その後、以前から気にかけていたエベレストのゴミ問題を解決するため、4年連続で世界各国の登山家たちと清掃活動に尽力。2000年からは「富士山が変われば日本が変わる」をスローガンに富士山清掃活動を開始するなど様々な活動を展開する。

  • speaker山口 孝

    ㈱涸沢ヒュッテ代表取締役、北アルプス南部地区山岳遭難防止対策協会救助隊長

    1947年、東京都生まれ。中学生の頃から北アルプス・穂高連峰などへ通い続け、2001年から涸沢ヒュッテ代表取締役。07年からは北アルプス南部地区山岳遭難救助隊長を務める。

  • speaker仲川 希良

    モデル、フィールドナビゲーター

    登山歴は6年。里山から雪山まで幅広く山を親しむ。モデルとして雑誌、広告などで活躍しているほか、テレビやラジオなど幅広いメディアで自らが感じた自然の魅力を伝えている。

  • speaker阿部 守一

    長野県知事

    1960年、東京都生まれ。東京大学法学部卒業。長野県副知事、横浜市副市長などを経て、2010年長野県知事選で初当選。現在、2期目の長野県政を担う。

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